第23話 東の司令塔
なんという偶然。昨日、ふとしたきっかけで出会ったばかりの女の子が、今日はメイド長になって目の前に現れた。
「凄い偶然だね!まさか、お城のメイドやってたなんて、びっくりだよ!」
「昨日は、お仕事の話はしませんでしたしね~。私も、昨日の今日で会えるとは思ってもみませんでした」
私はかなり驚いたけど、フランはそうではない様子。事前に、私たちがここへ来ることは分かっていたのだろう。
それにしても、『メイドさん似合いそうだなぁ』と何となく思っていたことが、まさか本当だったとは…。やはり、フランは可愛いメイド服がお似合いだ。
全体的に白色メインで、所々空色が目立つ半袖仕様のもの。可愛らしいエプロンとフリル付きの膝丈程のスカート、そして頭部のカチューシャに白タイツ。
前世で憧れていたメイドさんが、今目の前に…!うん、可愛い!
「あ…あと、アリアさんが王都に来ていることは、私がばらした訳じゃないですよ。流石に衛兵の目は誤魔化せなかったようですね」
「うん、そうみたい。でも、私たちにとっては、寧ろ都合が良いんだ」
「…?そうなんですか?」
「あ、まあ、そこら辺はおいおい…ね」
昨日は、メイド服の上からコートを羽織っていたのだろう。どうりで、手首のバンドに目立つようなフリルが付いてたわけだ。
フランはスタイルいいし、眼鏡をかけてるから大人びた秘書っぽくも見えるなぁ!
そんなことを考えながら、フランの姿に目を輝かせてしまう。
「アリア、いつの間に知り合ったの?」
「あ、うん。昨日、本屋に寄ったでしょ?その時に、ちょっと話してね」
「へー、なんか意外だわ。人見知りのアリアに、いつの間にか知り合いができてたなんて…」
と、ルナは何やら腑に落ちていない様子で、私を細目で見やる。
どうやら、私はルナに〝人見知り〟というレッテルを貼られているようだ。間違ってはないけど…。
「フランって言うのか?ユィリスだ。よろしくな!」
「ルナよ。よろしくね、フラン」
「はい、よろしくお願いします!」
とフランは丁寧にお辞儀をした。
お互いに挨拶を済ませたところで、私たちはフランの案内の下、城を一通り見て回ることに。
ふむふむ。かなり高級そうな家具や照明が目立ってるなぁ。
もし建築魔法を使う時は、参考にさせてもらおう。知識知能は最強な私でも、まだまだ人間界では学ぶことの方が多い。
「こちらに並ぶのが、歴代のレアリムの王様方です」
少し進むと、フランは階段の踊り場にずらりと並べられてある、王の肖像画に焦点を当てた。
みんなが笑顔で並ぶ中、一人だけ物凄く険しい表情で描かれている人物に、自然と目がいく。まるで、こちらを睨みつけているようだが…。
「この王だけ、なんか感じ悪そうなのだ」
「失礼よ、ユィリス。笑顔が苦手な人かもしれないじゃない」
「ん、それもそっか」
肖像画の下には、名前と王座についていた期間が書いてあり、私はそこに注目した。
「ねぇ、フラン。この人って…」
「
「へえ~、フランは会ったことないんだ?」
「はい。ヴァイス様が退位した一か月後に、私が雇われたので」
「一年もしないうちにメイド長にまでなったのだな。凄いな、フラン」
「いえいえ、私はまだまだです」
ユィリスの誉め言葉を受け、照れ隠しするように、フランは眼鏡へと手を伸ばした。
一年前か…。ちょうど、モナの消息が絶った時期に重なる。
この人なら、何か知ってるんじゃないかなぁ。
そう思い、私はフランに尋ねる。
「フラン、このヴァイスさんって、もう王都にはいないの?」
「そうですね…。話によると、お城にいる誰もヴァイス様の所在は分からないそうです」
「そうなんだ」
「はい。なんでも、ある日突然フラッといなくなってしまったみたいで」
「……」
うーん、何か手がかりが掴めればと思ったけど、そう甘くはないか。
「今の王は、すっごく優しそうだぞ。やっぱ、顔は口ほどにものを言うのだ」
「顔じゃなくて、目ね…」
「そうとも言う!」
「でもたしかに、良い人そうね」
あれ?この人の家名って…。
今の王の名前にも注目した私は、もしやと思い、フランに尋ねようとした瞬間、この場に陽気な声が響き渡った。
「ふふ、パパを褒められるのは~、悪い気しないかも!」
その声に聞き覚えを感じ、私たちは一斉に振り返る。そこには、金髪のツインテールを可憐に靡かせ、こちらを見下ろす少女の姿があった。
現国王、【ルクス・ユナイド】…やはり、私の思っていた通りだ。
約一週間ぶりに見る顔だったけど、未だに初めて出会った時のあざとっぷりが印象に残っている。そんな彼女は、階段を一段一段わざとらしくぴょんぴょんと下りながら、私の元へ一直線にやって来た。
「ようこそ~、
私の手を握り、その少女メアリーは可愛らしくウィンクする。
「う、うん。お邪魔してるよ、メアリー」
「も~、来てるなら、言ってくれればすぐ迎えに行ったのに」
「まあ、色々あってね。というかメアリーって、今の王の娘だったんだ」
「そ!自慢のパパなんだ~。私の方が強いけど」
凄いなぁ、メアリーは。
そんな私たちのやり取りを見て、なぜかフランは目を輝かせる。
「あのメアリーさんが、アリアさんにここまでの〝好意〟を…。いい…うん、すっごくいいですよ!!」
あ、キャラ変わった…。
一人暴走するフランを無視して、メアリーはルナとユィリスとも挨拶を交わす。
「そっちの二人もよろしく~!勇者候補のルナと、ええっと…アリアのお供さん!」
「よろしく」
「誰がアリアのお供だ!私にはユィリスという名が付いてるのだぞ!」
「あ~、ごめんね~」
何一つ悪気の無い謝り方をした後、メアリーは私に向き直る。
「長旅で疲れたでしょ?豪華な一部屋を用意してるから、今日はここに泊まっていってよ」
「え?でも…」
「遠慮しなくていいからさ〜。パパにも許可は取ってあるし」
そのパパに、先ずは挨拶しておきたいんだけど…。
まあ、元々この城に用があったし、泊まることになるなら願ったり叶ったりだ。ルナとユィリスも、お城に泊まりたそうな顔してるし、ここはお言葉に甘えさせてもらおうかな。
「うーん、分かったよ。でも、後でメアリーのお父さんに挨拶だけはさせてね」
それとモナのことについて聞かなくちゃ、ね…。
「やったー!じゃあフラン、先にそこの二人を部屋に案内しといて~」
「あ、はい、分かりました。アリアさんは…」
「アリアは、私の部屋に来てもらうから~。さ、こっちだよ、アリア!」
元気よく言って、メアリーは私の手を引く。
「え!?ちょっ!」
「早く早く!」
嵐のように現れては、あっという間に私を連れて去っていく。止めようとしたルナも、流石にその勢いには敵わず、私は半ば強引にメアリーの部屋へと連れてかれた。
「……。あの子、そんなにアリアの事が好きなの?」
ルナが頭を抱える素振りを見せ、フランに尋ねる。
「あはは…。でも、メアリーさんがあそこまで同年代の女の子に興味を持つのは、凄く珍しいんですよね」
「そうなのか?なんか、意外だな…」
「はい。城を護る衛兵さんは、男の人ばかりですし、何よりメアリーさんは王都でも一目置かれてる存在ですからね…。同年代で強い女の子でもあるアリアさんとは、どこか分かり合える気がしたのでしょう。今回ばかりは、許してあげてください」
「強いっていうのも、考えものね…」
同情の意は示すものの、ルナは未だ複雑な表情を浮かべたまま。そんな彼女を見て、ユィリスはからかうような言葉をかける。
「ふふん…ルナ、なんか怒ってないか?」
「え?なんで私が怒るのよ」
するとルナはキョトンとして、なぜユィリスがそんな質問をしてきたのかまるで分かっていない様子を見せた。
「いや、別に」
「……??」
「それにしても、これは…アリアさんとメアリーさんがもしかしたらあり得る!?ならば、何としてでもこの目で二人の様子を確かめなければ!ふへへ…」
「で、さっきからフランは何を呟いてるの…?」
「はっ!い、いえ、何でもありません!それではお二人とも、お部屋の方までご案内します」
百合の妄想から我に返ったフランは、すぐに二人を事前に用意されていた客室へと案内した。
◇
一方、メアリーの部屋に連れてこられた私は、緊張しながらも、二人でお互いの事について語り合っていた。
「どう?私の部屋。アリアが来るって聞いて~、メイドに頼まずに自分で綺麗にしたんだよ~」
褒めて褒めて~!と言わんばかりの輝かしい表情を見せつけられる。
部屋の掃除って、いつもメイドさんに任せてるんだ…。
前世では、男連中を部屋に入れたくなくて、いつも自分で綺麗にしてた私にとっては、自分で自分の身の回りを綺麗にするのは当たり前という考えが根付いている。まあだからこそ、可愛いメイドさんにお世話されることに憧れてるんだけど。
「う、うん。とても可愛らしい部屋だと思うよ。何て言うか、その…女の子らしいね」
壁一面がピンク色の模様で、明るい色がかなり目立っている。
ベッドはキングサイズで、如何にもお姫様っぽい豪華な仕様。女の子にとっては、理想的な部屋ではあるのかな?ちょっと明る過ぎな気もするけど。
「そうでしょそうでしょ!王都にいる間は、好きな時に私の部屋を出入りしていいからね~。何なら、ずっとここに住んでくれてもいいのに~」
「それは…ごめんね、王都に来たのは、とある依頼を受けたからでね。その件が片付いたら、村に戻るつもりだよ」
「ふ~ん、ざーんねん」
分かりやすく項垂れながら、メアリーは茶菓子をテーブルの真ん中に置いてくれた。
「ねえ!アリアって、なんでそんなに強いの!?勇者じゃないよね?どんな魔法使ったりするの?」
「え、ええっと…それは、ちょっと秘密かな」
「え~~!!教えてくれたっていいのに~!」
「私なんかよりもメアリーの方が強いじゃん。私と同じくらいの歳なのに、王都の衛兵を取りまとめてるなんて凄いよ」
「うーん、そうかなぁ。所詮そんなのは、ただの〝肩書〟だけどね~。私はただ自由に衛兵に命令してるだけだし。いや、違うか…。自由…じゃないよ、今の私は…」
そう吐き出すように言ったメアリーの表情に、私はどこか寂しさを感じた。
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