第4話 「活発な男の子」ども(3)

 「やめれば?」

 ほんわかした、地味な声だった。

 はっきり言えば、場違いな声だ。

 その声の主がだれか、少しのあいだ、わからなかった。

 みどりだけではない。「活発な男の子」どももわからなかったようだ。

 その子は、龍造りゅうぞうが床に投げつけようとしている翠の筆箱を、下から押さえていた。

 山西やまにし龍造の斜め後ろから、やっと輪の中に入ってくる。

 それが大野おおの萌美めぐみだった。

 深緑のセーターに黒いスカート、それに髪の色も黒くて、ほんとに目立たない服装をしている。

 ふだんから、教室にいるかどうかわからないほど、どうでもいい子だった。

 翠は、萌美とは、知り合いだ。

 でも、そんなに親しいわけではない。

 教室の何人かの子が、

「なんだ、仲島なかしま翠がせっかく泣きそうになってるのに、ここで止めるのかよ?」

という顔で、止めに入った萌美を険しい顔で見ている。

 男の子たちが何も言い返さないでいると、萌美はつづけた。

 「何やってるの?」

 「こいつが、お菓子あげないからいたずらしろ、って言ったから、いたずらしてるんだよ」

 リーダーの山西龍造が答える。萌美がとろとろした言いかたで言い返す。

 「いたずらしろ、じゃなくて、いたずらすれば、でしょ? しかも、そう言ったのは、仲島さんがお菓子を持って来てないからじゃないの? だいたい、お菓子なんか学校に持ってきたらいけないでしょ? それをあんたたちにあげられるわけがないじゃない? あんたたちが最初から無理なことを言ってるんだよ」

 そのくどい言いかたは、助けられている翠がいらいらするくらいだった。

 でも、そのほんわかした声に男の子たちは言い返せなかった。

 言い返せないのは男の子たちだけではない。

 翠だって、たとえお菓子を持ってきていても、こいつらにやる気なんかまったくない、と言い返したかった。

 声が出ないのは、龍造たちの仕打ちが頭にきて、声が出ないからだけではなかっただろう。

 萌美のとろとろペースに引きずられていたのだ。

 「つまり、仲島さんがお菓子をあんたたちにあげれば、いたずらはしない、ってことだよね?」

 「あ、ああ」

 ようやく山西龍造が言う。それは、そろそろ、ほかの男の子たちが、リーダーが何か言わないかと龍造の顔をにらみ始めたからだっただろう。

 「でも、こいつがお菓子持ってないなら、しようがないよな?」

 「いま持ってなくても、あとで渡せばいいでしょ?」

 大野萌美がこう言ったとき、副リーダーの山之内やまのうち広知ひろともがにたっと笑った。

 広知が、隣の龍造に耳打ちする。龍造も同じように笑った。

 「それは今日中ならばな。ハロウィンは今日だけだからな」

 上から見下すように胸を反らせて、龍造は言った。

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