告白目撃事件

「はぁ」

今日は朝からため息しか出ない。山田教授と話をしてから1日がたった。なぜ俳優になりたいのか書いてこいと言われ、悩みまくって書いてきた論文を大学に持っていくために今俺は大学に向かっている。昨日は、演技の練習だなんてどうすればいいんだっとずっと考えていたせいで何もしていない。夕方、花奈が家に遊びに来たが、俺がずっとボーッとしていたせいで暇になって帰って行った気がする。やばい、お題なしの演技の勉強だなんて…分からんし!!!山田教授は公平に選んでくれる人にしたっていうけど、山田教授に頼まれたのに松江さんを選ばず、俺を選ぶ人なんていないと思うし!!!んもぅ!この1件で山田教授のことが嫌いになりそうだ…。俺は論文しか入っていない軽い鞄に視線を落とした。

「空くん、おはよーっ!!!」

すると、後ろから元気な声が聞こえた。寝不足の頭がガンガンする。この声は花奈だ。うるせぇ。

「ん、おはよ」

俺が振り向きもせずに言うと、花奈は拗ねてムゥっと頬を膨らませた。

「おはようくらい顔を見て言ったらどうなの!?今日は私が朝寝坊して空くんの家行けなかったけど、昨日もずっとボー-ッとしてたよね!?腹立つんだけどぉ!!」

いや、眠いんだって。

「朝。近所迷惑。黙れ」

リズミカルにそう言うと、花奈はサルみたいにキイキイ言い出した。これだから女子はめんどくせぇんだよ…。でも、今の三拍子は俺が気に入ったからこれからも使おうっと。

「もーっ。空くんは子供なんだからぁ!…って真央!おっはよ!」

花奈が笑顔で俺の数歩前に歩いて行った。前を歩いていたのは真央だ。今日は髪の毛をクルンクルンに巻いておろしている。ギャルメイクで、まつ毛なんてすっごいことになってる。唇も真っ赤だ。

「おはよう、花奈。あ、空斗も。」

「おい、ついでみたいに言うなよ。」

俺がご丁寧に突っ込んであげたのに、真央が無視しやがった。チッ。

「真央、今日ギャルだー。チョー可愛い!」

これが可愛いのか…。女子の好みはいつになっても分からないものだ。花奈は真央の髪の毛をいじり始めた。楽しそうで何よりである。

「ガッコー終わったら彼氏とデート行くから。」

真央の『彼氏』の発音が、『れ』のところでちょっと上がっていてウザい。花奈と俺と真央はそんな感じでのんびりと大学に向かったのであった。


1時間後

「分かった。風間くんは本気なんだな。」

山田教授に論文を渡すと、彼はにこりと笑ってそう言った。そこまでのことは書いていないが…、まぁいい。とりあえず、これでよく俳優になりたいと言ったなっと怒られるよりは良かった。俺は頭を下げてから職員室を出た。

「ふぅ。」

もう大学には用なしだ。家に帰って午後のバイトの時間まで寝るとするか。俺は大きくあくびをしてから鞄を肩にかけた。喉が渇いたから昨日の体育館裏の自販機でジュースでも買って帰ろっかな(なぜか体育館裏の自販機が1番種類が豊富だから)。


ガコン

自販機から、栄養ドリンクが元気に落ちる音がした。この音、俺好きだなぁ。そんなことを思っていた時だった。

「好きです!!!」

勇気を出して言ったのだろう、緊張した声が聞こえてきた。俺は体育館裏にいるが、この声は俺が来るときに通った裏庭から聞こえてきた。どうやら告白のようだ。強い明るい声が、クラスのとっしー(俊哉くん)を思わせた。前兆だろうか。とっしーには好きな人がいたのか。めんどくさいことに巻き込まれたなぁと思いながら栄養ドリンクのフタをゆっくり開けた。小さくプシュッといった。帰りたいけど、帰り道には彼らがいる。しょうがないから盗み聞きしながらこれでも飲んでいよう。

「僕と付き合ってください!!!」

ありきたりの必死な愛の告白は、野球部の掛け声みたいだ。冷静にこんなことを考えているなんて最低っと思われるかもしれないが、よく知らない人たちの告白なのだ。しょうがねぇだろ。

「ごめんなさい。」

そこから聞こえたおびえるようなか弱い声は、聞きなじみのあるものだった。それは毎日聞いている…花奈ぁぁぁぁぁ!!!???全然『知らない人』じゃなかったぁぁぁぁ!!!え、とっしーって花奈のことが好きだったの!?

「なんで?!僕じゃダメですか?何がダメなの?僕は花奈ちゃんを幸せにできるよ!」

幸せって…大袈裟な。俺は振られてやんの~と思いながらちょっとホッとしていた。花奈がクラスの人気者であるとっしーと付き合って、幸せそうに手をつなぐ姿が容易に想像できたから。

「ごめんね、俊哉くんとは付き合えないかな。」

「なんでだよっ…!」

「…なんで理由を説明しなくちゃいけないのぉ?教えて?」

花奈の甘~い声には、イライラが滲み出ていた。とっしーには分からなかっただろう。これが幼馴染の力だ。とっしーは聞くのを諦めたようだ。

「花奈ちゃん、風間空斗とは幼馴染なんだよな?」

「そうだよ。」

「あいつといつも登下校してんの?」

「う~ん、たまにね。家が近くだから。」

「約束して行ったりすんのかよ?あんなバカと?」

「もちろん。一緒にご飯食べたりすることがあるし。毎日遊んでるよ~。」

花奈、余計なことは答えないで…!俺がとっしーにボコされる!

「空くんは大切な幼馴染だからね。」

花奈は負けず嫌いだ。俺がかなりバカにされていることに気づいてイライラしてる。言葉に棘があって、わざと俺に嫉妬するようなことを言ってる…!

「空斗といて、なんか楽しいの?あんな根暗と。」

「めっちゃ楽しい!」

「家が近いだけだろ。俺がこれから家まで向かいに行ってやるけど。」

うぅ…。『僕』から『俺』に変わってるし…!怖い怖い怖い!花奈の声も優しそうに見えてめっちゃ怒った暗い声してるし!

「えぇー?そんなの俊哉くんに悪いよぉ~。」

チラリと花奈ととっしーを見ると、花奈…目が笑っていない。とっしーは不機嫌そうにポケットに手を突っ込んでいる…。こえー――!!!

「いいって。あんなクズみたいな奴なんかに花奈ちゃんを任せたらダメだぜ。」

「あ?『クズみたいな奴』ってなんだよ。てめぇ。」

ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!花奈が『あ?』『てめぇ。』って言っちゃったぁ!!!とっしー!!!花奈に変わって謝りますぅ!!!ごめんなさいぃぃ!!!

「……花奈…ちゃん?」

あのとっしーに心配されてるじゃないかぁ!!!やめてくれぇ!

「あっ、ごめ~ん。今日のところは帰ろっか。空くんは俊哉くんより優しいから、登下校中のことは安心してね♡」

ぐぅ…、花奈お得意の男垂らし…。語尾にハートついてるし。とっしーより俺の方が優しいって…、やっぱりやばいこと言っていないか!?!?今度とっしーに会う時が怖すぎる…。

「んー、告白の返事、待ってるから。そうだ、花奈ちゃんのこと、これから『花奈』って呼んでもいい?」

「うふふ、ダメ。あと、告白の答えもNGだからね♪」

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!?!?何言ってんだよぉぉぉ!そのくらい別にいいだろぉぉぉ!?

「じゃ、帰るね。またね~。」

花奈がそう言って去って行った。…舌打ちをするとっしーを残して。

「………。」

俺は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。

                   <第11話目おしまい>
















































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る