第22話 好機と偶然
「それじゃ、またなのだ!情報屋!」
別れを告げ、この場を後にしようとするユィリスを、情報屋は呼び止める。
「お客さん、ジュース代払ってくださいっス」
「それは取るのか!?」
「当然っス。6杯分、しっかり払ってもらうっスよ」
いや、飲みすぎでしょ…。
ぶーとか言って、ユィリスは渋々財布を開ける。
「情報、ありがとうございました」
「次はその仮面の中、ちゃんと見せてもらうぞ!後、アリアにバレた秘密も言ってもらうのだ」
と、ルナとユィリスは先に外へ出る。
私も続いて出ようとしたら、脳裏にずっと気になっていたワードが浮かび上がってきたので、ふと足を止めて情報屋の方へ振り返った。王都の事以外の情報は持っていないと思うけど、一応聞いてみることに。
「ねぇ、情報屋さん。知ってるか知ってないかで答えて貰ってもいい?」
「あー、はいっス。何でしょう、アリアさん」
私は懐から紙切れを取り出して、そこに書かれているワードを読み上げる。
「ユートピア…って、知ってる?」
転生直後に着せられていた服のポケット…そこに『ユートピア』と書かれていた紙切れが忍び込ませてあったとルナから聞いている。未だ何なのか分かっていないこの言葉に、聞き覚えはないかと尋ねてみたのだが…。
「ユートピアっスか…。聞いたことがないっスね。ですけど、その言葉…何だか不思議に感じるっス」
「うん、分かる」
「それ、どこで聞いたんっスか?」
「あ、いや、偶々耳にしただけだから…。特に何がある訳でもないんだ。それじゃ、ありがとう」
「……??」
そそくさと家を出ていく私に疑問を抱く情報屋。転生したことなど言えないので、誤魔化したものの、少し強引過ぎたかもしれない。
「不思議な人たちだったっス。さてと…この稼業も、そろそろ畳む時が近いのかもしれないっスからね~。色々整理しとかなきゃっス」
客が居なくなった部屋を見回し、情報屋は名残惜しそうに集めた品々を片していく。
「魔王アリエ・キー・フォルガモスが死んで、【グランツェル】家による魔界への
骨董品の間に挟まっていた一枚の新聞記事を眺め、情報屋は独り言を吐いた。そこには、魔界に突如現れた複数の強大な勢力…その名がデカデカと書かれている。
「アリアさん…。間違っても、
◇
情報屋からモナに関する有力な情報を手に入れた所で、私たちは市街地を歩きながら、これからの事について話し合う。
「城って言っても、どうモナに会うかよね~」
「そうだよね…」
不法侵入は、まずあり得ない。今度は犯罪者として新聞に私の名が乗ることになりかねないのだから。
ならば、正面から堂々と入って、モナについて聞き出す。でも情報屋の反応からして、直接会うのにも苦労しそうな気はするな…。
「勇者パーティの家族も、この王都にいる可能性は0じゃないわよね」
「寧ろ、いる確率の方が高いと思うのだ」
「とにかく、何とか城に入る方法を探しましょ」
ということで、私たちは手分けして、街の人たちから聞き込み調査をすることに。
私は積極的に女性へ声をかける。知らない女の人と一対一で話すのに慣れるためだという自分ルールなんだけど…。
でも転生してから、村の人たちとの交流にルナとの同居、ユィリスの大胆なスキンシップ。未だにドキドキはするけど、きょどることは少なくなったかな。
普通に楽しいし、女の子と話すの。
あまりいい情報は得られなかったけど、時間的にそろそろだと思い、最後は城で働いているであろう衛兵に話を聞くことにした。
「あの、すみません」
「ん、どうしました?」
「衛兵さん、お城にはよく出入りするんですか?その、よそから来たもんで、色々王都について聞いておきたくて」
「はい。お城の事でもなんでも、機密事項以外でなら答えますよ」
そういう事ならと極力怪しまれないよう、私はさり気なく尋ねてみることにした。
「じゃあ、衛兵さん。モナって獣人の女の子…知りませんか?」
「モナ…??いや、知りませんね。お知合いですか?」
「え?あ、いや…そういう訳じゃないんですけど、知らないなら大丈夫です」
少し驚きつつ、私は一礼して衛兵の元を離れた。
お城で働く衛兵が、モナを知らない…?嘘をついてるようには見えなかったし、本当の事なんだろうけど…。
情報屋さんは絶対嘘はつかない。別の衛兵さんにも聞いてみないと分からないけど、モナが城にいるなら、存在を知らないなんておかしな話だ。とりあえず、二人と合流しよう。
「ルナ、情報は得られたか?」
「そうね。とにもかくにも、先ずは入城許可を取らないといけないみたいよ。入国審査よりも、かなり厳重そう…だけど」
「やっぱ、そうだよな~」
そんな二人の元に戻った私は、不思議そうな顔をしながら聞いたことを話す。
「アリアは、何か聞けた?」
「うん。一応、お城で仕事をしてる衛兵さんにも話を聞いてみたんだけどね…。どうやら、その人もモナの事を知らないみたいなんだ」
「そうなの!?」
「他の衛兵にも聞いてみないと分からないけど、もしお城にいる人が誰もモナの事を知らないなら…」
「モナの存在を隠していることになるのだ。
私が言いかけた事を、いつになく凛々しい顔で言ったユィリス。彼女に同意するように、私とルナは大きく頷いた。
何にせよ、もう少し聞き込みが必要だろうな~。特に、お城で働く人たちへの…。
そんな考えを、天に読み透かされでもしたのか、ここで私たちに願ってもない好機が訪れる。
「あーいたいた!ようやく見つけたぜ~!」
西の市街地で一番大きな繁華街の道。そこに堂々と現れた馬車から、屈強な衛兵が私たちに手を振ってきた。
「誰か、知り合い?」
「いや、知らないぞ」
その人は近くまで馬車を寄せてきて、こちらへ視線を向ける。
「こんにちは、お嬢ちゃんたち!俺は、この前カギ村へ尋ねてきた衛兵の一人だ。あんた、七大悪魔を倒したアリアちゃんで合ってるよな?」
「え?あ、はい…」
「
「
私が聞こうと思っていたことを、代わりにユィリスが驚きながら言ってくれた。
メアリーって、衛兵たちからはコマンダーって呼ばれてるんだ。あんなだけど、王都ではしっかりしてるんだろうなぁ。
「ああ、そうさ。今すぐ連れてこいって言われてなぁ。ほんと、あの人は自由過ぎるのが難点なのさ」
「あはは…」
いや、しっかり衛兵の手を焼いてるな…。
出会った時、私の事を気に入ったって言ってたっけ。なんで王都に来ていることがバレたのか分からないけど、これは私たちにとっては好都合だ。
「そういう事だからよ。お嬢ちゃんたち、これから用事は?」
「いえ、特には」
「なら、今から
それを聞いて、私たちは顔を見合わせ、待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。
「招待されてるのは、アリアだけみたいだけど、私たちも行っていいのかしら」
「城の中、行ってみたいぞ!」
「勿論だ。連れの二人も同行させろと言われてるからな。さあ、荷台に乗った乗った!」
ということで、私たちは馬車の荷台に乗り、北の城下町にある王都の城へと向かい始めた。
「てかお前ら、メアリーと会ってたんだな」
「うん。ベルフェゴールの身柄を引き渡した時にね」
「なるほどな~。アイツはすっごく強いのだぞ。勇者とまではいかなくとも、ここら一帯だと敵無しなのだ」
「へえ~」
世界ランク163位、
人間界には、このレアリムと同等の大きさを誇る王都がもう一つ存在する。人間界の最東端にあるレアリムと正反対に位置する、西の王都〝マウリム〟だ。
西と東…そのどちらにも司令塔がいて、メアリーはその内の一方、東の司令塔という異名で呼ばれているらしい。
「凄いんだな~、メアリーは」
「そうだぞ。流石のアリアでも、メアリーには勝てないだろうな」
「そんなことないわよ。アリアが一番に決まってるわ」
ルナは事実を知ってるからね…。普通に考えたら、世界ランク163位に勇者でもなんでもない人間が勝つなんて無謀だろうし。
それにメアリーは女の子だから、どう足掻いても私は勝てない。まあ、別に戦う訳じゃないから、こんなこと考えなくてもいいんだけどさ。
「よし、もう着くぞ!」
話してるうちに、馬車は城の門を通過して中へ入っていく。
灰色を基調とした石レンガで作られた城壁に、白色が目立つ尖った屋根が特徴的な、城塞の風貌。近くで見るとその大きさに圧倒されてか、ルナとユィリスは城内に入るまで、終始その様を目に焼き付けていた。
ここに、モナがいるんだよね…。
「到着だ。荷台から降りて、ちょっと待っててくれ。案内役のメイドを連れてくる」
そう言って、衛兵は奥の方へと歩いて行った。
馬車から降りると、綺麗な赤いカーペットが真っ先に目に入る。天井は高く、内装はシンプルであるものの、お城独特の厳格さを保った作り。人間の建築技術も中々のものだ。
「まさか、お城にまで入れるなんて~」
ルナは辺りを見回しながら、夢見乙女のように目を輝かせる。
「やれやれ、ルナはいつまで経っても子供なのだ」
「悪かったわね、子供で。でもこの感動、アリアなら分かってくれるわよね!」
「あー、うん。そうだね」
「んもう、二人とも夢がないわね」
あまり感動してる様子のない私たちを見て、ルナは頬を膨らませる。
そんな中、先ほどの衛兵が一人のメイドさんを連れて戻ってきた。
「取り敢えず、城のことはメイド長に聞いてくれ。お嬢ちゃんたちの案内役として、付き添ってもらうようお願いしておいた」
メイド長って、城のメイドを取りまとめる完璧な使用人じゃない?憧れるな~…って、ん??
一体どんな人なのだろうと、紹介されたメイド長の方へ顔を向けると、そこには私の見知った眼鏡っ子が、メイド服を着飾って堂々と立っていた。
「え…!?もしかして…」
「ふふふ、驚きましたか、アリアさん。何という偶然…いや、これは運命と言っても差し支えないでしょう」
癖のように中指で眼鏡をくいっと上げ、お城のメイド長はにっこりと笑みを浮かべる。私は驚きつつ、嬉しさを表すように、その子の名を呼んだ。
「フラン…だよね!」
「ふふっ、昨日の夜ぶりですね~。また会えて嬉しいですよ、アリアさん」
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