バイト先まで来るなぁぁぁぁぁぁ!!!
9時半。
「じゃ、後でね。空くんの働きぶり、楽しみにしてるから!」
花奈が俺の家の玄関に立ってニヤリと笑った。一通り遊び終わって花奈は家に帰るのだ。俺と母さんは玄関まで見送りに来ていた。その時、花奈が俺の11時からのバイトを見に来るだなんて鬼のようなことを、サラリと言いやがった。おいおい、バイトを見に来るのはやめてくれよ!母さんは嬉しそうにうなずいた。良い幼馴染を持ってよかったわね、とでも思っているのだろう。花奈は俺が眉間にしわを寄せているところが面白かったらしく、鈴が転がるようにクスッと笑った。そのたびに長い髪が白い肌にかかる。綺麗だ…ってそれどころじゃなくて!!!花奈ぁぁぁぁぁぁ!『クレクレ―プ』というクレープのお店で働いている俺の仕事の制服はかなり可愛い。女子に人気がある店なんだから仕方がないが…恥ずい俺の気持ちを分かってほしい。ピンク色で漫画家を想像させるようなフリフリのエプロン(男性用でも😢)を着せられるのだ。それを気になっている女子に見られるのだ。これはどんな罰ゲームだ。俺、悪いことしたか?神様、土下座するんで許してください。今日だけ花奈を家に閉じ込めてやってください。愉快そうにバカにしたように笑ってから、花奈は家から出て行った。
「また来てね~~~!」
母さんの機嫌がいい声が玄関にこだました。母さんは流行りの韓国ドラマの主題歌を歌いながらリビングに戻って行った。…バイトの時間まで残り1時間半。地獄のカウントダウンが始まった。
11時、バイトの時間。
接客だけはやめてください…。そう願っていた俺の気持ちも虚しく、簡単に打ち砕かれた。
「えーっと、風間くんはレジをお願い。」
店長が俺に真顔でそう告げた。いつもはクレープに生クリーム塗りたくるだけなのに!なぜこういうときに限って!どうやらレジの先輩が風邪を引いて休むことになったらしい。お願い、レジから外してください。だが俺がこの中で最年少だ。だからそんなこと、口が裂けても言えやしない。
「はい…。」
ふわりと広がるエプロンの裾をギュッと握りしめた。
「あの、店長。今日俺が生クリーム担当…なんて変えることは、できないっすよねぇ…?」
恐る恐る尋ねると、店長は困ったように微笑んで言った。
「うーん…。ごめん、他の子が入ってるからなぁ。事情によっては変わるけど。どうした、風間くん?」
店長に無理なお願いをしていることに気づく。…だめだよな、事情…は大したことないし。
「すいません、迷惑かけて。やっぱりいいです、ごめんなさい。」
不思議そうに俺を見る店長に会釈する。店長がクレープの生地が入った段ボールをムキムキの腕で運んでいくのをボンヤリ眺めながら必死に花奈が来た時のリアクションを考える。
『お前、ガチで来たの?帰れよ。』
みたいな感じで思いっきり顔をしかめるか。ううん、花奈に嫌われたら嫌だしやめよ。
『えー--!ホントに来てくれたの?嬉しい💕』
うん、キモイな。却下。
『おう、花奈。俺、似合ってるだろこの服。』
俺様系男子でドヤ顔するか。いや、そんなこと言ったらそれで似合ってると思ってんの~って爆笑されて反応に困るだけだ。やめよう、うん、やめよ。
「あぁぁ。どうすれば良いのだ、俺様は!」
2年前にハマった漫画のセリフをつぶやいてしまった。近くを通った先輩がジロリと俺を見る。顔が真っ赤になる。間抜けな顔をしていたことだろう、恥ずかしっ。
「風間くん、私休憩入るからあとよろしくねー!」
休憩時間になってやけに明るい顔をした先輩が俺の肩をたたいた。もう時間か。花奈は来てしまうかもしれない。花奈に会えることはいつでも嬉しいけれど、この服の俺を見られるのは嫌だ。先輩に大きく敬礼して笑いを取ってからレジに入る。花奈は…まだいない。だが、若い女性客が列に並んでいる。早く注文を取ってあげなくちゃ。笑顔笑顔!俺はレジに立って1番前に立った、髪を三つ編みにしたお姉さんを見た。そしてグルグルと頭の中を回り続ける悩みを無視し、元気に声をかけた。
「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりですか?」
<第4話おしまい>
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