第40話 メイドカフェア、開店です!!後編

「美味しくな~れ、萌えっとキュン!!」


 料理におまじないをかけるメイドさん。こんなのを間近でされたら、心がキュンキュンするに違いない。


「メイドさん、最高~~!!!」

「みんな可愛いぜ~!!」


 なんて、男性陣の声があちこちから聞こえてくる。

 時折ルナもそんな風に言われてるものの、直接絡まれてはいないようで、そこは安心。しかし問題は私の方だった。


「アリアちゃん、メイド姿可愛いね~。終わったら、俺と一緒にデートしない?勿論、そのメイド姿でね」


 派手な見た目の男が、店の前で棒立ちしていた私に声を掛けてくる。

 今時の人間の女の子は、こんな奇抜な格好の男が好きなのかなぁ。私にはよく分からない世界だ。

 少なくとも、カッコよくはない…。ダサいと口から出そうになるのを堪え、ニコッと笑顔を向けて言ってやった。


「お帰りくださいませ」

「え…?い、今なんて?よく、聞こえなかったんだけど…」

「お・か・え・り・く・だ・さ・い・ま・せ、ご主人様!」

「ひっ…!?」


 ゴゴゴゴ…と、笑顔の裏に隠しきれない程のオーラを視覚化し、膨大な圧を振りかける。

 男なんかに用はない。そんな本音を具現化したような恐怖を与えると、派手な男は「失礼しました~!!」とか言って走り去っていった。


「全く…もうちょっとマシな誘い文句はないのかなぁ」

 

 あったとしても、興味ないけど。

 ふむ、そうだ…私がここに立って、お客さんの厳選をすればいい。明らかに下心丸出しで来店してくる輩は、店前で追い返してやろう。

 そうすれば、少しは中にいるメイドさんも働きやすくなる。


「よっと!メイド特製、カラメロプリンなのだ!」


 ユィリスは魔力を使い、出来上がった料理を宙に浮かせて運んでいた。

 一気に複数の料理をいっぺんに運べるから、それはありがたいんだけど、本人がただ楽をしたいがためにやってるのが何とも…。

 ユィリスって、魔力の使い方が上手いんだよなぁ。三番勝負の時も、サラッと結界生み出してたし。

 性格や言動に惑わされるけど、ユィリスって実は天才なのでは…?


「メイドさ~ん!お水いただける~?」

「はいは~い!ただいま~!」


 まるでウェイトレスのように、片手におぼんを持ち、器用に運ぶルナ。その姿に魅了される女性も少なくない(その内の一人は私だ)。

 そんなこんなで前半シフトは終わり、裏方のメイドさんたちと交代の時間になった。


「フラン、モナ!交代だよ~!」


 前半シフトでは、お皿洗いや料理の下準備をしていたフランとモナ。私が声を掛けると、二人とも待ってましたと言わんばかりに反応する。


「ふっふっふ…ようやく私の出番ですね!」

「モナ、頑張っちゃうよ~!!」


 後半シフトが始まり、二人がホールに出向くと、店内のボルテージは最高潮に達した。


「うお!あれ、獣人のメイドさんじゃん!!」

「キャー!!かわいい~~!!」


 お客さんの殆どが、珍しいモナのメイド姿に興奮しだす。猫耳と尻尾は破壊力があり過ぎて、反則レベルだ。


「そ、そんなにいいかな…にぃへへ~」


 人差し指で頬を掻きながら照れる仕草に、またも歓声が上がった。老若男女問わず、指名が次々にかかる。

 そんなモナとは対照的に、眼鏡を曇らせて、どんよりとした様子のメイド長。


「どうせ、眼鏡の私に需要はないんですよ…」


 と呟きながら、淡々と料理を運んでいた。

 裏方からこっそり様子を見ていると、お客さんはモナにしか目がいってないようで、テキパキとホールのメイドさんたちに指示を出すフランには、見向きもしていない。熱心に仕事をしているものの、注目されてなくて、眼鏡の奥が徐々に影を帯びてきている。

 本職にも拘らず、指名が一つも入らない。フランの落ち込みようが、こちらにも伝わってきた。


「ん~、モナが人気過ぎて…。どうにかならないかなぁ」


 トボトボと店内を歩くフランは、足元を気にしていなかったのか、つま先を空いていたテーブルに引っ掛けて前のめりに倒れてしまう。

 

「うわぁ!!」


 その拍子に、持っていたグラスを落としてしまい、すぐに店内の注目を浴びる。マズい…!と助けに向かった私は、なぜかホールの空気が一瞬にして変わったことに気づいた。


「ああ、もう…最悪ですぅ。眼鏡眼鏡…」


 転んだときに外れた眼鏡を探すフラン。そんな彼女の表情に、私もお客さんも衝撃を受けた。



 ――か、かか…かわいい!!!



 ポッ…とお客さんの頬がほんのり赤くなる。

 眼鏡をかけていた時の彼女とはまるで別人。そのギャップも相まって、隠された美少女の素顔が皆の心を奮い立たせた。


「め、メイド長指名します!!」

「ちょ!俺が先に言おうとしたのに!」

「次、こっちお願いします~!」


 不幸中の不幸以上の幸い。フランの素顔を目の当たりにしたお客さんが、我先にと指名を入れ始める。


「え~~!いきなりどうしたんですか!?皆さん!」


 ふ、フランって、眼鏡外すとこんな可愛かったんだ…。いや、眼鏡かけてる時も可愛いんだけど、それを軽く超越しているというか…。

 

「びっくりした~。もうずっと眼鏡外したままでいいよ…フラン」


 こんなの見せられたら、誰だってイチコロだ。 

 何が何だか分かっていないフランだが、指名を受けて嬉しそうに仕事を再開する。 

 いつも通りに戻ってくれて良かったよ。さて、私も裏方に戻ろ…。

 すると次の瞬間、


「待って、アリア!私からの指名、受けてもらうよ~~!!」


 聞き覚えのある歓楽に溢れた声。後ろから盛大に呼ばれ、振り返ると、そこにはメイド服を可憐に着飾った司令塔の姿があった。


「メアリー、お仕事早めに終わったんだね!」

「そうそう!早く仕方ないんだから~!!」


 メアリーも一緒にメイドをやる予定だったけど、今日の朝、国王様が知恵熱を出してしまい、急遽彼女が代理で国王の仕事をすることに。父親思いのメアリーは、仕事が一段落するまで来れないと言ってたが、早く仕事が片付いたようで、これなら今すぐにでも始められそうだ。

 メイドカフェアのもう一つのイベント。それは、店内を更に盛り上げるメイドさんの熱き歌声。

 メアリーがどうしても私と思い出を作りたいと、二人で簡単な歌を披露する計画を立てていた。


「見て見て!衛兵を募って、音楽団を編成したんだ~!」


 彼女の後ろには、タキシードを着飾った屈強な衛兵が数名。それぞれ、渋々と楽器を持たされている。


「そ、そんな本格的にしなくても…」

「だって、一生に一度の思い出になるかもしれないんだもん!私ね、すっごく感謝してるんだから!アリアとの、奇跡の出会いにね!」

「もう、大げさなんだから。ちょっと待ってて、ルナたちも呼んでくるから」


 みんなをホールに呼んで、ステージの準備をする。今から何が始まるのかと、店外にはこれ以上ない人だかりができていた。

 店内の特設ステージにて、楽器を持った衛兵をバックに、私たちは並んで魔力の塊を生成。それを口元に持っていき、声を反響させる。


「みんな~!!少しの間、私とアリアの歌を聞いていってね~!!吟遊詩人顔負けの歌を届けるからね~!!」

「ちょ…!ハードル上げないで…!」


 歌にはあまり自信はないけど、昨日遅くまでメアリーと練習したし、なんとかなると思いたい。

 みんなが見てる中、少し緊張が走る。でも、この緊張は魔王の頃には味わえなかったもの。

 とにかく楽しむ…自分でそう言ったんだ。何も考えず、メアリーのように自由に歌おう!


「じゃあ、いくよ!〝奇跡の出会いに〟!!」


 ギターの伴奏が始まり、即席で創作した曲〝奇跡の出会いに〟が流れ始めた。次にドラム、キーボードがイントロを盛り上げていく。

 衛兵さん、凄いな…。完璧な音源を提供してくれている。

 そしてメアリーと目を合わせ、魔力を手に歌い出した――。



 ………

 ……

 …



 メイド二人が織りなす、自由とファンタジーの世界…って言うのは大げさだけど、そんな感じをテーマにメアリーが歌詞を書いてくれた。

 運命と奇跡が、私とメアリーを引き合わせてくれたのだと、ずっと言ってたっけ。この楽しい思い出は、今後もずっと心に刻まれること間違いなしだ。

 

「いい曲ね…」

「アリアの奴、歌も完ぺきなのだ」

「聞き惚れます…」

「二人とも、歌うまいよ~」


 お客さんの心を掴む歌詞とメロディ。私が指パッチンすると、店内にキラキラとした宝石のような魔力が舞い散る。私なりのアドリブだ。

 そんな私たちの歌を、影ながら耳を澄ませ、聞き入る少女が一人。


「ふふ、良いっスね…。おっと、つい口調が…」


 目を閉じ、聞き惚れる様子を見せ、魔法で生歌を録音する。桃色の髪を邪魔そうに耳にかけながら、彼女はニヤリと笑った。


「いい歌だね、アリアちゃん」


 



     ◇





 その後は、特にハプニングもなく、無事にメイドカフェアは終わりを迎えた。忙しくはあったけど、過去一の集客と盛り上がりを見せたそうで、今回の催しは大成功と言っていいだろう。

 全てが片付き、裏方に集まって、みんなでイベント成功を祝して乾杯する。



「「「かんぱーい!!」」」



 と言っても、飲むのは子供用のジュース。お酒を嗜めるのは、大人のメイドさんだけだ。

 余ったケーキやスイーツといった賄をご馳走になり、最後の最後まで、とても幸せな時間が続いた。

 一人じゃ絶対に味わえない、この感動と幸福感。人間に転生し、この感情を与えてくれた誰かに全力で感謝したい。

 この場に溢れる幸せそうなみんなの笑顔。それが守れただけで、私は何ものにも代えがたい素敵なプレゼントを貰えたのだと、今一度転生した喜びを噛みしめていた…。

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