第4話 バーバリック視点:そしてパーティーは解散した


 イノがバーバリックのパーティーを脱退したことは、他のメンバーにとって寝耳に水だった。

 寒村の酒場に怒号が響き渡る。



「イノさんを勝手に追放するなんて。バーバリック、あんたの横暴は目に余る! 今日でパーティーを辞めさせてもらう!」


「おい、待てよ!」



 男魔法使いは背を向けて宿を出て行ってしまった。

 魔法使いに続こうと赤髪の女プリーストが席を立つ。



「馬車が来てるからあたしも行くね。乗り遅れたら彼と離ればなれになっちゃう」


「おまえもか! 補助役がいなくなったらピンチんとき、どう対処すりゃいいんだよ」


「しらないよ。ご自慢のマジックアイテムでも使ったら? じゃあね、無敵のバーバリックさん」



 女プリーストは荷物を背負うと急いで宿屋を出て行った。



「クソオンナがっ! あいつの頭ん中はお花畑かよ。男の尻を追いかけやがった!」



 バーバリックはいらだちを隠せず、女プリーストが座っていた椅子を蹴り倒す。

 いつか嫁にでもしてやろうと思っていたが計算が狂ってしまった。



「まあいい。回復なんてポーションがあれば事足りる」



 ゴールドライセンスは伊達ではない。

 金と名声があれば女も寄ってくるだろう。

 上手く利用すれば、田舎で悠々自適なスローライフを送れるはずだ。


 だが、バーバリックは止まらない。

 みんなから賞賛されるような最強の冒険者になる。それが彼の夢だからだ。



「そのためには必要なんだよ。もっと強いマジックアイテムが……」



 バーバリックは宿屋に残った最後のパーティーメンバー、盾役を務める大柄の戦士ゴライアスに声をかける。



「ゴライアス。おまえはオレについてくるよな。今なら報酬山分けだ。おまえの田舎に家を建てられるぞ」


「お、おいらは……」


「次に狙うのは【】だ。挑んだヤツが誰も帰ってこない超高難易度のダンジョンだが、ゴールドライセンスがあればクエストを受けられる」



 バーバリックはゴライアスの返事を待たず、テーブルに置かれた魔法の地図を広げる。



「魔法の地図さえあれば難攻不落の迷宮もパパッと攻略可能だ。こいつは自動筆記機能だけじゃねぇ。3歩先の様子を予測して最適な順路を地図に映し出す【ナビゲート】のスキルが備わってる」



 つまりは危険を事前に察知して回避できるわけだ。順路も自動で映し出されるので迷うことがない。

『最短最速』『バランス』『ノーリスク』という3通りのコースが選択可能だが、バーバリックは『最短最速』しか選ぶつもりはなかった。



「他のメンバーは日雇い冒険者を金で集める。ダンジョン近くに行けばなんとかなるだろ。メンバーが集まるまで、ゴライアス。おまえは盾でも磨いてろ。盾がなければおまえはただの木偶の坊なんだからな」



 バーバリックが意気揚々と計画を話していると、ゴライアスは2メートル近い巨体を揺らして立ち上がった。



「おいら、やっぱり行かない」


「なんだと!? クズなおまえを拾ってここまで育ててやったのはオレだぞ。恩を仇で返すつもりか」


「おいら、バーバリックに育てられたおぼえない。食費は自分で働いて稼いだ」


「そういう話じゃねぇって! ほんとにてめぇは頭が悪いな! 根暗なイノと同じで、オレが声をかけなかったらギルドでくすぶってたって話だよ」


「おいら、頭は悪い。それは認める。だけど、イノさんを悪く言うのは許さない!」



 ――――バンッ!



 ゴライアスは大きくゴツゴツとした手でテーブルを叩いた。



「イノさん、おいらの実力を認めてくれた。いつも頼りにしてるよって、頭を撫でてくれた」


「なんだぁ? 犬みたいに撫でてほしかったのか。言ってくれればそれくらいやったのによ。ほれほれ、お座り」


「おいら、犬じゃない!」


「おわっ!? 吠えるなよ。わかったから落ち着け、な? おまえに体当たりでもされたら骨が折れちまう」


「ふぅ…………」



 じりじりと後ずさるバーバリック。

 ゴライアスは深く息を吐くと、気持ちを落ち着けた。



「怒ったときに落ち着くやり方。これもイノさんが教えてくれた。おいら、あの人に多くのこと学んだ。みんなだってそうだ。とても感謝してる。そんなイノさんをバーバリックは勝手に追い出した」


「しかたねぇだろ。あいつがいるとパーティーの調子が乱れるつーか。いつもゴチャゴチャうるさくて戦いに集中できねぇんだよ」



 バーバックは面倒くさそうにため息をついて耳の穴をほじくる。



「そのくせ戦闘じゃあ後ろに隠れてるだけだしな。荷物持ちならおまえもいる。魔法の地図もある。だからイノは用済みなんだよ」


「バーバリック、わかってない。前で戦うおいらたちが大きな荷物持ってたら邪魔。後ろにいる人が荷物を護るの、すごくいい。アイテムも投げて渡せる。おいら、それで何度か助けられた」


「でもよぉ……」


「もういい。おいら、村に帰る。イノさん、どこに行ったかわからない。お金はたくさん稼いだ。冒険者辞めて田舎で畑耕す」



 ひょいっと大きな荷物を軽々と担ぐゴライアス。

 そんなゴライアスにバーバリックは罵詈雑言を投げかける。



「逃げるのか臆病者! いいぜ、勝手にしな。てめぇのような根性なしは、どこに行っても通用しねぇがな!」


「……さよならだ」



 バーバリックの言葉もゴライアスには響かない。

 唯一残ったパーティーメンバーも宿屋を出て行った。



「くそがっ! どいつもこいつも使えねぇ!」



 怒りの形相のバーバリックはテーブルを蹴り倒す。

 触らぬ神に祟りなし。酒場の主人はすでに店から消えていた。



「いいぜぇ。だったらやってやろうじゃねぇか。てめぇらがいなくてもオレはやれんだよぉ!」



 やはり仲間なんて当てにならない。

 信用できるのは自分の実力と強力なマジックアイテムだけ。


 バーバリックは誰もいない酒場で孤独に吠えた。





 -----------------

 バーバリック視点は一旦ここまで。次回はイノ視点に戻ります。

 いよいよお仕事開始!


 読者さまの☆や作品フォローが創作の後押しになります。少しでも面白い、先が気になると思われたら、応援の程よろしくお願いいたします。



 -------------------------------------------------------------------

 宣伝コーナー 新作ファンタジーVRMMOもの

 -------------------------------------------------------------------

 チュートリアル役のNPCおじさんは、バグった聖剣とゲーム知識で無双する。サービス終了したVRMMOで、バーチャルアイドルと勇者を仲間にして世直しの旅に出ます。

 https://kakuyomu.jp/works/16817330667330000811/episodes/16817330667330240982


 にも応援よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る