そんなことって、ありますぅ!?
「俺は期待されていると思うんです。でも、それが今の俺には重荷で…。自分でやりたいことをやりたいんです。」
山田教授が体育館裏の階段に缶コーヒーを片手に座っているなんておかしな光景だ。いつもだったらのんきに笑っていたことだろう。でも今はそんな暇はない。
「……そうか。」
山田教授が難しい顔をして缶コーヒーをすすった。…会話が途切れる。山田教授が缶コーヒーの裏を無意味に眺めた。俺は俯く。バレてしまったからには全力で言ったつもりだ。ずいぶん説得力がない話し方だったと思うけど…。花奈がいたらバカにしたように笑うだろうなぁ。
「風間くんは、本気で演技がしたいのかね?」
「えっ。し、したいです…。」
俺は、君は他のことをするべきだ…とかなんとか言われると身構えていたのでびっくりした。慌てて答えると、山田教授が俺の目をしっかり見てからこう言った。
「風間くんがそう考えるのならば…、しょうがない。風間くんは素晴らしい人材だから、自信を持って良い職業についてほしかった…というのが本音だがね。」
俺は曖昧にうなずいた。山田教授はやっぱりエリートになってほしかったんだよなぁ。
「うむ…。まぁ、生徒の夢を応援するのが私の仕事だ。風間くんが本気ならば私が否定するようなことはしないよ。」
えっ…、本当ですか!?山田教授は良い先生だから、俺の夢を応援してくれるんだ…。
「ありがとうございます!…でも、このことを、高井教授に言ったり…するんですよね?」
俺は恐る恐るそう聞いた。高井教授なんて人の心がない、給料のために働いているだけのヤツなんだから、俺の夢に反対するに決まっている。自分の育てた生徒の行く会社にだけは細かいからな。
「ハッハッハッ、担任に言わないはずがないだろう?」
「えっ!あ、あの。言わないっていう選択肢はあるんでしょうか…?」
「…何故そんなにこだわるのかね?」
「………いえ。」
「しょうがない、君が演技について真剣に考えているのか、きちんと審査しようではないか。」
「へ?」
山田教授がいきなりそんな変なことを言い出した。
「私の妹がね、実は女優なんだ。たまにテレビに出ているんだけど、照れ屋だから演技が本当に上手なことが証明できていない。彼女と演技の勝負をしないか?君が勝ったら高井くんにも言わないであげるよ。」
へ?へ?へ?つまり、女優と演技の対決をして、高井教授に言うか言わないかが決まるってことぉ!?初心者の俺と、プロの女優がぁ!?
「なんでそうなるんですか!!!」
「妹の名前は、佐藤松江(さとうまつえ)というのだが、知っているかな?私のことが大好きだから、私が頼めばたぶんいいって言ってくれるよ。」
俺の悲鳴に近い叫びを無視して山田教授は話し出した。…ってか、佐藤松江…、知らねー。誰だよその人。山田教授は相当松江さんのことが好きらしいしなぁ。ここで知りませんっていうのもどうかな…。
「…聞いたことはあります。」
「おぉ!嬉しいな!松江、今日はお赤飯だ!ならば決まりだ!風間くんの全力を見るためにやっているわけだから練習もしておけよ。お題はそこで考えるから、どんなものでも演技出来るようにしておけばいいだろう。例えばだが…『何もないところで転んでしまって、気まずくなる』というお題があったら、その演技をする。それだけだよ。」
「……。」
山田教授のマイペースな性格も、段々めんどくさくなってしまった気がする…。お赤飯って…。しかもそれより。お題なしの練習って何やるんだよぉぉぉ!!!
「審査員は私が準備しておくから、安心してくれ。私が信用している生徒が2人いるんだ。」
山田教授!山田教授?山田教授ぅ!生徒に演技を見られるだなんて最悪だぁぁぁ!
「ってことだから。…おし、戻るか。」
山田教授が腰を上げた。最後に缶コーヒーをグイッとあおり、飲み切ってから自販機に捨てる。山田教授が満足そうだったので…まぁ良かったと思う(?)。
「って、そんなことって、ありますぅ!?」
<第10話目おしまい>
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