花奈のすべてに恋してる。<コーンフレーク編>
「空くんママ、天才!」
花奈がモゴモゴ言いながら母さんが作ったカレー卵サンドイッチを頬張った。俺と花奈は母さんが作った朝食を食べていた。母さんはそうかしら、何て言って嬉しそうにしてるけど、昨日の残り物のカレーを卵と炒めてパンにはさんでいるだけである。言うと母さんに、じゃあ作れよって言われそうだから口には出さないけど。
「美味しい~!」
花奈は口をパンパンにしながら目じりを下げる。お腹はすいているんだけど、どうも食べる気にはならない。カレーの次の日には必ず出てくるメニューなのだ。めんどくさがり屋な母さんは1か月に1度は作っている。食べ飽きた。俺が1口かじってお皿に置くと、花奈は不思議そうに首を傾げた。
「にゃんでひゃへないの?」
「口の中をなくしてからしゃべろ」
花奈は10秒ほど口を動かすと、ゴクンッと飲み込んだ。
「なんで食べないの?」
「お腹すいてねぇんだよ」
花奈は顔をしかめた。
「はぁ?空くん、さっきお腹すいたぁって言ってたじゃん」
げ、花奈は覚えていたか…!
「え?言ったっけ」
花奈が知ってるからな、という顔で睨んできた。やべっ。花奈がキレると怖いのにっ!ひぃ。
「空斗、ちゃんと食べなきゃ。これが嫌ならコーンフレークでも食べてなよ」
母さんが(珍しく)花奈のピリッとした感じに気づいたらしい。しょうがなく、という様子でコーンフレークを持ってきてくれた。花奈はコーンフレークと聞くと笑顔で声を上げた。気まぐれ猫…。猫は花奈にピッタリな動物だ。
「私も食べたい!空くんママ、いい?」
「いいわよ。たくさん食べて大きくなってね」
「あはは、私もう大学生だけどー--!背伸びないって」
母さんがふふっと微笑む。確かにね、と笑った母さんは幸せそうだった。交通事故で死んだ父を思い出すたびに泣いていた母さんは、花奈に会ってから元気になっている気がする。夜もちゃんと眠れているし、よく笑うようになった。花奈は自覚がないと思うが、花奈は人を笑顔にする才能を持っている。俺はずっと花奈の性格と笑顔に夢中になっているのだ。俺が静かにコーンフレークを食べながらそんなことを考えながら花奈を見ていると。花奈がザザザァッとコーンフレークの袋を傾けて、盛大にこぼした。あぁもう、お皿を近づけろよバカ。お皿を近くに置いてあげようとすると。
「「あっ」」
俺と花奈の手が触れ合った。母さんはアワアワと落ちたコーンフレークを集めているけれど、俺と花奈の間は音がない世界みたいに静かだった。
「ご、ごめん」
俺が沈黙を破って動き始めると、花奈も気まずそうにうなずきながらカスを集めだした。ねぇ、花奈。花奈はどうして今気まずそうにしたの?俺のこと、嫌い?手が触れたこと、気持ち悪いと思ったりした?キュンってなったりしてくれた?俺は心の中で赤い顔をしている幼馴染に質問した。幼馴染だけど、俺たちの性別が違うのも確かだ。……花奈、ちゃんとこっちを見て?俺のこと、どう思ってる?俺は花奈のためなら死んでもいいって思うくらい君を意識してるよ。…大袈裟?ううん、俺は本気だぜ?
「花奈ちゃん、手洗ってこよっか」
母さんが何度も謝る花奈の背中を優しくなでた。
「うん…。ごめんなさい」
「いいのよ、誰だって失敗はあるわ。ねぇ空斗?」
慌ててうなずく。花奈は優しい母さんと怒らない俺にホッとしたらしく、ありがとうと言って洗面所へ歩いて行った。
10分後。
「ごちそうさまでした!」
花奈は満足げな表情で手を合わせた。花奈、コーンフレークを3杯食べた。さっきの遠慮がちな花奈はどこかへ消えていったようだ。
「ごちそーさま」
俺も無感情でそう言ってからお皿を下げると、花奈がニヤニヤして俺に言った。
「空くん、もしかして1杯しか食べてないのぉ?だから細くてガリガリでモテないんだ~」
…あと少しさっきの遠慮がちな花奈で良かったんだけど。俺は花奈にだけでも好きって言われれば幸せなんだけどなぁ。んだけど、その本人にモテないって言われるのは悲しい。ピエンこえてパオン(花奈が使ってた言葉だから無理して使ってる)である。
「…やっぱ食べる」
俺はコーンフレークをお皿に入れようと思って、下げたお皿を持ってきた。花奈がギョッとして俺を見ている。何やってんのコイツ、って言いたいのだろう。俺は花奈に振り向いてもらいたいんだ。…って、だから何度も言うけど、恥ずッ!
<第3話目おしまい>
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