第12話 三番勝負

 ルナは所々端折ったり、何とか話を変えたりしながら、ユィリスに当時の状況を説明した。

 突然、ベルフェゴールが村近くの森にやってきて、ルナとはちあい、ルナの両親が殺された時の状況・真相を説明された。その後、ルナが襲われそうになったところへ、私が颯爽と登場し、見事奴を倒す。

 あくまで私たちは、その時に初めて出会ったというていで、ルナは詰まりながらも説明してくれた。

 

「ふむふむ、なるほど。ベルフェゴールクラスの悪魔が、何故この田舎村にやってきたのかが分からなかったが、まさか勇者候補のルナを狙いに来たなんてな~」

「そうよ。ベルフェゴールから聞いて、初めて知ったんだから。親を殺したのも、アイツだったし」

「じゃあお前、勘違いで魔王アリエのことを恨んでやる~とか、ころ――」


 そこまで言ったユィリスの口を、ルナは即座に塞ぐ。そしてすぐに、片手を立てながら私の方に顔を向けて「ごめん」と口パクで言ってくれた。

 私もにっこり笑いながら、「大丈夫」と手で表現する。

 勘違いだったんだし、いくら言われてもしょうがないよ。それくらい、両親を殺されたのが辛かったってことだからね。


「ぷはぁ!いきなり何するのだ!」

「そういうことは、純粋なアリアの前で言わないで!私の印象に関わるから!」

「ふーん、まあいいのだ。にしても、魔王アリエはずっとお前を守っていたなんてな。おかしな魔王だが、すっごく良い奴じゃないか。それをお前は、呪ってやるとか…」

「だから、言わないでって~~~~~!!!」





     ◇





 どうにか、私が元魔王だとは知られずに、ベルフェゴールの一件を説明し終えた。

 話をしている間、私たちはテーブルを囲っていたのだが、ルナが用意してくれた茶菓子がいつの間にか消えている。知らず知らずのうちに、ユィリスがお腹に入れていたのだけど。


「ちょっと!これ、アリアに食べてもらいたくて作ったクッキーだったのに~!」

「少しくらいいいだろ。味はまあまあだったぞ」

「ハァ…もう、ほんと子供なんだから~。ごめんね、アリア。こんな面倒くさい子供と絡ませちゃって…」

「面倒くさいとはなんだ!こっちはお前がわんわん泣いてる時に、必死にあやしてやってたんだぞ!」


 え、何それ!?

 

「あやしてって…子供みたいに言わないで!」

「子供じゃん。親を思い出して大泣きした後、すぐ私に抱きついてきてな…。そんなの、子供以外の何ものでもないのだ。ちょうど一年前くらいだったな、たしか」


 何気なく聞いていた会話から、ルナの恥ずかしエピソードが飛び出てきた。

 14歳って、今と全然変わらないじゃん。そんなルナが、小柄なユィリスに抱きついて…。

 想像しただけで、ついにやけてしまう。いや、笑い話にしちゃいけないんだけどさ。


「……!!////」


 恥ずかしさのあまり、ルナは顔を手で覆った。恥ずかしがるところなんて初めて見るから、つい意地悪したくなってしまう。


「ねえ、ユィリス。ルナをどんな風にあやしてあげたの?」

「そうだな~、頭撫でてやったぞ。後は~、寝かしつけてやったりしたな」

「へ~、それでそれで、ルナはその時――」

「アリア~~~~~!!いつもからかったりしてごめん!もう少し抑えるから、許して~!」


 私をからかってる自覚あったのね…。


「ん~、どうしよっかな~」


 涙目で、ルナは羞恥に悶える。流石にこれ以上は可哀そうなので、そっとしてあげることにした。

 そして、ユィリスはようやく本題を口にし始める。


「ごほん…!少し脱線したが、そろそろ本題に入ろう。アリア!」

「え…?」

「私はただ、お前に会うためだけにここに来たわけじゃないぞ。勝負しに来たのだ!」


 ユィリスは椅子から立ち上がり、またもビシッと私を指差しながら宣言する。


「勝負!?」

「そうだ!三番勝負、先に二勝した方の勝ちだぞ!」

「ちょ、ちょっと待って!いきなりそんな…」


 ルナ止めて~とか思ったけど、まだ恥ずかしさが抜けないのか、机に突っ伏したままだし…。


「断るなら、お前は負けを認めることになるのだ!」

「いや、全然負けでもいいけ――」

「アリアなら、勝てるわよね!」


 はい…??

 急にルナが顔を上げ、私の手を握ってきた。話はちゃんと聞いてたらしい。


「え、ルナ?」

「こんな辱めを受けたのは、久しぶりよ!アリア、ユィリスをぎゃふんと言わせちゃって!」

「うえぇぇ!?」

「ダメかしら…」

「うぅ、だって…」


 ルナは絶対否定してくれると思ったのに。

 男の子とならまだしも、女の子と勝負なんてしたくない。傷つけたくないもん。特に、ユィリスみたいな小柄で可愛い子は…。

 私は深刻そうな顔をして言う。


「泣かせちゃうかもしれない…」

「子ども扱いするな~!!私を何だと思ってる!お前たちと同い年だぞ!」


 あ、そういえばそうだった。


「村を出て行ってから、どれ程強くなったか知らないけど、アリアの方が全然強いと思うけど?」

「そんなことは百も承知なのだ。それを考慮しての、三番勝負だからな!」


 タイマンじゃ勝てないからと、別の勝負で勝ち星を挙げる。私に勝つために、色々考えていた様だ。 

 まあ、戦わないのなら、少しはやってあげてもいいけど…。

 一応、勝負内容を聞いてみることにした。


「ユィリス、どんな勝負をするの?」

「ふふん!最初は、どっちが早く依頼を達成できるかのタイムアタック勝負。その次は、言葉だけで如何に相手を動揺させることができるか、メンタル耐久勝負。最後は、正々堂々サシ勝負だ!」


 やっぱり最後はタイマン!?

 で、でも三番勝負ってことは、先に二勝しちゃえば勝ちだもんね。二回目の勝負までは、ユィリスを傷つけずに勝てる…ん?二個目、ちょっと怪しくない?


「アリア、やるわよね!お願い!」

「うっ…」


 メンタル耐久勝負に何か違和感を感じたが、すぐにルナの泣き落としを喰らう。私が断れない性格だということを知っていての言動だ。多分。


「さあ、これはルナの名誉をかけた戦いでもあるのだ!まさか、やらないとは言わないよな~」

「わ、分かった!でも、私が先に二勝したら、最後のサシ勝負は無しだからね!」

「ふふん、分かっているのだ!まあ、絶対に最後の勝負まで持ち込まれるだろうけどな…」

「……??」


 なぜかユィリスは、絶対的な自信を持ちながら言った。もしかしてこの子、本当に強い…?

 まあ何があっても、ユィリスを傷つけるようなことはしないけどね。

 と内心私も自信を持ちながら、早速勝負の舞台へと移動した。





     ◇





「それじゃ、始めるぞ!最初の勝負は、どっちが最初に依頼を達成できるかだ」

「依頼内容は、希少魔物〝ブレーン・ラビット〟の捕獲。一匹でいいんだよね?」

「そうだ。この森で度々目撃されてるみたいだから、一匹はいる筈。その名の通り、頭が切れる兎で、遭遇確率も低い。運も実力のうちだと言うだろ?」

「なるほど…」


 今、私たちは近くの森に来ている。ベルフェゴールとの勝負跡地だ。

 掻い摘んで言うと、どっちが先にブレーン・ラビットという魔物を捕獲できるかの勝負。

 推奨レベルは40。それはブレーン・ラビットがそれ程強いのではなく、他の魔物よりも狡猾で知能の高い魔物だから、捕獲するのにそれくらいのレベルは必須だということらしい。

 故に最初の対決は、技術力と遭遇運が試されるものとなっている。

 ただ三番勝負をするのではなく、三つとも違った力が試される対決。意外にも…と言ったら失礼だけど、ユィリスは私に勝つためにそこまで考えていたのだろう。


「じゃあ、二人とも。準備はいい?」


 開始の合図はルナの一言から。私たちは頷き、同じスタートラインに立つ。


「負けないのだ」

「こっちこそ」


「よーい、始め!!」


 ユィリスは合図を聞き入れた途端、勢いよく森の奥へと走っていった。私はその場で立ち尽くしている。


「あれ…?アリア、始まってるわよ」

「うん、分かってる。まあ、見てて」


 ブレーン・ラビットの特性は理解している。ただ追いかけ回して捕獲するのも一つの手だけど、それじゃ体力と時間が削がれるだけ。

 私は胸に手を当て、深く息を吸い込む。目を閉じ、周囲の環境に訴えるようにを出した。

 その音は、普通の人間には聞こえないもの。至近距離に立つ、ルナでさえも…。

 口を何やらパクパクとさせる私に、不思議そうな表情をするルナだったが、何かを察し、驚いたような声質で呟いた。


「嘘でしょ…〝超音波〟?」


 そう、私が今発してる音は、人間の耳には聞こえない高い振動数を誇る音の波…超音波だ。

 主に魔族が、警戒心の強い魔物と会話を試みるために使用するもので、人間には絶対に扱えない音域。 

 しかし私は、魔法で超音波を出す方法を暇さえあれば研究していた。いつか人間に転生する日を夢に見て。

 魔法ならば、人間にだって同じような音域が扱える。口から直接出すことは出来ないけど、今の私は魔力を介して超音波を発することが可能なのだ。

 音波をブレーン・ラビットが感知できる域まで調整して、仲間のふりをして訴えかける。

 すると、草むらから一匹の兎が顔を出した。空色の毛並みを持つ兎、間違いなくブレーン・ラビットだ。

 まだ警戒しているようで、私の音波に耳を傾けている。でも、まさか人間が超音波を発しているなんて、流石の狡猾な魔物も思いはしない。徐々に草むらから、恐る恐る歩みを進め、あっという間に私の足元まで来てくれた。


「す、凄い…」


 ルナが絶句してる傍で、私はそっとブレーン・ラビットを抱える。一切逃げようとはしないので、私に心を許してくれた証拠だ。


「よしよし、大丈夫だからね」


 捕獲してスタート地点に戻ってきた者の勝利。スタート地点から一切動かずに、捕獲することに成功したので、私の完全勝利だ。

 

「アリア、超音波使えるの!?」

「魔法でだけどね。ルナも頑張れば使えるようになるかもよ?」

「いや、怖いから遠慮しとくわ」


 数分後、兎を撫でながら待っていると、森の奥から全速力でユィリスが走ってきた。


「よ~し!捕まえたのだ~!!」


 全身泥だらけ。ブレーン・ラビットの耳を片手で鷲掴みにしている。

 魔物だけど、可哀そうに思えてくるな…。


「開始1、2分くらいで、アリアがとっくに捕まえてるわよ」

「そんな~!!ぐへっ!!」


 気の抜けたところを突かれ、耳を掴まれていた兎の足蹴りがユィリスの頬に炸裂。そのまま兎は、森の中へ逃げて行った。

 

「な、なんでお前の兎はそんなに大人しいのだ!?」

「超音波を使ったからね」

「……」


 鳩が豆鉄砲喰らったように、ポカンとするユィリス。運関係ないじゃん!とでも言いたそうな表情だ。

 ということで、一つ目の勝負は私の勝利に終わった。この調子で次の勝負も…。

 そう思っていたが、私は既に賢いユィリスの術中に嵌っていたことを、次の勝負で思い知らされることになる。

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