第15話 とろとろ女との別れと再会(1)

 教室じゅうに投げ飛ばされたみどりの筆箱のなかみは机の上に戻されていた。鉛筆の芯が折れたりほこりだらけだったりはしたけれど。バラバラにされていた赤ペンも、その部品全部がきちんと戻っていた。

 どうせなら、ちゃんと組み立ててキャップもはめておいてくれればよかったんだけど。

 ともかく、この日の「いたずら」はそれで解決がついた。

 でも、翠は、龍造りゅうぞうたち「活発な男の子」グループの仕返しがあるだろうと思っていた。

 そうでなければ、龍造や広知ひろともの親から、翠の母親に何か言ってくるんじゃないかと思っていた。そうなると翠が母親に怒られる。それが翠にはきつい。

 でも、そんなことにもならなかった。

 「活発な男の子」グループはあれを境に解散してしまったらしい。とくに、リーダーと副リーダーだった龍造と広知は、話はするけれど、前ほどいっしょに盛り上がる感じではなくなってしまった。

 そして、その状態で翠たちは卒業した。

 とろとろ萌美めぐみのいいかげんさがここではっきりした。

 翠は当然のようにいちばん近い公立の中学校に進んだ。そんなお金持ちでもないし、私立や国立や遠くの公立に行きたいなんて考えたこともなかった。

 ところが、お金持ちでなくても洋菓子屋さんの娘の萌美は、電車に乗って通わなければいけない街の私立の中学校に進学したのだ。

 翠と萌美は離ればなれだ。

 翠は萌美の家の洋菓子屋さんを探り当て、何度かケーキを買いにいったけれど、萌美が店にいたためしはない。

 卒業から、三年間、会わなかった。メールも書かなければ、年賀状のやりとりもしていない。

 なあにが「翠から離れずにいたいんだぁ」だ、と思った。

 そして、同じ中学校に進んだあのいじめっ子の龍造は、とんでもないことに、二年生の秋、いきなり翠に告白してきた。

 もちろん一秒もおかないで断った。そうすると、さらにとんでもないことに、やはり同じ中学校にいて、中学校でもやっぱり委員長だった石野いしの愛子あいこに告白した。やっぱり玉砕ぎょくさいした。

 ばかなやつ、と思った。

 でも、それでよかったのだ。

 山西やまにし龍造は、中学に入って以来、サッカー部にいちおう所属していたけれど、めったに現れず、しかしたまに現れると先輩に対して暴言を吐き練習もまじめにしないというモンスター部員として存在していた。

 それが、翠と愛子に振られてから、人が変わったようにサッカーに打ち込み始めた。しかも、力や個人の運動神経で押すというより、みんなに声をかけてチームプレーをまとめる頭脳派だという評判が立った。それで、とうとう三年生に上がったときには主将になっていた。

 たいしたものだ。

 それに対して、山之内やまのうち広知は、同じ中学校にいたけれど、すっかりおとなしくなってしまい、学校にもろくに来ず、たぶんぎりぎりの成績で卒業した。

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