追放されたマッパーはダンジョンツアーガイドとして活躍する。地味な【万歩計】スキルと映像記憶で無双していたら自称聖女に惚れられました「えっ? 私も女の子なんだけど」
第5話 ダンジョンコンダクターのお仕事:受付編
第5話 ダンジョンコンダクターのお仕事:受付編
――私がギルドに雇われてから一週間が経った。
「冒険者パーティー4名さま。一週間ほどのご予定ですと、こちらのクエストは如何でしょうか?」
お昼前。私はギルドの受付カウンターに座り、クエストの相談をしにきた男冒険者にパンフレットを渡す。
パンフレットにはクエスト内容、依頼者、報酬、攻略対象であるダンジョンについての詳細が描かれている。
「ギギの塔は、このオランドの街から往復2日の距離にあります。塔の頂上にあるとされる魔法の指輪を回収するだけの簡単なお仕事で、報酬はなんと相場の1.2倍! ただいま狙い目のクエストとなっております」
「へぇ、そんなクエストがあったのか。だが、世の中うまいだけの話はない。どうせすごいトラップとかあるんだろう?」
「ふふっ。伊達にシルバーライセンスの冒険者さんではありませんね」
私はニヤリと笑うと、ギギの塔の内部を詳細に描いたマップを取り出した。
「少々古い地図ですが、このダンジョンマップがあれば探索はグッと楽になります。お客様のパーティー構成なら比較的簡単にクエストをクリアできると思いますよ」
「コイツはすげぇ! トラップの位置やモンスターの情報まで書いてある。こんな詳細な地図、いったいどこで手に入れたんだ?」
「企業秘密です。さてここで、お客様だけに耳寄りの情報が」
私は周囲を確認したあと、男冒険者にそっと耳打ちする。
「当ギルドでクエストを受注していただけると、今ならなんとこの地図がタダ。ポーションなどが入った楽々冒険者セットもおまけいたします」
「なんだってっ!? 商人から買ったら数十ゴールドはする地図だぞ。それがタダ!?」
「はい。ですが条件がございまして」
私はスッと書類を差し出す。
「お客様のパーティーと当ギルドとの間に専属契約をしていただきます。ご契約いただいた場合、今後は当ギルドからの依頼を優先で引き受けていただくカタチになります」
「ふむ……。まあウチはオランドを中心に活動してるから問題ねぇが」
「それともうひとつお願いが」
「なんだい?」
「塔を攻略する際に気がついた点をレポートに書いて提出してほしいのです。お客さまが感じた些細な違和感程度でかまいませんので」
「それくらいお安い御用だ。よし、あんたんとこと契約するぞ。他のヤツに取られたくねぇ」
男冒険者は決断が早かった。書類にサインをすると地図を手にして受け付けから去る。
「相談に乗ってくれてあんがとな、コンダクターさん!」
「またのご利用お待ちしております」
私はカウンターから出てお辞儀をすると、男冒険者を見送った。
登録名簿に書かれたステータス情報から鑑みるに、あの冒険者パーティーならギギの塔をクリアできるはずだ。
私も別の依頼で塔に登ったことがあり、その際に地図を作成した。
登ったのは2年間の駆け出しの頃で、地図の情報は古い。
ある程度のトラップは回避できるだろうけど完全じゃない。
そこで、あの冒険者パーティーに最新の情報を持ち帰ってもらうことにした。
クエストクリア後、最新バージョンに更新したギギ塔の地図を売りに出す。
地図をタダでサービスしたのはクエストクリア後に不要になるからだ。
専属契約についてはギルド長のカーミラさんの案だった。
地図情報を持ち逃げされる可能性も考えて、ウチと専属契約させたわけだ。
契約時の書類に但し書きもある。違反したらそれ相応の罰金を払わなくてはならない。
「ふぅ……」
喋り続けて喉が疲れた。
カウンターに戻ると、栗毛髪の受付嬢――リセ・メニアック先輩が声をかけてきた。
「さすがはイノさん。早くも営業ノルマ達成ですね」
「リセ先輩もお仕事お疲れ様」
先輩が煎れたのだろう。カウンターには紅茶のカップが二つ並んでいた。
リセ先輩から紅茶を受け取る。今日のお菓子はジンジャークッキーのようだ。
「ごめんなさい。先輩なのに書類整理を任せちゃって」
「いいんですよぉ。ワタシ、裏方仕事が大好きですから。ギルドの受付嬢になったのもそれが理由ですし」
リセ先輩はニコリと微笑むと、上着の袖をまくって力こぶをつくる。
「困ったことがあれば何でも言ってくださいね。ワタシ、イノさんの先輩ですから!」
「ありがとうございます。頼りにしてます」
「頼りにされます!」
ふんす! と鼻息を荒くするリセ先輩。
彼女にとって私は初めての後輩らしく、ギルドに入ってから何かと世話を焼いてくれる。
初めて会ったときは礼儀正しいお姉さんかと思ったけど、こうして同じ職場で働くと素が見えてくる。
リセ先輩は優しくて面倒見がいい、ちょっとお茶目なお姉さんだった。
そんな先輩はカウンターに置かれていたパンフレットを手にして、感心したように口を開く。
「しかし、びっくりしました。イノさんが入った途端、滞っていたクエスト依頼がバンバン回るようになって。どんな魔法を使ったんですか?」
「私はただ倉庫に眠っていた依頼書を整理してカテゴリー別に再分類しただけ。もっとも、私がダンジョンを紹介しやすいようにカスタマイズはしてるけど」
ダンジョンコンダクターの仕事のひとつは『強敵と戦って経験値を稼ぎたい』『お宝を探したい』など、お客さんの要望に応えて最適なクエストを紹介することだ。
相談の際にダンジョンの様子や必要な装備を伝え、場合によっては宿の手配や人員の紹介もする。
「リセ先輩だって受付嬢なんだから、これまで冒険者にクエストの説明をしてきたでしょ? 業務内容はそれほど変わらないと思うけど」
「いやいや。ワタシはイノさんと違って冒険者さんの相談に乗れませんから。何処にどんなダンジョンがあって、どんな装備で挑むのが最適か……なんてところまで細かく把握できませんもん」
そう言うとリセさんは手にしたパンフレットを掲げる。
「しかも、ダンジョンの情報をまとめたこんなパンフレットまで自作しちゃって。これも【製図】スキルの応用ですか?」
「そうだね。ギルド側で把握してる依頼やダンジョンの情報をまとめるついでに、ぱぱっと書いてみたの」
「簡単に言ってくれますねぇ。できる女は違うというか」
「あっ、えっと……気に障ったのなら……」
つい調子に乗ってしまった。愛嬌がないとまた嫌われる。
私がそう思って萎縮していると。
「全然! イノさんはすごいなって感心してたんですよ」
リセさんは太陽のようにペカーっと明るい笑みを浮かべた。
「ギルド長も言ってましたよ。イノさんは類い希なる才能の持ち主だって。実際すごいんですから、もっと自信もってください。下ばかり俯いてたら、せっかくの可愛い顔が台無しですよぉ~」
「か、可愛いって、私がですか?」
「もちろん! 初めの頃に着ていたボロボロな冒険者衣装は、正直ナイなって思ってましたけど」
リセ先輩はそこで手鏡を取り出すと私の姿を映し出した。
試験採用された私は、ギルドで支給されているグリーンを基調とした制服を着ていた。
白いブラウスに絹のベスト、それに丈の短いタイトなスカートの組み合わせだ。
レンジャーみたいな山高帽子を頭に乗せており、隠れ気味だった前髪も上げていた。
「今のイノさんはとっても可愛いです! ギルドの制服もお似合いですよ」
「あ、ありがとう」
「今後一緒にお買い物いきましょうね。おすすめの洋服店があるんですよ。イノさん素材がいいから何でも似合いますよ」
リセ先輩は褒め上手だ。こういうのに慣れてないので、顔が熱くなってしまう。
そうして私とリセ先輩が話をしていると、奥の部屋からギルド長のカーミラさんが姿を現した。
「イノさん。準備は終わっていますか?」
「はい。参加を希望した冒険者はすでにロビーに集まってもらっています。午後一番には出発できます」
「わかりました。吉報を期待しています」
カーミラさんは満足げに頷くと、再び部屋に戻っていった。
上司の登場で慌てて物陰に隠れていたリセさんが、ひょっこり顔を出す。
「準備っていったいなんの話ですか?」
「それは……」
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いったいなんの準備なんでしょうね。
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