第26話 みんなでお風呂!!
「おー、君がアリア君か。娘のメアリーがお世話になってるみたいだな」
「あ、どうも…」
ぎこちない挨拶で、国王様と握手を交わす。見た目が国王とは程遠いからか、畏まることを忘れてしまいそうになる。
「いやいや~、まさか七大悪魔を倒した有名人と出会えるとはね~」
そちらの方が有名人では…?
「そうだ、勲章をあげよう。フラン君、どこにあったっけ?」
「国王様のお部屋かと…」
勲章って、そんな軽い感じで与えて良いものなのだろうか。この人がレアリムを治めている姿なんて、全く想像がつかないんだけど…。
「いえ、結構です」
取り敢えず、ジト目でそう伝えておく。
「娘からは、観光に来たのだと聞いているよ。何もない所だが、少しでも気分転換になってくれたら、何よりだ。そっちの二人は、勇者候補君と…」
「……??」
そこまで言って、国王様はユィリスを見て何やら考え込んだ後、
「アリア君のお供かな…?」
とにっこり顔で、悪気なく言った。
「だーかーらー、アリアのお供じゃない!ユィリスなのだ!!」
「ははは、すまないすまない。覚えておこう」
「娘にも言われたのだぞ!」
王都のトップを前にしても、いつも通り強気な態度のユィリスに対して、純粋に笑みを零しながら、国王様は二人とも握手する。
血は争えないとかよく言うけど、親子揃って失礼だな…。まあ、ユィリスだからいいけど…(←私も大概だ)。
「おや、可愛い似顔絵だね~」
すると国王様は、テーブルに広げたままにしてあったモナの似顔絵に注目した。
しまった!!うっかり仕舞うのを忘れて――。
紙には、しっかり名前も書いてある。今一番モナのことを知られてはいけない人に似顔絵を見られ、焦る私たちを他所に、国王様はほっこりした顔でそれを見やる。
「みんなでお絵描きでもしてたのかな?懐かしいなぁ。ウチの娘もよく絵を描いててね~。結構上手かったのを思い出すよ」
絵を見ても、不思議に思ったりするわけでもなく、親バカ発言する国王。私たちが、ただお絵描きをして遊んでいたと思っているようだ。
この人、本当に知らないのか。モナのことを…。
ほっとはしたものの、王都のトップである国王が何も知らないのは、流石におかしいと思ってしまう。まあこの人が国王になったのが、モナの消息が絶ってからと考えればあり得なくはないけど。
にしても、一年近く国王にバレず、そんなにモナを隠し通せるものなのだろうか。あまりに城のことを知らな過ぎるでしょ…と、逆に国王様を疑ってしまう。
これが演技だったら、怖いという次元の話じゃないけど…。
「それじゃ、私は少し休むよ。あ、そうそう…アリア君」
「あ、はい」
「就寝前に、一度王室へ来てくれたまえ。ルナ君とユィリス君を連れても問題ない」
「勲章は貰いませんよ…」
「いやいや、勲章を無理に与えるようなことはしないさ。君に、少し見せたいものがあってね」
「……??」
「それじゃ、また後ほど~」
お決まりの如く、陽気な笑顔を振り撒きながら、国王ルクスさんは部屋を出て行った。
随分と能天気な国王様だったな…。
「似顔絵を見られた時、ヒヤッとしたけど、メアリーの言う通り、国王様はモナのことを知らないようね」
「分からないぞ。あの明らかに間抜けそうな言動が、実は演技の可能性だってあるのだ」
それは私も考えていたが、フランがすぐ訂正する。
「ルクス様はいつもあの調子ですよ」
「なら、私今すっごく失礼なこと言ったか!?」
「そうなりますね…」
その後、私たちは部屋で、メイドさんに作ってもらった夕食をありがたく頂いた。何かしら起こり得るであろう明日に備え、今晩は安息のひと時を過ごすことに。
「このステーキめちゃくちゃ美味しいのだ!」
「王都名物、〝ローステーキ〟です。メイドに代々伝わる、極上の一品ですよ」
「こんなもの、ただで頂いちゃ悪いわよ」
申し訳なさそうに言って、ルナは真顔で私の方を見た。
あまりの美味しさに放心状態に陥り、幸せそうに食べている私にフランが駆け寄る。
「アリアさんの食べっぷり、もうさいっこうです~!頬っぺたにちょっとソースがついてしまってるところとかもう―――っ!!!」
謎の沈黙興奮を経て、フランは鼻息を荒くしながら、ルナに提案した。
「ルナさん、拭いてあげてください!」
「いや、気づいたなら拭いてあげなよ。あなた、一応メイドでしょ…?」
「ま、まあ、そうなんですけど…。皆さんといると、なぜか仕事のことを忘れてはしゃいじゃうというかなんというか…」
それくらい、フランは私たちに気を許してるってことだよね。まあ、大方私たちの絡みを目に焼き付けたいからなんだろうけど…。
そう思いながら、さり気なく頬っぺたについたソースを拭う。にしても、毎度毎度ほんとだらしないな、私…。
「ルナ、フランはだな…女同士の絡みに興奮する、特殊性癖の持ち主なのだ。許してやれ」
とユィリスは小声でルナに伝える。
「何よ、それ…」
「暴走してる時=妄想の世界に浸ってると考えるのだ。その状態になったフランは、そっとしておいてあげるのだな」
「ふーん」
さすがユィリス。人の扱いが本当に上手い。
「あぁ、そうです。お風呂は、下の大浴場を好きに使ってください。皆さんが入る時には、貸切にしますので」
「城の風呂を貸切!?」
「ほんとにいいの!?フラン」
ルナとユィリスは、お城のお風呂を貸切にしてもらえることに驚嘆しているが、私は別の事に意識が向いていた。
大浴場ってことは、みんなでお風呂に入るって事だよね…?そうだよね??
でもお城だから、個室のお風呂とかあるんじゃない?
そうだよ。フランに頼んで、私だけ個室のシャワーにしてもら――。
「アリア!大浴場だって。一緒に行きましょう!」
「ふえ!?」
唐突の誘いに、心臓がいつも以上の跳ね方をする。
お風呂、一緒に…。待って、心の準備が!
誰かとお風呂に入ったことなんて、今まで一度もない。ルナと二人で生活していた時は別々に入ってたし、昨日は一人ずつ宿の個室シャワーを使った。
つまり、私は他の女の子の裸を見たり、自分の裸を見られたことが一切ないのだ。
「ほれほれ~、早く行くのだ、アリア!」
案の定、ユィリスはニヤニヤし始める。あたふたする私を見て、面白がってるに違いない。
ぐぬぬ…これじゃ、いつまで経ってもユィリスにからかわれたままだ。それでいいのか、私!
これは、女の子に慣れるための試練だ!今、初体験(←意味をよく分かってない)の時!!
そう決意を固めて、私は堂々と立ちあがり、部屋の外へ向かう。
「よ、よし…!い、行こうか!」
「お風呂入りに行くだけなのに、なんでそんな気合入ってるのよ…」
◇
と、勢いに身を任せて脱衣所まで来たものの、ここで緊張の波が一気に押し寄せてきた。
――ドキドキドキドキドキ…。
鳴りやまぬ心臓の鼓動。同性の前で衣服を脱ぐだけ…そんな事すら戸惑ってしまう自分が、心底情けなく思えてくる。
「ん?アリア、脱がないの?」
既に下着姿になっていたルナが、一向に服を脱ごうとしない私の傍に寄ってきた。上下お揃いの薄いピンク色をした可愛らしい下着に包まれて、まるで天使のような彼女を前に、体が変に熱くなってくる。
「あ、いや…その、今脱ごうとしてた、よ?」
「そう?なんかアリア、顔赤いけど大丈夫?」
「え!?あ、なんだろう…みんなでお風呂なんて初めてだから…」
「あ~、緊張してるの?もう、女の子同士なんだから、変に硬くならなくていいのに。脱がすの、手伝ってあげようか?」
なっ…!??
一瞬、変な妄想が頭の中を駆け巡る。ルナに衣服を一枚一枚
「だ、大丈夫!一人で脱げるから!!」
恥じらいを隠すように、私はもうどうにでもなれ!と思いっきり服を脱ぎ捨てた。
「そ、そう…。アリア、意外と大胆なのね…」
「え…?」
先ずは下着姿になるはずが、勢い余って下着ごと脱ぎ捨ててしまったことに気づく。ポロッと露わになった
「―――っ!!??」
「ま、まあ…みんな裸になるわけだし、すぐ慣れるわよ。人間と魔王の体って、少し違うものなのかしらねぇ」
「あ、うん…」
ルナよりも自分が先に恥ずかしい所を晒してしまい、羞恥を通り越して軽く絶望する。だが幸か不幸か、緊張は一瞬にして吹っ飛び、「もうどうにでもなれ」精神ですんなり裸になれた。
「私が一番なのだ~!!」
誰よりも早く浴場に入っていき、すっぽんぽんのユィリスが広々としたお風呂に感動する。
「お~!すっごく広いぞ!」
「ユィリス、はしゃぎ過ぎて転ばないでよ~」
私たちも後から続いて、壁に取り付けられたシャワーの前に横並びで座った。
早速体を洗い始めると、なぜかユィリスはルナの胸元をじーっと見て考え込む。そして、女の子同士の裸の付き合いには欠かせない、胸の比べっこが始まった。
「ルナ、またデカくなったのだ…」
「え、そう?気のせいじゃない?」
「いや、私の目に狂いはない。半年前とは比べ物にならないのだ…」
決して、決して疚しい気持ちはないけど、チラチラっとルナの胸を見る度に、大きいなぁとは思う。あまりに完成された体つきで、いやらしさも美しさもあって…って、変態か私は!!
ユィリスは自分の胸を揉みながら、ルナに嫉妬するように頬を膨らませる。しかし私に対しては、何故か憐憫の眼差しを向けてきた。
「だが、私よりも〝まな板〟がいたなんて思わなかったぞ。同情するのだ、アリア…」
「そんな憐れむような目で
赤面して、両手で胸を覆い隠す。いや、隠すほどのものでもないんだけど…。
胸の大きさなんて個人差だし、あんまり気にすることはないと思う。
デカいと邪魔だし、重いし、おまけに男共からいやらしい視線を常に浴びせられるのだから(女の子からなら大歓迎!!)。羨ましがられる以外に、巨乳のメリットはあるのだろうか…(元巨乳魔王より)。
「いいじゃない。小さい方が可愛らしいわ。私はこれ以上大きくなって欲しくないし」
「ぐぬぬ…それは嫌味なのか、ルナ~~~!!」
「キャ!?ちょっと、ユィリス!」
嫉み心が限界に達し、ユィリスはルナの胸を後ろから揉みしだく。ちょうどボディソープを使ってるのもあってか、胸がぬるりと卑猥な動きをする。
うわ~、ルナの胸…すっごい柔らかそう。触ってみたいなぁ。じゃなくて、止めないと!!
「ユィリス、その辺にし……てっ!!?」
ユィリスの手を止めようと、勢いよく立ち上がった私は、床に落ちた泡で足を滑らせてしまう。そのまま、私の体は二人の方へ前のめりに倒れていった。
「うわぁぁ!!??」
………
……
…
一瞬、何が起きたのか理解するのに数秒かかったが、お腹と背中に感じる女の子の柔らかい感触にピクッと反応し、今のとんでもない状況を
「んっ…!ちょ、うごっ…かないで」
「お、おい…誰かの足が挟まって…」
あっ、ヤバい…。
妙にぬめぬめとした泡でこすり合わせる肌と肌。腕や足が溶けそうになるくらい、お互いの体に絡み合って、変な感覚が押し寄せてくる。
マシュマロのように柔らかいルナの胸に押し当てる、まな板のような平べったい私の胸。顔を上げると、そこには赤面しながら何かを感じてトロン…とした表情をしているルナが、私を見つめていた。
「あ、アリア…。う、動いたら…ダメ…」
待って…ちょ、待って…。
そう言われても、すべすべした女の子の肌に泡を介して密着しているのだから、何もしなくても自然と体が動いてしまう。その度に、ルナは甘い吐息を漏らし、こちらに何かを訴えかける。
私はもうとっくに気づいていた。早急に、密着している部分を離してあげないと!!
頭の中が真っ白になりそうな状況下、すぐに身体を起こそうとする。だが、私の背中にだらんと寝転がるユィリスのせいで、思うように体を起こせない。
こうはならんだろ!と突っ込む余裕もなく、更にユィリスも何やら苦しそうな顔をしながら、荒く呼吸を繰り返している。その呼吸が、私の耳にダイレクトにかかるもんだから、こっちもこっちで変な声が…。
「あ、足がつったのだ…」
そういう理由かい!!!
「ふ、二人とも…は、早くどいて…んっ―――!」
「ちょ、ゆ、ユィリス…耳元で囁かないで…うっ!」
美少女の体に埋もれ、胸と耳に感じたことのない刺激が走った。
徐々に意識が遠のいていく。自然と瞼が閉じられるまでの一瞬、ルナを見て、私は改めて思った。
――ああ、やっぱり…ルナは可愛いなぁ…。
本心を心の中で留めておきながら、私の意識は完全に途絶えてしまった…。
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