第2話 「活発な男の子」ども(1)

 「お菓子くれないといたずらするぞ!」

 「トリック・オア・トリート」という英語の表現など知らなかった小学校の六年生のころだ。

 その日、クラスの「活発な男の子」どもが、にたにた笑いながらみどりの机を囲み、そう言った。

 ハロウィンということばは知っていたと思う。けれども、それが何かは知らなかったし、まして、それが自分の生活に入りこんでくるなんて思っていなかった。

 教室での昼休みのことだから、その子たちも仮装なんかしてはいない。

 だから、翠は、斜め前で自分を見下ろして笑っている男の子に向かって

「はあっ?」

と言い返した。

 「活発な男の子」どもは、しばらくにやけ笑いしながら互いに顔を見合わせていたが、もういちど声を揃えて

「お菓子くれないといたずらするぞ!」

と言う。

 こいつらのやることはわかっていた。

 いつも四人か五人の組みで行動している。

 みんな国語とか算数とかの成績はクラスの最低より少し上ぐらいだ。体育の成績はみんながいいわけではないのだが、体のがっちりした山西やまにし龍造りゅうぞうという子がリーダーで、こいつは力も強い上に運動神経がいい。

 だからこいつらにけんかを仕掛けても勝てない。

 しかも、この山西龍造と、それにいつもくっついている副リーダーの山之内やまのうち広知ひろともとは、親がお金持ちらしく、先生たちもこの子たちに強い態度で出られないという。

 いま知っていることばで言えば、親が「モンスターペアレント」だったのだろう。

 それで、やることと言えば、いつも一人で暗くしている女の子とか、こいつらより成績の悪い男の子とか、背が高いのに痩せている子とか背が低い子とか、家が貧乏で学用品も揃えられない子とか、そういう子たちを狙い撃ちにしていじめる。

 クラス替えがあった最初のころは、委員長の石野いしの愛子あいこが「やめなさいよ!」と言って勇敢にやめさせようとしていた。

 けれども、こいつらは陰でその石野愛子の弱点をつかんだらしい。それで、一度、愛子を泣かせた。それ以来、愛子も何も言わなくなった。

 愛子の友だちで、気の強くてやっぱり運動神経のいい吉元よしもとえりという女の子が仕返ししようとして、逆にこの子たちに泣かされた。

 男の子の委員長には最初からおどしがかけてあったのか、それとも委員長もこの仲間の一人なのか、最初から見て見ぬふりだ。

 その矛先ほこさきがついに翠に向いてきたのだと思う。

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