第16話 とろとろ女との別れと再会(2)

 ピアノを習っていたみどりは、楽譜を買いにいった楽器屋さんに飾ってあった高そうなハープをじっと見ているところを、真野まの結芽ゆめというハープの演奏家の先生に声をかけられ、そのままハープ奏者に転向した。

 もともとピアノでがんばっていた上に、たぶんハープのほうが翠の手にしっくりと合ったのだろう。

 それに、結芽先生と一対一の練習で、そばでいつもむしゃむしゃと何か食べて気を散らしてくれるじゃまな子もいなかったことだし。

 翠は自分でもびっくりするくらいに上達した。

 そして、そのまま地元の高校に進学してみると。

 いままでいなかったのがうそのように、あのとろとろ女の大野おおの萌美めぐみがいた。

 背は伸びているが、とろとろの感じはぜんぜん変わっていなかった。

 いや。

 背が伸びただけ、とろとろがさらに進んだ感じがした。

 ところで、この地方の街で、ハープ奏者なんかそんなにたくさんはいない。

 いや、人前に出て弾けるくらいのハーピストは結芽先生と翠しかいない。

 その二人のうち、結芽先生は、演奏会やほかのイベントで全国を飛び回っているし、一週間や二週間とか海外に行っていることもある。

 したがって、街にいつもいて、実際に動けるのは翠だけということになる。

 自分の高校のオーケストラ部はもちろん、ほかの学校のオーケストラや大学のオーケストラにまで「すけ」に引っぱり出される。お祭りやイベントにも呼ばれる。地方のプロのオーケストラにまで、それも長くて複雑な歌劇の曲の伴奏で呼ばれたときには、さすがの翠もびっくりして縮み上がった。

 それで、高校はふつうに卒業するつもりだ。

 忙しくなってしまった。

 一人でスケジュールが管理できなくなった。舞台に穴を開けることはしなかったけれど、大遅刻はしたし、直前でスケジュール組み直しをお願いするということが何度もあった。しかもけんかっ早いのであちこちで小さいもめごとをいっぱい起こした。

 それで、結芽先生から、だれかマネージャーかせめてタイムキーパーをやってくれる子はいないの、と言われた。

 翠は萌美に声をかけた。

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