自分勝手な呪い

まれ

自分勝手な呪い

 俺には好きな人がいた。

 小学生の頃から中学二年生あたりまで。

 こんなにも長く一途な初恋だった。

 だって、そうだろ?

 ずっとその人一人が好きだったんだから。



 出会いは小学一年生。

 同じクラスだった彼女。

 特に席が近かったわけではない。

 なんなら教室の前後左右真反対だった。

 でも仲は良かった。

 この頃の俺はまだ恋を知らなかった。


 きっかけは入学式の帰りに家が近かったという理由でできた友達。

 同じ幼稚園の友達がいなかった俺にできた小学校での初めての友達。

 彼は残念ながら同じクラスではなかったが。

 この友達の同じ幼稚園で幼馴染だったのが彼女だった。


 そこから仲良くなりお互い名前で呼んでいた。

 まあ、子供の頃ならよくあることだが。

 お互いの家にも行って遊んでいた。

 この頃にはクラスの友達は増えていた。

 そこそこ家が近い友達もできてその子の家で遊ぶことも多かった。

 一番記憶に残っているのが、その子とこの子の妹と彼女と俺の四人で遊んだとき。

 ある日、お化け屋敷を部屋でやろうという話になった。

 チーム分けはシンプル。男子チームと女子チーム。

 男子チームが先攻となったが、全然怖がらせることは出来なかった。

 後攻の女子チームはというと。

 部屋の扉開けた瞬間、長髪と懐中電灯というシンプルホラーだった。

 かっこ悪い話、一秒で二人ともトイレに逃げ鍵を閉めた。

 記憶に残ってるくらいなんだから怖かったけどめちゃくちゃ楽しかったんだろう。


 それともう一つ小話。

 給食が苦手だった俺は減らしても食べきれないことが日常だった。

 もったいないと思ったそこの方!正しい。

 確実に自分が食べれる量まで減らせばよかったじゃないか?そう!俺もそうしたかった。

 でも、減らしていい量の限界があった。

 最低この量は食べなさいって。

 俺の胃の大きさはそれより小さかったのだ。

 この一年で食べきったの一日だけ。

 しかも、給食の時間を過ぎて、昼休みをフルに潰して食べきった。

 この日の献立は詳しくは覚えてないがカレーだった。

 みんな大好きカレーってやつ。あの頃は好きだった。今もう……。

 そのとき、彼女だけが笑顔でこう言った。

 ”よくがんばりました”って。

 うれしかった。今でも覚えてるくらい。



 月日は流れ。ある冬の日。月は二月。

 この月のイベントといえばバレンタインデーだろう。

 今こそ誰でも知っているであろうイベントだが当時の俺は知らなかった。

 俺にも幼稚園の頃女の子の友達がいたらしいが全く記憶にない。

 とまあそんなことはどうでも良くて、要はこれが一番記憶の古いバレンタインの話だってこと。

 この頃の俺もまだ恋を知らない。ちゃんと人を好きになったことがないのだ。

 いや、友達のことは好きだったよ?

 話を戻してと、この日俺は初めてチョコをもらった。

 女の子からチョコがもらえるということしか知らなかった(あげる意味を知らなかった)俺は彼女に対してありがとうとしか言わなかった。

 ちなみに、手作り生チョコだった気がする。

 彼女の母親情報だと初めて一人で作っただとか。

 今になって考えればめちゃくちゃうれしいことだ。

 ありがたいことにこの年から五年生まで毎年この子からチョコをもらえていた。



 二年生になって、同じクラスなれたがちょっとした弊害生まれていた。

 お互いのことを名前で呼んでいるとそれを周りの友達にからかわれることが増えた。

 それがちょっと嫌でその友達たちの前では苗字を、彼女の前では名前を呼ぶことが増えていった。

 当時の担任は若くてよく仲がいいねって言っていた。

 このときも俺はまだ恋を知らなかったが、この先生にはかわいい恋に見えていたのかもしれない。


 二年生のあるとき。時期はあまり覚えていない。

 恋に気づいたかもしれなかった。

 何がきっかけでこの気持ち自体が好きということだと知ったのか。

 それに関しては本当に何も覚えてない。

 覚えているのは確信を持ったときより少し前だったということだけ。

 確信を持ったときというのはずばり二年生のバレンタインデーだった。

 毎年の話すんのか?お前。と思った方もうちょっとだけお付き合いください。お願いします。

 結論からいうと確信を持っただけで何も起きなかった。

 一年間、彼女のことが好きだとわかっても何も変わらなかった。

 好きあったことぐらいで関係は何も。

 変わったのは三年でクラスが初めて別々になったことくらい。

 週に二、三回彼女の教室に休み時間に行っていた。

 あと好きな人がいるのか興味深々な年頃、いるって言えたのはデカかった。

 精々このくらいだった。


 三年のある日、彼女にナチュラルに好きと言われたときに俺は彼女に大好きだよって答えた記憶がある。このとき初めてお互い好き同士であることを知ることになった。それまでは俺だけが知っていた関係。普通ならここで付き合うということになるんだろう。理由は単純。俺が付き合うという概念を知らなかっただけである。

 付き合うという概念は周りは知っていたかもしれない。彼女も。

 のちのち知ったがこのとき有名なカップルがいたらしい。こっちは正真正銘付き合っていた。


 また月日というか年月が流れ、この関係(周りからみれば付き合ってるが実際付き合った事実はない)は続いていた五年生のある頃。

 軽い事件というか事故が起こった。完全に自分のせいなんだけど。

 俺は公園で友達と遊んでいることが多かった。毎日というわけではなかったが。

 遊んでいると公園に彼女の姉が来ることが週に一、二回あった。

 今みたいに携帯を持ってるわけがないので連絡手段は家の固定電話か直接会って言うかだった。

 つまり、要件は彼女が会いたいって言ってるから家まで来い。

 そんな感じで友達と別れて彼女のところに行っていた。

 ある日のその一度があっただけで今までと変わった。

 その日も友達と遊んでいた。

 そしてめちゃくちゃ盛り上がっているときに例のごとく彼女の姉が公園に来た。

 お呼びの理由も同じ。

 ただ違ったのは俺の返事だけ。

 そう行かなかったのだ。

 彼女の姉には、”ごめん、今日は行けないって言っておいて”と言った。

 その日以降、そのお呼び出しはなかった。

 ただ完全に遊ばなくなったわけではなくちょいちょい遊んではいた。



 六年生になってまた同じクラスになり仲良くしていたのだが、ある日ある話が俺の耳に入った。思わず聞き間違いかと耳を疑った。

 それは彼女が彼女の初恋の人(同学年)と付き合っているという話だった。

 このときも好きではあった。

 そもそも、俺と彼女は付き合ってないのだ。

 俺がとやかくいう権利はない。彼女が誰と付き合おうが彼女が決めたことだから。

 その頃から俺は自分の気持ちを心の奥底にしまいこんだ。

 そして、彼女や周りに好きな人はいないのか訊かれてもいないと答えていた。

 と同時に自分にはいないと言い聞かせて。



 中学に上がってからも気持ちは変わらなかった。

 中一のあるとき、彼女がその初恋だった人と別れたらしいという噂が聞こえてきた。

 正直、うれしいと思ってしまった自分もいた。でも今は触れないでおこうとそっといつもの自分で彼女と話していた。約半年、思いを秘めたまま。


 中二のとき友達と近くの大学の文化祭に行った。

 このときすでにラインを手に入れていた俺は彼女と話すことも多かった。

 毎日、学校から帰ってきて話してたりしていた。

 話題はいつも部活のこととクラスのこと、先生の愚痴。

 その日彼女も彼女の友達と来ることは聞いていた。

 芸人さんを呼んでお笑いライブをやってることも。

 そのお笑いライブはなんとかぎりぎり券を取ることができた。

 できたというか受付のおにいさんが足りない分くれた。

 なんとお優しい。ありがとう。

 来ていた芸人さんは三組で一番人気があった方は当時流行っていたバンビーノさん。

 今だからさんってつけてるけど、当時は呼び捨てとか多かった。

 バンビーノって誰?ってなっている人に説明するとコンビでネタは(音でしか覚えてないので間違ってたらごめんなさい)”ダンソン!フィーザキー トゥーザテーサーザ コンサ!(もう一回繰り返し)ダンソン!フィーザキー トゥーザ……ニーブラ!”ってやつ。

 思い出した?出せない人は調べて、出てくると思うし。

 結構人気だった。

 で、問題はこの文化祭(お笑いライブの前後)にも連絡取ってたんだけど、途中で一緒にいた友達に携帯を取られたことがあって彼女に送られてたんだよね。で、彼女も口調と返信のスピードの違いで俺じゃないって気づいてた。

 後日というか一ヶ月後くらいにこのなりすましで送ってた友達と彼女が付き合ってたことがわかった。

 彼女は付き合うとラインのプロフメッセに何ヶ月って書いてたのでそこから逆算してあの文化祭の日も付き合っていたことがわかった。

 正直ダメージはデカかった。

 またさらに自分に気持ちを奥に奥に追いやった。

 これ以降しばらくはこの気持ちを感じることなく過ごしていた。

 高一まで一緒に遊んでいたがこの気持ちが出ることはなく高二からは疎遠になっていった。このときまでは幼馴染と言えていたがもうさすがに厳しいと思ってる。彼女はどう思ってるか知らんが。



 だが、最近になってこの昔の気持ちが上がってきている。今までの反動か情緒がおかしくなるときがある。

 今の彼女のことは知らないし、好きだったのはあくまで昔の小学生、中学生の頃の彼女。

 今の彼女ではない。

 だから、この世に俺の好きな彼女はもういない。

 今までで彼女を超える存在に出会ってない。

 そうこれは呪いだ。

 彼女には関係のない自分勝手な呪い。

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