第5話 「活発な男の子」ども(4)

 大野おおの萌美めぐみは、それでも同じ調子でつづけた。

 「そのかわり、仲島なかしまさんが今日じゅうにみんなにお菓子を渡せば、あんたたちが仲島さんにいたずらしたのは悪いことになるよね? 悪いことをしたら、仲島さんに謝らないといけないよね?」

 「ああ、まあな。それはそうだよな」

 龍造りゅうぞうの尊大な答えに、いじめられていたみどりが、ああ、ばか、と思う。

 翠が「いたずらすれば?」と言ったのだから、いたずらしたのは悪いことにはならないはずなのに。

 でも、どっちでもよかった。

 翠はこいつらにお菓子をあげることはできないし、最初からその気もないのだから。

 龍造や広知ひろともやほかの男の子たちも同じことを考えているのだろう。

 大野萌美は、すっと手を伸ばして、翠の手首を握った。

 さっきのは痛かったが、こんどは気もち悪い。

 萌美の手の中途半端な冷たさと、握っている力の弱さとが。

 でも、それで、萌美は翠の手をぐいと引っぱった。

 その力が、翠がよろめくくらいに強い!

 こんなときでなければ、翠は「何するの!」と怒っていただろう。

 「何すんだよ?」

 翠ではなく、山西やまにし龍造が言う。

 「保健室行くの。仲島さんは二時間くらい保健室で休んでるからね。それと、これで骨にひびが入ってないか、見てもらわないと」

 萌美は、翠の手を引っぱって、その手の甲のボールペンでぐりぐりされたあとを男の子に突きつける。

 「骨にひび……?」

 龍造はたじろいだ。

 何をたじろぐんだと思う。

 こいつらがクラスでいちばん背の低い子をいじめたときは、指の骨を骨折までさせているのだ。それでも、こいつらは自分たちのせいではないと言い張って、謝りもしていない。

 「とにかく、仲島さんは保健室に行って、二時間くらい休むの。わたしは付き添うの。そう先生に言っておいて。それから、石野いしのさん」

と、萌美は、女の子の委員長を呼んだ。

 「さっきこの子たちが投げた仲島さんの筆箱のなかみ、集めておいてくれる? 仲島さんは手をけがして、保健室に行かないといけないから」

 「う、……うん……」

 萌美は委員長の石野愛子あいこまでうなずかせてしまった。

 「じゃあ、行くよ、仲島さん」

 そう言って、萌美は、翠の手首を握ったまま、さっさと歩いて教室を出てしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る