第14話 チョコバナナの時間(2)

 そこまでのあいだに、「活発な男の子」グループのほかの連中も、みどりからチョコバナナをありがたく受け取っていた。

 横を見ると、山之内やまのうち広知ひろともが、びくびくと首をすくめながら、でもおいしそうにチョコバナナを食べている。

 こいつは、山西やまにし龍造りゅうぞうが何かするより前に自分が何かするということのできないやつだったのに。

 龍造にも

「はい」

とにっこり笑ってチョコバナナを差し出した。

 龍造は、最初は顔をそむけた。

 「はい!」

 翠はにっこり笑って差し出すのをやめない。

 龍造は、翠をにらみつけ、にらんでそのまま目をらそうとしたらしい。

 ところが、逸らせられなかった。

 じっと翠の顔を見て、それから後ろにいる萌美めぐみの顔を見て、また翠の顔を見る。

 じーっと見る。

 怒っているとか、笑っているとか、いまいましそうにしているとか、そういうのではなかった。

 ぽかんと見ていた。

 ここだ、と思う。

 「はい!!」

 翠はせいいっぱい笑って、龍造の前にチョコバナナを突き出す。

 「あ、あぁぁ……」

 何か言おうと力をこめたらしいが、口を開くとその勢いが逃げて行く。

 その感じが手に取るようにわかって、おもしろい。

 「あ、ありがとう」

 言って、龍造も翠の手からチョコバナナを受け取った。

 手渡しするときにちょっと触れた龍造の手は、ごわごわしていて、それに冷たかった。

 「それと、さっきはごめん」

 小さく言ったつもりだろう。

 ところが、その声は、すぐ近くの広知に伝わり、ほかの子たちも聞こえたらしい。

 教室が、しん、として、教室じゅうの子が龍造と翠を見る。

 じっと見ている。

 チョコバナナを食べている子も、まだ受け取っていない子も、食べ終わってチョコのついた箸をなめている子も、それも終わって机に箸を置いた子も、みんな見ている。

 龍造は、じっと翠の目のあたりを見ている。

 「怒らないだろうか?」とでも言うように。

 なんだ、意気地いくじなし、と思う。

 無視して通り過ぎた。

 おおっ、という声のまじったため息が、教室じゅうから聞こえた。

 「やるじゃない」

 とろとろ萌美が、とろとろしない声で、翠の耳もとでささやいた。

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