第14話 アリアvsユィリス
間もなく、最終戦の火蓋が切られる。ユィリスは矢を一本取り出し、弓にセットしだした。
彼女の目は真っすぐに、私へと向けられる。
これまで見せていたしたり顔とは真逆で、真剣な表情だ。本気で勝とうとする気概を示しているように...。
「いくわよ、二人とも。よーい、始め!」
離れた所で見守るルナの合図と共に、ユィリスはグッと弓を引く。私も真剣な表情で、攻撃を待つ。
「先ずは、挨拶代わりの一発なのだ...」
重々しい声で告げたユィリス。
その一秒後、ぶわっと翻るように大きく弧を描く黒髪。音のない飛び道具が、とんでもない速さで私の首のすぐ横を通り過ぎた。
しかし私にははっきり見える。街灯を反射してギラッと光る銀色の矢尻から、真っ白な羽の毛先まで。
あまりの精度の良さに、思わず大げさに避けてしまう。舐めていたわけではないが、どのような軌道で飛んでくるのかと様子見しようとする私の思考を遮るかの如く、ユィリスの放った矢は私の首を確実に狙ってきた。
それに、私の推測が合っていれば...
「流石は、七大悪魔を倒しただけあるな。一発で仕留めたかったが、〝千里眼〟の精度を超えてくるか...」
やっぱりね。
スッ...と開いたユィリスの瞳孔。その奥に、薄っすらと星型の模様が輝いている。
千里先を見据えることが出来ると言われている、天性の視覚。ユィリスの瞳を始めて見た時、その透明感に思わず見入ってしまったが、まさか千里眼持ちだったとは...。
ブレーン・ラビットの捕獲も、多分千里眼を使ってたんだろう。あの魔物、相当運がないと普通に探しても見つからないもん。
つまり、ユィリスに狙われたら最後、確実に避けなければ負けが確定してしまう。私にズルズル言ってた割りには、向こうも凄い能力を隠し持っていたようだ。
「凄いね、ユィリス。千里眼なんて」
「ふふん!奥の手は最後まで取っておくというものだ。どんどんいくぞ...」
私とユィリスとの距離は、数十メートル。
「ただの矢だけが来ると思わないことだな...。〝ボムショット〟!」
避けたと思ったら、矢の先端が大きく弾け、空気中に小さな爆発が巻き起こる。私は上手く体を逸らして爆風から逃れた。
爆発と言っても、村には影響しない程度。というか、ユィリスは私以外に影響を与えないように計算して矢を打っているのだ。
何発も放たれる爆弾矢を、身体能力を生かして避け続ける私に、ユィリスはムッとした顔をする。
そして真上に飛び上がり、弓を構えだした。
「むぅ...じゃあ、これはどうだ。〝
上方から一際大きな矢が迫ってきて、同じように避けようとすると、その矢がポン!と弾けて中から無数の小さな矢が降り注いできた。
少し驚いたが、酷く冷静になり、前方...ユィリスが居るところまで駆けだす。降り注ぐ矢を低姿勢で躱す私に対し、ユィリスも負けじと連続で矢を放つ。
「もう!いい加減、当たるのだ~~!〝
随分物騒な技名だな...。
それにしても、懐から矢を取り出して弓にセットするまでの手際の良さが尋常じゃない。加えて、ただ狙い撃ちしてるわけじゃなく、しっかり当てにきてるから集中力も中々のものだ。
「うおりゃぁぁぁ!!!」
やけくそに近いような表情になり、更に乱れ打ちのスピードを上げるユィリス。私が余裕で迫り来るもんだから、内心悔しいのだろう。
(これも避けるのか!?うぅ、さっきの対決で簡単に気絶してた奴とは思えない動きなのだ...)
ギャップのデカさに驚きつつも、ユィリスは最後の矢を打ち放った。
「これが、本気の一矢だ~~~!!」
迫ってきた渾身の矢を目を瞑りながら避け、ユィリスに近づく。
さっきの対決とは真逆。今度は私が至近距離まで迫る。
「チェックメイトだよ、ユィリス」
「うぅ...」
彼女が持つ弓を優しく掴んで、ドヤ顔で勝利宣言した。まるで悪戯する子供を諭す親のようだな、私...。
と勝利を確信したが、その瞬間、ユィリスはなぜかニヤリと笑った。
「私の、勝ちなのだ...」
ユィリスの視線は、ちょうど私の真上に向けられる。途端に私は何かを察し、肩の辺りに降ってきたそれを、人差し指と中指で器用に挟んだ。
「なっ...!?」
いつの間に、真上へ矢を放っていたのだろうか。ユィリスの最後まで抜け目ない攻撃に驚きつつ、私は目の前で動転する少女に優しく笑いかけた。
「最後のは、ちょっと危なかったかなぁ...」
「嘘つけ...お前、千里眼を使った私よりも目いいだろ」
「う、うーん...どうかなぁ。流石に千里眼持ちには敵わないと思うけど」
「ハァ...悔しいけど、私の負けなのだ。
にしても、いくら私の矢が簡単に避けられるとはいえ、なんで初見の相手に終始冷静でいられるのかが分からない...。爆発にも全然驚かないし、どんだけ戦闘慣れしてるんだ?お前」
まあたしかに、普通は目の前から矢が飛んで来たら、分かってはいても一瞬体が固まってしまうものだ。
相手が何を仕掛けてくるのか分からない状況なのにも拘わらず、最初から焦りを一切見せなかった私に対し、ユィリスは少し引いた目で見てきた。ちょっと傷つく...。
「あはは...。私、あまりリアクションしないタイプだから...」
「じゃあ、パンツ見られた時の反応はどう説明するのだ?」
「い、いや...あれは、その...また別の話だから」
と何とか誤魔化そうとしていると、ルナがこちらへ駆け寄ってきた。
「ふふっ、アリアの勝ちね。流石~、夜の時間帯で矢が見えにくいはずなのに、凄いわ~」
「むぅ、せっかく夜の時間帯で戦おうと調整したのに...」
「そういうずる賢さが、勝敗を分けたのかもしれないわね、ユィリス」
「ふ、ふんだ!これはまだ一敗目。次は負けないのだ」
いや、もうやりたくないんだけど...。
「ベルフェゴールと戦ってた時のアリア、ほんっと凄かったんだから~。ユィリスにも見せてあげたかったわ~」
「たしかに、気になるのだ...。よしルナ、今日はお前の家に泊めてもらうぞ!夜更かしして、その戦いの様子を説明してもらうからな!」
「泊まるって...ベッドは一つしかないのよ?」
「え...お前ら、いつも同じベッドで寝てるのか?仲いいな」
ユィリスの何気ない質問に、私は肩をビクッと跳ねさせる。それを見たユィリスは、何やらニヤリと笑った...ような気がした。
「ふーん...」
という意味深な相槌と共に...。
「もう一つベッド買っても置くスペースないし、二人で寝る分には余裕だから。でもたしかに、仲が良くなかったら、毎日一緒のベッドでは寝ないかもしれないわ」
そう言って、ルナはクスリと笑う。
ルナは毎日一緒のベッドで寝る程、私と仲の良い友達だと思われているようで嬉しいみたい。でも多分、ユィリスの意図は違う...。
あの子は多分分かってる。私が、その...そういう女だってこと。
見た目や言動に惑わされてはいけないのだ。ユィリスは頭が良いし、勘も鋭い。
内心、私の弱みを握ったことでニヤニヤ笑っていることだろう。
「今日は久しぶりに強い奴と戦って疲れたのだ。ルナ、ご飯作ってくれなのだ」
「はいはい」
「あ、でも今日は私が...」
「アリアはゆっくり休んでて。今日一日、ユィリスに引っ張り回されたから疲れてるでしょ?」
「んー、でも...」
「いいからいいから。私には、これくらいしかアリアにしてあげられることがないんだから。ね?」
「ルナ...」
高身長なルナは、まるでお姉ちゃんのように私の頭をポンポンとして笑いかけた。それが嬉しくて、つい頬を真っ赤に染め上げてしまう。
それを見たユィリスは、
(人間に慣れていない...ルナの言葉が引っかかるが、果たして本当にそうなのか...。やっぱり、そういうことなんじゃ?)
そんなことを考えながら、ニヒッ...とまたしても意地悪な笑みを浮かべたのだった。
◇
三人で囲う食卓。今日はユィリスも一緒だからか、いつも以上に話に花を咲かせる。
「うええぇぇ!!?お前、世界ランクまだ6桁なのか!??」
飲んでいたお茶を噴き出す勢いで、ユィリスが仰天した。私のギルド会員カードを見ての反応だ。
そう、私の世界ランクは、転生初期の数字から一桁上がっただけ。つまり、まだ
七大悪魔のうち、ベルフェゴールを含めた六人は
「うん、私もびっくりしてる...」
「レベルは、163...いや、低っ!?もっと高くていいだろ!」
普通に考えて、5000位近いユィリスに勝てるのだから、私がそれ以上の順位でなくてはおかしい。何かのバグ?とか思ってしまうけど...。
ちなみに、今のステータスがこんな感じ。
===============
名:アリア
種族:人間
世界ランク:126354位
個体レベル:163
体力:1362
攻撃力:1203
防御力:862
素早さ:667
回復力:1030
魔力:1563
知識・知能:548189
獲得魔法:飛行・回復・火属性・水属性・雷属性・風属性・特殊操作・超感覚・結界・固有生成・建築
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元魔王アリエ・キー・フォルガモス。死亡し、人間へと転生。死因不明。死亡時、会得した全ての魔法および能力が消失。なお、生前の記憶・智慧は引き継がれ、魔力に準じ、魔法および能力の再取得が可能。
===============
レベルやランクの割には、細かいステータスがとんでもないことに。魔力だけなら、魔王幹部の中でも最弱の魔族くらいにはある(最弱と言っても、私の元幹部たちは全員
使える魔法も増え、自由度は申し分ない。まあ、私にとって世界ランクとかレベルはどうでもいいし、これ以上上げるつもりはないけどね。
「不思議な奴だな、アリアは...」
「私も思ったわ。だってアリア、戦う時だけはまるで人格が変わったみたいにカッコよくなるんだもん」
戦う時だけ...か。それ以外は、私の事なんて思ってるんだろう...ルナ。
「普段はこんなに気弱そうなのにな」
とユィリスが馬鹿にするように、私の顔を覗き込んでくる。目を合わせたくなくて、少し視線を逸らしてしまう。
「うんうん、か弱そうなのにね。でもそれが可愛いのよ、アリアは」
「ふむ、たしかに可愛いな~。ふふ...」
いや、私よりも二人の方がぜんっぜん可愛いから!!今すぐ抱きしめたいとか思っちゃってるくらいなんだから!!
そんな二人のからかいに赤面しながら、この後も夜中まで、楽しく三人で話していた。
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