追放されたマッパーはダンジョンツアーガイドとして活躍する。地味な【万歩計】スキルと映像記憶で無双していたら自称聖女に惚れられました「えっ? 私も女の子なんだけど」
第9話 勝利の鍵は地味スキル! ご褒美は……え? 聖女?
第9話 勝利の鍵は地味スキル! ご褒美は……え? 聖女?
「ガアアアアァァァァッ!」
レッサードラゴンは大きな口を広げて私を威嚇する。
威嚇に反応したのか、暗がりから別のレッサードラゴンが2匹姿を現した。
「あはは……。怒ってるよね」
それはそうだ。この花畑こそが彼らの巣。
レッサードラゴンはアンブロシアの花を餌にしているのだ。
予想は的中。土地が枯れて餌が減り、第一階層まで顔を出したのだろう。
私は一度『巣に帰れ』と言った。
相手は譲歩してくれたのに、私は無作法にも彼らの寝床&餌場に足を踏み入れたのだ。
彼らが怒るのも当然だ。私でも怒る。こうなっては【誘導】スキルも効かない。
「どうする? 何かないかしら。え~っと……そうだ!」
私は頭をフル回転させて状況を打破する作戦を考えた。
「グルアアアァァァっ!!!!」
レッサードラゴンが襲ってきた。実験してる暇はない。
私は全力で来た道を戻り、大広間に出る。
「アテンションプリーズ! 団体さんご案内な~い!」
大広間に響く私の声。
念のため【
効果があったのかわからないが、レッサードラゴンが3匹縦に並んで後ろについてきた。
「こちらが本日の目的地。地底湖の跡地でございまーす」
広間の中程にまで到達したところで私は動きを止め、レッサードラゴンにポーションを投げつけた。
「食らえ! 今必殺の【投擲】スキル!」
もちろん【投擲】スキルに即死効果なんてあるはずがない。
【投擲】はターゲットに狙いを定めてモノを投げつける攻撃スキルだ。熟練度が上がると遠投も可能となる。
基本的には石や火炎瓶を投げつけたり、後方から前線の仲間に向かって回復ポーションを投げ渡したりする。
今回はレッサードラゴンに回復ポーションを投げつけた。
――――パリン!
レッサードラゴンの一匹に当たり、ポーションが入った小瓶が砕け散る。
全身ポーションまみれになるレッサードラゴン。
「よし!」
私はガッツポースを作る。傍から見たら、私がとち狂ったように見えるだろう。
どうして敵であるモンスターに回復ポーションを投げつけたのか。
その理由は……。
「ゲコゲコ! ゲコゲコ!」
ポーションの香りに釣られてアイストードが集まってきた。
アイストードはポーションの香りが大好きなのだ。
初手で私を取り囲んできたのも、バックパックに入っていたポーションの香りに釣られてきたのだ。
「ゲコォォォォ!!」
いてもたってもいられず、アイストードたちがレッサードラゴンに群がる。
アイストードの皮膚や舌から発せられる分泌液には、痺れ毒の効果がある。
人間だと重傷、レッサードラゴンが相手だと激痛が走るほどの猛毒だ。
「グギャアアァァァァァ!」
たまらずレッサードラゴンが叫ぶ。
仲間を護ろうと他の二匹がアイストードに食らいつく。
「ごめんね!」
前のパーティーで囮役をしていた経験が活きた。
混乱の中、私はレッサードラゴンに謝罪を入れてから急いで通路に戻った。
◇◇◇
「はぁはぁ……。なんとか抜けられた……」
鬼の居ぬ間になんとやら。
私はアンブロシアの花畑を抜けて第2階層まで戻ってきた。
足は遅いが【体力増強】のパッシブスキルがあるので、持久走は得意だ。
そのまま安全なルートを通って、ダンジョンの出口まで戻る。
洞穴の外にある冒険者用の待機小屋に向かうと――
「イノさんっ!」
「おわっ!?」
小屋に顔を出した途端、いきなりセリスさんが抱きついてきた。
「心配しましたのよ! 急にわたくしを突き飛ばしたかと思ったら、イノさんの姿が瓦礫に飲み込まれて。近づこうにも大きな穴が開いてて。それでそれで……!」
「あ~、うん。ごめんね。でもほら、ご覧の通り無事だから」
「そういう問題じゃありません!」
私がセリスさんを慰めていると、今度はリセ先輩が怒ってきた。目には涙が浮いている。
「確かにイノさんなら平気な顔で戻ってくると思いましたけど、それでも万が一があったらと思ったら気が気じゃなくて」
「ありがとうございます。こんな私を信用してくれて」
私はリセ先輩に頭を下げる。
「緊急マニュアルに従って、みんなを外まで逃がしてくれたの先輩ですよね。やっぱり頼りになります」
「それは……っ! んもう。こういう時に褒めるのはナシですよ」
リセ先輩は怒っていいのか照れていいのか迷っていた。
緊急マニュアルには災害時に避難を優先させろと書かれている。
他の初心者冒険者たちの安否も確認したが、みんな無事だった。
「ああ、そうだ。これセリスさんにお土産ね」
私はハンカチに包んだアンブロシアの花の欠片をセリスさんに渡す。
「急いでたから少ししか採れなかったけど、これでちょっとは足しになるかな」
「呆れた。あの状況でお花を摘んでいたのですか?」
「なんだいらないの? せっかく人が苦労して摘んできたのに。大変だったんだよ。レッサードラゴンの群れから逃げるの」
「い、いります! おくらですか! 実家を抵当に入れてでも買い取らせていただきます」
「お金はいらないよ。むしろ慰謝料として受け取ってほしい。初心者を怖い目に遭わせちゃった」
私はセリスさんだけでなく、他の冒険者にも頭を下げる。
「みなさんにもお詫びをします。安心安全を謳ったツアーだったのに、このような事態になってしまい誠に申し訳ありませんでした」
私がそうして頭を下げ続けると、新人冒険者たちは優しく声をかけてきた。
「謝らないでください。地震が起きたのはコンダクターさんのせいじゃないでしょ」
「むしろ、いい経験になりました。どんなに簡単に思える冒険にも危険は付きものだって」
「緊急マニュアルを書いたのコンダクターさんだよね? 事前に読み込んでたおかげでパニックにならずに済みましたよ」
「自分で作った地図を持ち歩いたのも幸いしたよね。アレがなかったら出口わからなかったもん」
「それなー。やっぱ勘に頼ってダンジョンを潜っちゃダメなんだよ。地図を見ながら冒険するなんてダサイと思ってたけど、これからはきちんと地図に頼るよ」
「頼り切ってもダメだけどね。まずは読み方から学ばないと。地図を上下逆さまに持って歩いてたら宝の持ち腐れよ」
「違いない」
あはは、と新米冒険者たちは笑い合う。
私が無事に戻ってきたこともあり、緊張の糸が解けたのだろう。
みんなは許してくれたが失態に変わりはない。
地盤のもろさなど事前に調べられたはず。
そうやって反省していると……。
「あの、イノさん……」
「ん? どうしたのセリスさん」
アンブロシアの花の欠片を受け取ったセリスさんは、頬を赤らめながら私に声をかけてきた。
「決めましたわ。イノ・ランドマイルズさん。あなたをわたくしのパートナーに任命します!」
ふ~ん…………。
「えっ!? パートナーっ!?」
セリスさんの思わぬ発言に、私は一拍おいたあと大声で驚いた。
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このお嬢さん、何言うてはりますの!?
(実はこのシーン、プロットにないアドリブでした。まさかこのあと、あんなことになるとは……)
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