第3話 「活発な男の子」ども(2)

 みどりは、べつに成績が悪くもないし、家がそれほど貧乏なわけでもない。暗いわけでもないが、友だちがいないという点では、いじめやすい子だったのだろう。

 そんな相手にお菓子をあげるつもりもなかったし、だいたい学校にお菓子なんか持ってきていない。

 「じゃ、お菓子あげないから、いたずらすれば?」

 そう答えると、「活発な男の子」たちは、翠の目のまえでがははははっと声を立てて笑った。

 机の上に出したままにしていた筆箱をさっそく取り上げる。

 「あっ、何するの! 返しなさいよ」

 言って立ち上がった翠を、グルーブの男の子がさえぎる。

 「おまえの言ったとおり、いたずらするんだよ」

 副リーダーの山之内やまのうち広知ひろともが翠に言う。翠は筆箱のほうに手を伸ばして取り返そうとするが、男の子二人にじゃまされて取れない。

 広知は、筆箱を開けて、なかみをリーダーの山西やまにし龍造りゅうぞうに手渡した。

 「あっ、何するのっ!」

 「ほいっ、ほい、ほれっ、ほれっ、ほっ!」

 龍造が、なかみを教室の中にばらまく。教室の前に投げたり、後ろに投げたりだ。翠の鉛筆や定規や分度器が教室中に散らばる。それが教室の子どもたちに当たっても知らぬふりだ。

 「ぴゅうっ!」

 消しゴムは、いつも目立たない少女マンガ好きの女の子、折川おりかわやよいの首筋あたりに、力いっぱい投げつけられた。

 やよいは泣き出す。

 こんなときでも、こんなことくらいで泣くことはないと思う。翠はそういう子だ。

 だから、こんなふうにいじめられていても、みんなちらちら見るだけで、だれも助けに来ない。なかには、いつもいばっている翠がいじめられていい気味だという目でこっちを見ている子もいる。

 龍造は、最後に残った赤ボールペンのキャップをはずした。廊下のほうに投げる。そして、赤ボールペンも投げそうな姿勢で上にかざす。

 「返しなさいよっ!」

 伸ばした翠の手がやっと自由になる。

 でも、ほんとうは手が引っぱられたのだろう。

 「ああっ!」

 ぐりぐりぐりぐりぐり……。

 龍造が力いっぱい手の甲にボールペンを振り下ろし、その先を手の甲に押しつける。

 「返してやったぜぇ!」

 龍造が言うと、ほかの「活発な男の子」がそれに合わせて笑い声を立てた。

 痛いのに耐えて、翠は抗議する。

 「こんなの返したことに……ならないじゃない! 返しな……」

 ぺんっ!

 ペンはおでこに力いっぱい投げつけられた。気絶するかと思うほどの力だった。ペンははね返って、どこかへ飛んで行ってしまう。

 「返しただろ? 何か文句あるのかよ?」

 そう言って、山西龍造は、さらに空になった筆箱を床に叩きつけようとした。

 そのとき、じゃまが入った。

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