追放されたマッパーはダンジョンツアーガイドとして活躍する。地味な【万歩計】スキルと映像記憶で無双していたら自称聖女に惚れられました「えっ? 私も女の子なんだけど」
第12話 イノの決意。戦士の休息(お風呂シーンです)
第12話 イノの決意。戦士の休息(お風呂シーンです)
「わかった。バーバリック、あなたと勝負する」
ホワイトブルーム家の執務室にて。
私は一歩前に出てそう宣言した。それからゼロノアさんに語りかける。
「ただし、ひとつ条件が。私が勝ったらセリスさんの夢の邪魔はしないでください」
「ふむ……」
「私がバーバリックに勝てば、ゴールドクラスの冒険者より優れている証明になります。自分で言うのもなんですが、お嬢さんを預けるにこれ以上ふさわしい人間はいないのではないでしょうか?」
「カーミラの後ろ盾もある……か」
「はい。私自身はどこの馬の骨ともわからない、ただのギルド職員に過ぎません。持っているユニークスキルも地味なものです、ゼロノアさんが私を信じられないのも当然です」
私は無意識にセリスさんの手を握っていた。
「ですので、バーバリックとの勝負を通じて私の実力を……私を認めてくれたセリスさんの目が確かなことを証明してみせます!」
「イノさん……」
セリスさんが手を握り返してくれる。
あそこまで言われたからにはセリスさんを勝たせたい。私自身も勝ちたい。
いつも伏せがちだった顔を上げて、私はゼロノアさんを正面から見つめ続けた。
「わかりました。条件を呑みましょう」
「ありがとうございます」
「話は決まりだな!」
バーバリックは空気を読まずに大声で叫ぶと、意気揚々と出口に向かう。
「んじゃ、ゼロノアの旦那。冒険者の手配はよろしくな。金に物を言わせて腕利き連中をそろえてくれよ」
「わかっています。契約は契約ですからな」
去り際、バーバリックは手にしていた魔法の地図を私に見せびらかしてきた。
「せいぜい頑張るこったな、オタクちゃん。出発は明日だ。準備も大変だろう。だが、オレにはこいつがある。最速最短でお宝をゲットしてやるぜ」
「…………」
バーバリックの嫌みに対して私は無言を貫く。
けれど、最後の最後で口を開いてしまった。
「ひとつ聞かせて。ゴライアスくんや他のパティーメンバーはどこにいったの?」
「そ、それは……」
「その様子だと愛想を尽かされたんでしょ。まあそうなるよね。うんうん、わかってた。だからゼロノアさんと手を組む必要があったんだ。クエストをまともに受けられないとお金に困る。お金がないと冒険者も雇えない」
「おまっ」
「まあ即席の日雇いパーティーでせいぜい頑張ることだね、最強冒険者のバーバリックちゃん?」
「てめぇ……! 暗がりには気をつけるこったな!」
バーバリックはいらだった様子で扉を開けて、そのまま部屋を出て行った。
「どうしてこうなったんだ……」
今になって人選をミスったと悟ったのだろう。
ゼロノアさんは悲痛な表情で頭を抱えていた。
◇◇◇
その日の夜。私はセリスさんに誘われてお屋敷の大浴場を利用した。
広々とした浴室で、数十人が一度に入っても余裕がある。
当然、入浴時には裸だ。私とセリスさんしかいないので気にすることはない。
明日の早朝からダンジョン攻略開始だ。
いまは鋭気を養うべき時間なのだが……。
「どうしてあんなこと言ったんだろう……」
私は湯船に浸かりながら、鬱々と自省する。
そんな私に裸のセリスさんが微笑みかけてきた。
「あれくらい言って当然ですわ。あのバーバリアンとかいうお方、事あるごとにイノさんをバカにして!」
「バーバリアンじゃなくて、バーバリックね」
「どちらでもいいですわ。お猿さん、あの方はこれからお猿さんと呼びます」
最悪の第一印象からして、セリスさんはバーバリックが嫌いになったのだろう。
口をとがらせて文句を言っている。
「ありがとうセリスさん。私をかばってくれて」
「かばうだなんてそんな。わたくしは事実を述べたまでのこと」
「それを素直に受け入れられるほど、私は面の皮が厚くないんだよなぁ……」
私は湯船に顔まで浸かって、ぶくぶくと泡を立てる。
それからすぐに息苦しくなって顔を上げた。
「ぷはっ! お湯で潜水ごっこは無理か」
「プークスクスッ。イノさんったらお子様のようなことしますのね。普段は大人びた物言いばかりですのに」
「その笑い方はどうかと思うけど……。ま、私なんてまだまだ子供だよ」
私は肩を伸ばして一息つく。
「人前では大人であろうと努めてるけど、皮を一枚剥いだらこんなもん。自分に自信がない、ただの地図オタクの子供だよ。ケンカをふっかけられて思わず買っちゃうほどにね。幻滅した?」
「そんなことありません。そういうところも含めてイノさんはイノさんでしょう? むしろ余計に好きになりましたわ」
「あはは。セリスさんはストレートだね」
だけど、元気を貰える。
人の好意を素直に受け取るのも悪くないものだ。
お湯が気持ちいいと本音がポロリとこぼれる。
「ひとつ質問をよろしくて?」
「なぁに?」
「なぜお猿さんの勝負をお受けになったのですか? イノさんには何の得もないでしょう」
「やっぱり気にしてたか」
セリスさんは意外と鋭いんだよな。
私は苦笑を浮かべて、湯船に映る自分の顔を見つめた。
「セリスさんのため……と言えば美しくまとまるところだけど、本音を言えば自分のためなんだよ」
「自分のため?」
「セリスさんと自分の境遇を重ねてね。セリスさんの味方になろうと思ったの」
私は語った。
冒険者に憧れて村から飛び出した過去を。
【万歩計】スキルをどうにか役立てようとして、マッパーになったことを。
そして、何度も挫折したことを……。
「ゼロノアさんもバーバリックもスキルがすべて! ってタイプだったでしょ? だから、カチンってきちゃって。私もセリスさんも頑張ってる。その努力を認めろって叫びたかったんだ」
「そうでしたの……」
「私はああいうとき黙っちゃうから、セリスさんが暴れてくれて清々した。だから応援しようと思ったんだ」
「それで、わたくしの旅を認めろと仰ったんですね」
「勝負を受けた理由の半分は私怨もあったから迷惑代としてね。バーバリックには私も思うところがあって」
「そこは素直になっていいと思いますわよ。今なら誰も聞いていません」
「え? そうかな……。じゃあ、お言葉に甘えて」
私はためらいながらも声を大にして叫んだ。
「バーバリックのアホーーー! 誰が根暗のオタクじゃボケぇぇ! こっちとらマップ一本で喰ってるんだぞ! 脳筋のおまえよりすごいんだーーー!」
「その意気ですわ!」
セリスさんはそこで湯船から立ち上がり、口に手を添えて叫んだ。
「お父様のわからず屋ーーー! わたくしはお人形じゃありませんのよ! 冒険者として成功して、生まれも育ちも関係ないことを証明してみせますわ!」
「それが冒険に出た理由?」
「ええ。だって悔しいでしょう。ダメスキルを持って生まれたからおまえは家から一歩も出るな、なんて言われたら。ですから勘当覚悟で冒険者になってやったんですわ」
「偉い! 冒険者に大事なのは一歩踏み出す勇気だよ。セリスさんはもう立派な冒険者だね」
「おーほっほっほ。それほどでもありますわーーー!」
私がはやし立てると、セリスさんは仁王立ちで高笑い。
たぶん家中に声が響いてるんだろうな。けどもう遅い。
「というわけで、明日はわたくしもついていきますので。ダメと仰っても無駄ですよ。わたくしの冒険者魂は止まらねぇですの」
「ダメだなんて言わないよ。一緒じゃないと困る」
私はそこでセリスさんの顔を見つめて言った。
「だって私たち、パートナーなんだから」
「イノさん……」
「回復ポーションは使い切りだからね。【治癒】が使えるプリーストがいると大助かりだ」
「まあ! 人を便利アイテムみたいに」
「間違ってゴブリンを回復しないでね」
「そんなことしませんわ! イノさんの意地悪!」
顔を真っ赤にしてパシャリ、とお湯をかけてくるセリスさん。
動いた反動で大きなおっぱいが揺れて、女ながらに眼福だった。
「お、やったな~!」
私は笑いながらお返しにとお湯をかけまくった。
私の胸は…………まあ、それなりに揺れたとだけ言っておこう。
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戦士の休息でした。
次回はいよいよダンジョン攻略。まずはバーバリック側の視点です。
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