第41話 甘々な新生活へ
王都での楽しい生活もあっという間に終わりを告げる。モナの安否を確認するために旅立ってから数日、色々なことが起きた。
王都を守るために、中々の戦いをみんなで乗り越えて。悪人以外、誰もが無事に今日を迎えられたことが、私にとって何よりだ。
「モナに毎日食事を用意してくれてたのって、国王様だったんですね」
王都を後にする前、国王様の元へ挨拶ついでに、気になっていたことを確認する。カマをかけるように自信を持って言ってみたが、どうやら当たっていたようで、国王様は返答するのに少しばかり困惑した様子を見せた。
「あはは、バレてしまったか…」
「どうやって、地下へ入れたんですか?」
「催事会場に地下室があっただろう?そこから、あの施設へ入れる抜け穴を作った。勿論、協力者ありきでね」
「……最初からそこに案内してくださいよ」
半ば呆れ気味に言うと、国王様は片手を頭に置き、申し訳なさそうに言った。
「あそこは、少々特殊なものでね。メル…私の妻がそこに眠っていて、彼女の魂が許した者のみが踏み入れる唯一の空間なんだ。死してなお、彼女は魂から溢れ出る僅かな魔力を地上に留まらせ、私に協力してくれた…」
「そういうことでしたか…。メアリーの、お母さんが…」
大切な人の魂が眠っている部屋を利用してまで、国王様はモナの安否を毎日確認していたのか…。
もしかしたら、その部屋が魔族にバレて、最悪荒らされてしまう可能性だって考えていない訳じゃなかっただろう。それでも、国王様は見知った仲でもない獣人の子供を思って、最善の行動をしたのだ。
「妻の眠っている場所を崩すことに抵抗はなかったと言えば噓になる。だが、彼女も許してくれると思ったのだ。他人であろうと、誰かを思い遣り行動する…メルから教わったことを、そして…」
「……??」
「いつの日か、誰かがこの王都にかけられた呪縛を解いてくれる者が現れると、信じてね…」
寂しげな表情でありながら、国王様は真剣な眼差しをこちらへ向ける。
こういう時、私はどういう反応をしていいのか迷ったけど、国王様のとても温かい心・慈愛に満ちた思い遣りに感化されて、気づけば自然と笑みを浮かべていた。
「レアリムは、これからずっと安泰ですね」
「ん、そうかい?」
「だって、こんなに人を思い遣れる国王様がいるんだから」
「アリア君…」
そして最後に、私はもう一つ、引っかかりがあった部分について尋ねる。
「国王様は、どうやってモナの情報を知ったんですか?」
「ああ…とある人物の魔法で、コソコソと話をする魔族に遠くから聞き耳を立てたのだよ。音に関して、非常に長けた能力の持ち主でね。詳細は、口止めされているが…」
「音、口止め…。もしかして…」
「そういえば、
――絶対に嘘をつかない…とね」
それを聞いて私は確信がつき、口角を上げた。
「それだけで、十分ですよ」
◇
いよいよ、王都を出発する時間に。
私たちはお城の前まで持ってきてくれた馬車の前で、みんなと挨拶を交わす。馬車は、衛兵さんがしっかり管理してくれていて、お城にいる間は本当にお世話になった。
「アリア~~~!!また、来てくれるよね!?また、会えるよね~!うわぁぁぁぁん!!」
メアリーは大泣きして、私に抱きつく。この瞬間ばかりは、気が済むまで傍にいてあげよう。
「大丈夫だよ。また、ここにお邪魔するから」
「絶対だよ~!」
「うん」
色々良くしてもらった衛兵さんやメイドさんにも挨拶し、ルナ・ユィリス・モナに続いて馬車に乗り込む。
帰りの手綱を引いてくれるのは、衛兵さん。カギ村に用がある人とはいえ、またもやお世話になってしまって申し訳ない。
「さて…お嬢ちゃんたち、出発するよ」
「あっ、ちょっと待ってください!」
出発の合図をかける衛兵さんを止める。そして私たちの視線は、城の中から全速力で駆けてくる一人の女の子に向けられた。
「まだ
城にいる同業の子たちに挨拶を終え、大きな荷物を抱えながら、彼女は慌ただしく城から飛び出てきた。乱れた深紅のショートヘアと若干曇りを見せる眼鏡が、その様相を呈している。
「お、お待たせしました~!!!」
給仕服を着飾ったまま疾走するメイド。馬車の手前で倒れない程度のスライディングをして、足を止める。
そんなに急がなくても置いていかないのに…と思いつつ、息を切らした彼女に手を差し伸べた。
「さあ、行こ。フラン!」
にっこりと笑った私の顔を視界に入れ、
「アリアさん!!全力で、お供させて貰いますよ!」
「お供しなくていいから…。友達、でしょ?」
「はい!」
フランはずっと探していた。自分が心の底からお給仕したいと思える誰かを…。
まあ、それが私だった訳だけど、最初はそれを理由に付いてくることを否定した。
主とメイド…その言葉一つでも、両者の間に生まれる溝は大きい。
メイドさんのご奉仕を受けるのが、私の憧れではあった。でもそれは、事務的なものだったり、女の子に仕えられたいという瞬間的な願望。一生をかけて奉仕させるなんて、魔王じゃあるまいし、立てられ尽くされはもう勘弁だ。
だから私は言った。
「友達としてなら、一緒にいたいな」
と。
少し戸惑いを見せたものの、私がそれでいいならと一緒に来てくれることになったのだ。
で、それが決まったのはつい先ほどの事。まさか一緒に行けるとは思ってなかったのか、フランは大慌てで準備し始めて今に至る。
「皆さん、お元気で~!!」
「あ~!フランだけず~る~い~!!でも、クビにはしないであげる~!また、いつでも戻ってきてよ~!」
メアリーはむすっとしてフランを睨むも、すぐに笑顔になって送りだす。
急な別れでどうなることやらと思ったが、皆フランが私たちと一緒に行くことに否定はしなかった。本当に温かい心で見送ってくれる。
いい人たちだったな、ほんと。このままずっとここに住んでいたいと思える程に、和やかな場所だった。
馬車が走り出し、私たちは窓から顔を出して手を大きく振る。
「メアリー!じゃあね~!!」
「お世話になったわ!ありがとう!」
「すっごく楽しかったのだ!また来るぞ!」
「おいしいご飯、また食べに来るね~!」
「新しいメイド長によろしくお伝え下さ~い!」
王都レアリム…数多の商業施設が立ち並ぶ、人間界で有名な都市のひとつ――。
城での一件を知らぬまま、人々は変わらず今日を生きている。
しかし救われた者は数知れず。一年に渡る愚かな計画をいとも簡単に打ち滅ぼした少女は、その事実を当事者だけに留め、何事も無かったかのように去っていった。
運命を動かすこの一件。これが人間界、そして魔界にどのような影響を及ぼすのか…。今はまだ、霧に隠れた騒動である。
いつしか露わとなる転生理由。今この瞬間、ここに居る意味を追いながら、少女は胸をときめかせ、女の子との甘々な生活に戻っていった――。
◇
半日をかけてカギ村に戻ってきた私たちは、早速モナをミーニャの元へ案内した。流石にギルドで大騒ぎするわけにはいかないので、裏手の森で二人を会わせることに。
「師匠…」
「ニャ…!?」
約二年ぶりに見る弟子の姿。何も聞かされていなかったミーニャは、我が目を疑うように驚愕する。
モナも、ずっと会いたかった師匠と再会し、ポロポロ…と涙を零さずにはいられなかった。
「師匠~~~!!!」
「ニャ~~~!!!」
ミーニャはモナの胸の中にすっぽり収まって、嬉しそうに鳴く。〝テレパシー〟を使ってないから、どんなことを言ってるのか分からないけど、モナに向けている幸せ満開の笑顔を見たら、言葉以上の感情がこちらにも伝わってきた。
そして、喜びを分かち合った二人は、仲良く揃って私の元へ。ミーニャに促され、テレパシーを使って会話する。
(アリアよ…。本当にありがとうなのにゃ。もう、ニャーはどうお礼を言ったらいいか…)
「いいっていいって。二人の喜んでる笑顔を見たら、こっちまで幸せになるから」
(なんと心優しいのにゃ…。親の代わりに言う。モナを嫁に貰ってくれなのにゃ!)
「なんで…!?」
ミーニャ、いつからモナの親代理になったんだ…?
でも、モナがお嫁さんになってくれたら、毎日すっごく幸せだろうなぁ。まあ、ここ最近は同じベッドで寝たりと、かなり新婚夫婦のような生活を送ってたんだけどね(※アリアのイメージです)。
「もう師匠!アリアちゃんはカッコいいと可愛いの頂点に立つ女の子なんだよ?モナなんかが釣り合うわけないよぉ…」
両手を頬に当てながら、恥じらうようにモナは言った。
この子、普段の私のだらしなさを見たら、どう思うだろうなぁ…。ルナにお世話してもらってる時なんか、特に…。
「良かったわね、ミーニャ、モナ!」
「ふふん!少しは私のおかげなんだぞ!」
「感動の再会ですね…ぐすん」
みんなもこの尊い二人を見てほっこりしながら、それぞれの言葉を並べた。この場にいる全員が無事に依頼を達成し終えたことが、私にとって何よりの報酬だ。
これで今回の一件は全て片付いたし、平和な生活が舞い戻ってきたというもの。まあ、色んな奴らに喧嘩を売ってしまった…というのは、心の片隅に置いておくとしよう。
大事なのは、今こうしてみんなが笑顔でいること。今後もそれを全力で守っていきたい。
◇
そして数日後、私たちの新生活がスタートする。
これからどうするか…。王都にいた頃も話し合ったけど、全員の答えは同じだった。
お城で過ごしていた時の、あの楽しかった日々。それが忘れられなくて、みんな一緒に同じ屋根の下で住みたいと、誰もが口にした。
しかしカギ村には、5人が十分に住めるほどの空き家はない。宿はお金がかかるし、どうせ住むなら新しい住居を建てようという私の提案に対し、ルナが自分の家の改装案を持ちかけた――。
「ルナ、本当にいいの?」
「うん…。ちょっと名残惜しいけど、いつまでも残していてもしょうがないわ。それに親だって、きっと私がしたいことを尊重してくれる…」
村の中では比較的小さな一軒家を前に、ルナは呟く。
ここは嘗て、ルナが両親と共に暮らしていた家。7年もの間、彼女は一人ここで暮らしてきた。
沢山の思い出が詰まった家族の空間。それを変えてしまっていいものかと、私は最後まで問い続けた。
抵抗を感じない訳ではないだろう。でもルナは、今この瞬間、私たちと一緒にいられる幸せが一番大事なのだと、そう真っすぐに言った。
「分かった。じゃあ、始めるね…」
両手をゆっくり前に突き出し、目を閉じて、意識を集中させる。数日間、森やお店から調達した資材・材料に魔力を与え、〝建築魔法〟を開始した。
生活に必要な空間、設備、部屋。そして、みんなの要望を全て取り入れた、近隣に影響を及ぼさない程度の大きさをイメージする。
「〝
物質を一旦魔力に変え、素材に宿るエネルギーを凝縮。それを一点に…嘗てのルナの家へと集約させた。
住めればいいやと、適当に生み出した魔王城や
魔法というのは、何かを壊すことは簡単だが、一から何かを作り上げようとすればするほど、高度な技術と能力が必要になる。完璧にするなら猶更だ。
少し不安が残るものの、自分のセンスを信じて構築した。眩い光が周囲を覆い、みんなが目を細める。
徐々に無色透明な輝きは失われ、私たちの視界に映し出されたのは、割と大きめな邸宅だった。
「え…!すごっ!!?」
「そ、想像以上なのだ…」
「うわぁ!豪邸です~!」
「こんなにあっさりと!?」
て言っても、作り上げるのに数十分はかかったと思う。額に滲ませた汗を拭いながら、みんなの喜ぶ姿にほっと胸を撫で下ろした。
魔力と創造をフルに使った渾身の力作。腰から崩れ落ちそうになる私の体を、ルナが抱きかかえてくれた。
「ふぅ、ありがとう…ルナ」
「凄いわ、アリア!親も、きっと喜んでると思う。こんなに豪勢に、賑やかな場所にしてくれて…。本当に、ありがとう」
いつも以上に幸せそうな笑顔を向けられ、私も微笑む。
ずっと一人で寂しかったって、ルナは言ってた。家族の代わりに…なんて軽々しくは言えないけど、これから寂しさなんて微塵も感じさせない程に、ルナと、そしてみんなと楽しく暮らしていきたいな。
(私ね、今すっごく幸せだよ。こんなに優しくて凄い友達に囲まれて、これからの生活が楽しみで仕方ないの…。だからね、もう心配いらないよ。後は、天国で見守っててね。パパ、ママ……)
天を仰ぎ、ルナは心の中で語り掛ける。後悔や悲しさのない、満開の笑顔で…。
「私が一番に入るのだ~!!」
「あっ、抜け駆けはダメですよ、ユィリスさん!みんなで入りましょうよ~」
「師匠にも早く知らせたいよ~!」
転生してから、そう月日が経たないうちに、気づけば私の周りにはこんなにも幸せが溢れていた。
こんな世界だし、楽しいことだけでなく、これから色々困難や試練が振りかかってくるのかもしれない。
それでも私は誓う。
どんなに辛いことが起ころうと、この場に溢れる幸せだけは、絶対に守り抜くと。
だって、私は元世界一の強さを持った魔王だもん。
今なら、自信を持って前世の称号を誇りに思える。
誰かを思い、誰かを救うために、そして誰かの笑顔を守るために…。嘗ての私じゃ絶対に思わなかった、その戦う理由を心に刻み込み、人間らしく、自由に生きていこう。
勿論、女の子との関りも重要になってくる。少しずつ慣れてきたし、女の子との〝恋〟について、考え始めてもいいのかなぁ…なんてのろけたり。
とにかく、今ある環境を大事に、精一杯第二の人生を生きていこう。
「ねえ、ルナ…」
「うん?」
「私、今すっごく幸せだよ~。えへへ…」
「ふふっ、私もよ。というか、今の笑顔可愛すぎ…」
「え…!?///」
新たな物語へ…。甘々な生活は、まだ始まったばかりなのだから…。
第二章 王都レアリムでの一件 完
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