第39話 メイドカフェア、開店です!!前編
王都の命運を賭けた戦いから二日後――。
人間界が誇る二大王都の一つ…レアリムは、相も変わらず人々の活気で溢れている。先日行われた城での戦いを知らぬまま。
「ん、ん~~~!」
今日も、窓から差し込む朝日が起床の合図。大きな欠伸をしたまま、伸びをする。
少し下腹部に重みを感じ、そばに目をやると、私の腰回りを両手でガッチリ掴みながら、器用にすやすや眠る獣人の女の子が寝ぼけ眼に飛び込んできた。
「も、モナ…!?また私に抱きついて…」
「ふにゃ~、もう食べれないよ~」
そんなあるあるの寝言と一緒に、私の匂いをすんすんと嗅いでいるモナ。一体、どんな夢を見ているのだろう。
凄く、幸せそう。
「お耳、撫でちゃお」
歪な形になってしまっている方の耳を少し撫でる。毛並みが綺麗に整われ、ぬいぐるみのように柔らかい。
形がずっとこのままだったから、すぐに治すのは難しいけど、いつか元通りにしてあげられたらと思う。本人はそこまで気にしていないのが幸いだ。
「はにゃ~、くしゅぐったいよ~…」
はぁぁぁぁ!!もう、可愛い!!はい、癒し!
名残惜しいけど、ごめんねと一言言って、ベッドから降りる。
この二日間、眠る時だけ、私はモナと二人きりで過ごしていた。城の一室は、ベッドが最大で三つまでしかなく、モナとは私が一緒についていた方がいいだろうという判断に至ったからだ。
決して、疾しい気持ちで一緒に寝てた訳ではない、うん。
窓を開け、王都の朝を眺める。
戦いが終わってから、色々あったなぁ。
先ずは、魔族の残党共の処罰について。奴らは親玉であるヴァイスがやられ、揃いも揃って城から逃走を試みた。
しかし私が事前に張っておいた結界にぶち当たり、ものの見事に麻痺して落下。地下施設にいる同種も合わせ、衛兵さんたちと一緒に捕らえて回った。
処罰はヴァイスと同様、一生を地下で過ごしてもらうこと。国王様は、労働力の足しにはなるだろうからと、鎖を付けたまま働かせるとも言っていた。
メアリーは、前以上に自由に楽しく毎日を過ごしているようで、衛兵へのしごきが日々激しさを増している。何でも、司令塔の後継者を育成するためなんだとか。
その反面、仕事が忙しい国王様には常に甘え、構ってもらいたくて邪魔してしまう程。その度に私が遊び相手になってるんだけど…。
そんなこんなで、今日まで私たちは平和な時を過ごしている。王都での生活も、一旦は今日、明日で最後だと思うと名残惜しい。
今日は王都での一大イベント。みんなで楽しみ、明日には村へ帰る予定だ。
そのイベントというのが…。
すると、部屋の扉が勢いよく開かれ、朝っぱらから自由っ子が中に入ってくる。
「アリア!今日はメイドカフェアの日なのだ!早く準備するぞ~!」
「ノックくらいしてくれてもいいのに…」
そう、ユィリスが言った通り、今日は王都のメイドが集結してカフェを開く催し、メイドカフェアの日だ。
フランと約束してたし、このイベントが終わるまでは帰れないだろう。
「おはようなのだ~!モナ!」
ユィリスはモナを見るや否や、思いっきりベッドにダイブする。まだ寝てるというのに、この子は…。
「ふにゃ!ん~、ユィリスちゃん朝から元気だね~」
目を擦りながら、ユィリスに覆いかぶされたモナは、ふにゃふにゃな声で言った。
可愛い女の子同士の絡み…うん、いい!!…って、フランみたいなこと考えてるな、私。あの子の気持ちが少し分かったかも。
「みんな起きてるわね。メニューの確認と接客のおさらいをしないといけないから、すぐに支度お願い!」
部屋の入り口からルナが顔を出し、準備を促す。
開店は二時間後。朝食を食べて、全員メイド服に身を包んだ。
ちなみに、私たちが参加するならと、モナも一緒にやりたいと言ってくれた。獣人のメイドさんなんて貴重だから、みんな楽しみにしてくれるだろう。
「変じゃ、ないかな…」
試着室で鏡と睨めっこする。
メイド服自体は、普段お城でフランが着ているものと同じだが、如何せん私には胸がない。こんな子供みたいな体型の私が着ても、似合わないんじゃないかと考えてしまう。
そんなことを思っていると、後ろの閉めてあるカーテンからルナが覗いてきた。
「アリア、着替えた~?」
「うひゃあ!ルナ!?」
静けさの中、いきなり背中に話しかけられ、軽く驚いてしまった。
「あ、ごめん。まだ着替え中だった?」
「い、いや…もう終わったけど」
「けど?」
「うぅ、その…変じゃないかなって」
胸の辺りを隠すように恥じらう私を見て、ルナは口元を綻ばせる。そのまま試着室の中に入ってきて、私の髪に触れ始めた。
「それ、アリアが気にするの?私からしたら、軽い皮肉に聞こえちゃうな~」
「あ、いや…そんなつもりで言ったんじゃ――」
ルナに至近距離で毛先を撫でるように指で転がされ、ドキドキが止まらなくなる。
こんな密室で、メイド服姿のルナと二人きり。もう、ダメかもしれない…。
美少女とは、この事を言うのだろう。
足が細くて、柔らかい体つき。スタイルも良くて、毛先がクルッと巻かれているストレートの茶髪は、甘い香りも相まって、艶やかで凄く綺麗だ。
ほんと、ルナはどこまで可愛くなるのか…。
「冗談よ。ふふ、変な心配しなくてもいいの。アリアは、何着ても可愛いんだから」
「――っ!!?」
「ほら、行くよ」
「あっ、待って…」
「ん??」
心をキュンと掴まれた言葉に、頬を赤く染め上げる。そのまま手を引いて、外に連れ出そうとするルナに、私からも一言。
「ルナも、その…すっごく似合ってて可愛い…よ?」
「そう?ふふ、ありがと」
ルナはいつもの調子で、軽くお礼を言った。
そして、私たちは既にメイド服を着飾っていたみんなと合流する。
「やっと来たのだ、アリア!」
「い、いい!いいですよ~!お二人ともすっごくお似合いです!!」
「二人とも可愛いよ~!!」
みんなのメイド姿も、本当に可愛いな…。見惚れちゃう。
小柄なユィリスは、いつも着ている短パンからスカートにシフト。そのギャップが、もう溜まらなく可愛い。
普段フリフリのものを付けたがらない性格をしてるユィリスだからこその破壊力。瞳の輝きが全身に乗り移ったのではないかと思わされるくらい、風光明媚な容姿を前面に出している。
純粋無垢なモナは、カチューシャの横からぴょこっと生えた猫耳と、スカートの中からフリフリとさせた尻尾が、もう『
メイド長のフランは、相変わらずの貫禄ある姿。背が高くて胸も程よく大きくて、まさに憧れのメイドさんだ。
笑顔も接客もそつなくこなし、可愛いというよりも美しく華やか。気さくに話しているのに、それを感じさせないのがフランの魅力だろう。
そんなメイドさんたちに囲まれて、私の心は幸せでいっぱいになる。あの私が、こんなに可愛い女の子たちに囲まれながら、今からメイドのお仕事をするのだから。
前世じゃ絶対に考えられなかった光景だよ、これは。もうね、最高ですよ!!
「それでは皆さん、手を重ねてください!」
「お、円陣ってやつだな」
五人揃って、開店前の気合入れ。円になって、みんなで手を重ねた。
「じゃあ、アリア。一言、お願い!」
「え?」
「頑張って、アリアちゃん!」
みんなが期待の眼差しをこちらに向けてくる。
こういうのって、リーダー的な存在の人がやるんじゃないの…?(←リーダーの自覚なし)
どうしよう。でも、かたっ苦しくする場面でもないよね。
いつも通りの私で、みんなに声を掛けた。
「初めてだし、どうなるか分からないけど、とにかく楽しんでいこう~!!」
「「「お~~!!!」」」
◇
会場は、レアリム北の城下町にある喫茶店。
普段は年季の入った洋風の雰囲気が漂う店内が、ポップな飾りつけとピンク色を基調とした内装に仕上がっている。料理の香りが外にまで広がり、周囲は軽くお祭り騒ぎだ。
何といっても、今日は年に一度の癒し枠。王都中…いや、都外からも噂を聞きつけ、男性も女性もその可憐な姿と萌える接客に心を動かされに来る、そんなレアリム屈指の大イベント。
――メイドカフェア、開店!!
「うお~!すっごい並んでるのだ!」
「皆さんがメイドをやるという事で、今日は大盛り上がりですよ~」
「いや、多分殆どがアリア目的なんじゃ…」
「なんで…!?」
なぜか他のメイドさんも、今日ばかりは私をメイド長のように扱い、慕ってくる。待ちに待ったお客さんに、開店の合図をするのを任されてしまった。
なんで、私が…。今日は裏方の仕事のはずじゃ…。
と、渋々入り口の扉を開ける。その瞬間、お客さんから歓声が上がり始めた。
「うお!あれが、七大悪魔を倒したという…」
「アリア!アリアちゃんだよ!」
「かっわいい~~~!!」
「黒髪ロングのメイドさん…いい!!」
みんな、そんなに私の事知ってるんだ…。って、広めたの誰よ!!?
あまりに褒められるから、少しだけ照れてしまう(主に女性からの激励)。そんな私の恥じらいに、またも店外が湧く。
「そ、それでは、メイドカフェア…開店です!!」
王都中に響き渡る大歓声。それを聞きつけ、みんな持ち場につく。
「練習した通りにいくわよ!」
「ふふん!任せるのだ!」
接客と言っても、私たちの仕事は料理の下準備や出来上がった料理を運ぶこと。萌え萌え~な方の接客は、他のメイドさんがやる手筈になっている。
指名を受けなければの話だが…。
「お帰りなさいませ、ご主人様!お嬢様!」
フラン以外のメイドさんは、毎年やっているのもあって、お客さんの迎え入れが凄く上手い。二日練習した程度の私たちには、絶対に真似出来ないものだ。
私の前半シフトは、宣伝のため、ポップなプラカードを持ちながら店前で立っているだけ。暇だし地味なんだけど、それぞれの持ち場を決める時に、満場一致で私がこの立ち位置となった。
「メイドカフェア、やってまーす!!」
なんて、時折軽く声を出しながら、興味を持ってくれたお客さんを誘導する。何の効果か、私を見た途端、通りかかっただけの人たちが次々と列に並ぶ。
メイドさんって、王都で凄く人気なんだなぁ…。まあ、年に一度の娯楽って言うくらいだからね。
そんなことを考えながら、暇を持て余していた私は、店内の様子をチラッと見やる。
みんな、上手くやってるかなぁ。
前半シフトのホール担当は、他のメイドさんを除けば、ルナとユィリスだ。
「お待たせいたしました~!萌えっとパンケーキで~す!」
ルナは皆に笑顔を振り撒いて、慣れた様子で次々に料理を運ぶ。
初めてなのに、もうこの環境に順応している。流石はルナ。でも、あまりに可愛すぎるから、後で男共に迫られないかが心配だ…。
その時は、私が全力で守るからね!!
さて、ユィリスの方は…。
「ふっふ~ん!お帰りなのだ、ご主人!!」
思いっきりタメ口~~~~!!!?
昨日あれだけ口調に気をつけようって言ったのに…。あの子は、ほんと…。
「あら、可愛い!」
「いくつかな?まだ小さいのに、偉いね~」
なんて、小柄だから子ども扱いされてる始末。それのおかげか、お客さんはユィリスの接客に不満はない様子。寧ろ良いとの声が上がってしまう。
「子ども扱いするな――」
「はいはい、お客さんにそんな態度とらない!」
反論するユィリスの口をルナが素早く塞ぐ。
ユィリスの暴走を止められるのはルナしかいない。前半シフトのホールは、彼女に任せておいて正解だった…。
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