第10話 とろとろの時間(2)

 萌美めぐみが答える。

 「それも試してないけど、どうなのかな?」

 「抹茶と甘いもの、って、なんか合う感じがするじゃない?」

 「でも、それは別々に食べて飲んでするからでしょう? だいたい、抹茶のチョコレートは、抹茶の風味がついてるからなぁ」

 「じゃあ、紅茶のチョコレートのってないの?」

 「ああ、ないよねぇ。世のなかにはあると思うけど、うちにはない」

 そして、萌美は、ぴくっと肩を上げて、短く笑う。

 「まあ、作ればいいんだけど」

 「ああ。作ればいいんだ」

 そうか。家が洋菓子屋さんなんだもんな。

 「うん……」

 しばらくしてから、言う。

 「紅茶なら、何味がいいかなぁ? ダージリンか、アールグレイか……」

 そのころのみどりは、ダージリンもアールグレイも知らなかった。だから答えなかった。

 萌美は大きく伸びをした。

 立ち上がる。

 どこへ行くのかと見ていると、萌美は教室の椅子を並べ始めた。

 翠は黙って見ている。

 萌美は、うんっ、と、もういちど伸びをした。

 並べた椅子に、すーっと横たわる。

 「何やってんの?」

 そのとろとろ顔をのぞきこんで、翠は言った。

 「うーん?」

 声も眠そうだ。

 「理科の時間が終わるまで、ここで寝てようよ」

 「はーぁ?」

 どこからそういう発想が、と思う。

 「だめだめ。それこそ、先生に見つかったら言いわけできないよ」

 「だいじょうぶだって」

 萌美は寝転んだまま健康な白い歯をきらめかせて言った。

 「ここ、二階の端っこだし、先生なんか放課後まで来ないよ」

 「でも、どこかの授業で、この教室、使うんじゃ……?」

 「使わない。それは確かめた」

 どうやって、と思う。

 それに、どうしてこいつはこういうことには念入りなんだろう?

 「わたしたちが保健室にいないってばれたら?」

 「だれもそんなの確かめないって」

 萌美は、言って、あいまいに笑って、翠から目を離して上を向いた。

 「いままで保健室に行くって教室出てった子が、みんなおとなしく保健室で寝てたと思う? そんなのあり得ないでしょ」

 「あり得なくはないと思うけど……」

 「だって、あそこ、ベッド二つしかないんだよ? 全校で何人が保健室に行くと思ってるの?」

 そういうものなのか。

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