追放されたマッパーはダンジョンツアーガイドとして活躍する。地味な【万歩計】スキルと映像記憶で無双していたら自称聖女に惚れられました「えっ? 私も女の子なんだけど」
第14話 危険度A級難関ダンジョン【腐毒の沼穴】を攻略せよ
第14話 危険度A級難関ダンジョン【腐毒の沼穴】を攻略せよ
昼過ぎ。薄暗い鍾乳洞――
【腐毒の沼穴】に、セリスさんの絶叫が響く。
「ひええええ! でっけぇムカデの大群ですわ! グロすぎますわーーー!」
セリスさんはいつものように【七転び八起き】を発動させて、不運に見舞われた。
ムカデ型モンスター【ダンジョンセンチピード】の巣に飛び込み、思いっきり狙われていた。
ウゾゾゾゾゾゾ……!
ダンジョンの壁一面を覆うムカデの群れが、気味の悪い足音を響かせて迫り来る。
「セリスさん!」
狭い通路の先で待機していた私はセリスさんに向かって叫ぶ。
残り3歩、2歩、1歩……!
「今だ! こっちに飛び込んで!」
「はい!」
セリスさんは気持ちの良い返事をすると、白い僧侶服が汚れるのもいとわずヘッドスライディングした。
「食らえ! 今必殺の【投擲】スキル!」
私はセリスさんを背後にかばいながら通路に向かって火炎瓶を投げつける。
「ピギャアアアア!」
狭い通路に誘い込まれが運の尽き。
あらかじめ床にまいていた油に炎が引火して、ダンジョンセンチピードはこれまた気味の悪い金切り声をあげて絶命した。
【投擲】スキルに即死効果はないが、炎に巻かれればたいていのモンスターは死ぬ。これ豆知識ね。
「ふぅ……。気持ち悪かった」
私はマスクを外して一息つく。
すると、セリスさんは錫杖を支えにしてその場から立ち上がった。
「まさかこのわたくしを囮にするなんて。普通、プリーストは援護に回るものではなくて?」
「適材適所というか。セリスさんのユニークスキルを有効活用しようと思って」
セリスさんの【七転び八起き】のスキルは、7回は必ず不幸な目に遭うという呪いのような効果がある。
それを逆手に取り、セリスさんを先行させてトラップを誘発させたり、モンスターの気配がある部屋に特攻させたりした。
もちろん、それなりの安全や対処策は確保した上でだ。
今回は通路に油を敷いてダンジョンセンチピードを誘い込み、【投擲】スキルで火炎瓶を投げつけて一網打尽にした。
「それにほら【祝福】のスキルもあるでしょ。ある程度は不幸も相殺されるんじゃない?」
「あまり実感はねぇのですが、もしかしたらそうなのかもしれませんね。今のところ死ぬような目にはあっていません」
「今のはカウントされないんだ……」
【祝福】スキルは『ちょっと良いことがある』信仰系のバフスキルだ。
【七転び八起き】が出す不幸な目を相殺して『ちょっと悪い』くらいに抑える効果がある。たぶん。
「他に持ってるスキルは【治癒】と【解毒】、それと【聖属性付与】だっけ?」
「はい。イノさんからいただいたアンブロシアの花のおかげで聖職者スキルがパワーアップしましたの。今なら武器に聖属性の魔法を付与できますわ」
「それは頼もしい。グールが出てきたら一発で倒せるね」
私はダンジョンセンチピードの死骸をあさりながら苦笑する。
特に怪しいところはない。いたって普通の害虫モンスターだ。
「まあ今のところアンデッド系モンスターの姿はみかけないけど。このダンジョンは自然系のモンスターばかりだ」
「うぅ……。せっかくお役に立てると思いましたのに」
「まあまあ。【治癒】が使えるだけでもかなり心強いよ」
ダンジョンセンチピードは肉食の昆虫モンスターで、残念なことに人のお肉が大好きだ。
食欲も豊富で好戦的であり、巨大なモンスターに群がって餌食にすることもある。
「それにその杖だって立派な武器になる。属性付与をかければスライムにも対応できるからね」
途中で見かけたスライムも人を餌食にする粘着質の水系モンスターだ。
透明な膜に囚われたが最後、スライムの中で溺れ死んでジワジワと溶かされていく。
打撃や斬撃は効かないが炎や魔法攻撃には弱い。
属性は関係なく、魔法付与された武器でなら対処可能だ。
バーバリックの持つマジックソードなら楽勝だろう。上手く扱えればの話だけど。
「今のうちにメモしておこう」
私は懐から地図を取り出して現状の情報をまとめた。
地図の内容は頭で覚えているが、ギルドとの契約でレポートして提出する必要がある。
地図作りは個人的な趣味でもあるから、メモを取ることに苦労は感じなかった。
――――危険度A級難関ダンジョン【腐毒の沼穴】。
あまたの財宝が眠るという噂のダンションで、以前からバーバリックが攻略したがっていた。
だが、挑んだ者が誰も帰ってこい難攻不落のダンジョンとして有名だ。
当然、内部構造はわからない。ダンジョンマップも出回っていない。
唯一聞いた噂話によると、夜中に沼穴の近くを通ると地鳴りが聞こえるのだとか。
地盤も脆くて周辺に人里はない。モンスターすらあまり立ち寄らないようだ。
私は【腐毒の沼穴】に挑むにあたり、装備も服装も冒険者セットに着替えていた。
腰には短剣、懐には地図。左手にランタン、防毒処理が施された革のグローブをつけた右手は壁を調べるのに使う。
その右手で湿った石壁に触れる。
「ふむ……。この壁、意外と柔らかいな。それに少し匂う」
「くせぇですの? わたくしは何も感じませんが?」
「嗅覚の話じゃなくて”裏”があるかもって話」
鼻を鳴らしてきょとんとするセリスさんに私は苦笑を浮かべる。
「【腐毒の沼穴】っていうくらいだから毒を警戒していたんだけど、今のところそれらしいトラップは見当たらない。だけど、それって逆に怪しくない? それならどうして腐毒なんておぞましい名前で呼ばれているんだろう」
「確かに妙ですわね。そもそもどうして中の様子を形容できるのでしょうか? 生きて戻った人がいないダンジョンなら『謎の洞穴』とか『よくわからないけどおそろしいデスダンジョン』とか仮の名前がつきそうですのに」
「いいところに気がついたね。やっぱりセリスさんは勘が鋭い」
私は地図を広げてセリスさんに見せた。
「ここまで調べてわかったことは、入り口の辺りは人が踏み荒らした形跡があるってこと。しかも途中で引き返したような足跡が多い。たぶん危険に気がついて引き返したんだと思う。けれど、事情があって誰もダンジョンの真実を口にしなかった」
「なぜですの?」
「原因はそうだなぁ……この先の曲がり角にあるかも」
私は警戒を続けながらセリスさんを曲がり角まで案内する。
急がば回れ。広くて平坦な道はモンスターも通るので避けつつ、物陰に身を隠しながら進む。
やがて曲がり角の先に、光り輝く金銀財宝の山を見つけた。
「ラッキーですわ! あんなところにお宝の山が!」
「ちょっと待って」
我先にと駆け出そうとしたセリスさんを引き留める。
「【七転び八起き】の不運はいま何回目?」
「え~っと確か次で7回目……」
セリスさんはそこで口にして顔を青ざめる。
「もしかしてアレはトラップですの?」
「そういうこと」
私はバックパックから伸縮式の竹竿を取り出して、お宝の山を突いた。
すると――
――シュポン!
急に床に穴が空いた。
綺麗な円形の穴で、まるで虫の口みたいだった。
開閉は一瞬のことですぐに穴は閉じる。
目を離していたら穴が開いたことすら気がつかないだろう。
「ひぎぃ! なんという巧妙で卑劣な罠! あやうく引っかかるところでしたわ」
「いわゆる疑似餌トラップだね。お宝に目がくらんだ冒険者を罠に引っかけるの」
「罠があるのはわかりましたが、お宝は目の前ですのよ。見過ごすのですか?」
「いいや、いただくよ。今回のクエストはお宝回収が目的だからね」
私は竹竿を回収して、先端に仕掛けを取り付ける。名付けて――
「マジックハンドー」
「マジックハンド!? まさかその竿、マジックアイテムの一種ですか!?」
「違う違う。原始的な仕掛けだよ。故郷のレンジャーさんに作り方を教えてもらったんだ」
ギミックは簡単だ。
先端にかぎ爪とザルをつけて、ひもを引っ張ることで爪を動かして遠くのモノを掴む。ザルは落下防止用だ。
私は再び竹竿を伸ばして、金銀財宝をひと掴み。
穴のトラップが発動しても意味はない。
金のネックレスを爪に引っかけ、ザルに金貨や宝石を乗せてお宝を回収した。
「これで任務完了っと」
「素晴らしいですわ! さすがイノさん。トレジャーハンターとしても一流ですのね」
「あはは。ほとんどのお宝はお残しのままだけどね」
けれど、今の私たちに必要なのは実績だ。
手ぶらで帰るより、たとえ少しでも財宝を持ち帰った。その事実が大事なのだ。
私とセリスさんはお宝をバックパックにしまうと、元来た道を戻ることにした。
「過去にこのダンジョンに挑んだ冒険者も同じような手でお宝を回収したんだ。人に知られないように、毎日コツコツとお宝をかすめ取った」
「だから人に秘密にしていたのですか。毒が充満していそうな名前で呼んだり、難攻不落のダンジョンと吹聴したのも人を近づけさせないためですか?」
「おそらくね。危険なトラップがあることに代わりはないから警告の意味もあったんでしょう。仲間を失ったことがトラウマになった人がいたのかも」
ギルドに帰ったら【腐毒の沼穴】の危険度を精査し直す必要があるだろう。
ダンジョンに眠るお宝を手に入れるのは冒険者の特権だ。
それをとやかく言うつもりはないが、ダンジョンの噂を利用して悪人や盗賊が根城にする可能性もある。
そうなったら最悪だ。トラップにモンスターに盗賊のトリプルアタックを食らったら、並の冒険者では太刀打ちできない。
お宝を求めてやってきたのにお宝を落とす羽目になる。ミイラ取りがミイラになる、というやつだ。
「ミイラ取りがミイラになる……」
「どうかしまして?」
「ちょっと気になることがあって」
「またですの? これ以上いったい何があると言うのです」
「お宝の位置だよ。どうしてあんな無造作に道の真ん中に置いてあったんだろう」
「冒険者をトラップにハメるためでしょう。物陰に隠されていたら見つけてもらえませんから誰かが置いたのですわ」
そうだ。そもそもお宝は自然発生しないものだ。
マジックアイテムが眠る古代遺跡やお宝好きのモンスターが住むダンジョンならまだしも、天然の洞窟から金貨や宝石が見つかるはずもない。
考えられるのは隠れ潜んでいた盗賊がお宝を残した可能性だ。
冒険者の遺品が道ばたに転がっていた、という可能性もなくはない。
だとしても、一カ所に宝の山が築かれるのはおかしい。
セリスさんの言うように誰かが宝を置いたのだ。
どうして? 何のために? それは――
ゴゴゴゴゴ…………。
「地鳴り……?」
考え事に集中していて気がついた。
歩いていたら気がつかなかっただろう、些細な地面の揺れ。
私の推測が正しければ――――
――――ボコン!
空気が抜けるような音が鳴り、突然足下の床一面に大穴が空く。
「イノさんっ!」
セリスさんはとっさに私を突き飛ばそうとして――――
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