第22話 仲間を助けたい気持ち

 研究所では研究員たちがシマリスの検査や実験などを行っていた。それが終ると檻に入れられて食事をあたえられる。ククジェルはそれに手を出さずに仲間たちのことを考えていた。


「みんな大丈夫かな? ねえガルマ」

「きっと大丈夫だ。心配するな」

「うん」

「それより、魔法でここから出られないのか?」

「それが、頭がぼやーっとしていて集中ができないんだ」

「あいつらになにかされたんだ、ここから逃げられないように」

「ガルマ、どうしよう」

「チャンスを待つんだ。いまは」

「うん」


 ククジェルはまた睡魔に襲われて眠りについた。


 そのころ、町では動物たちが生中継されていた。街頭モニターに動物たちの映像が流れている。そのモニターからはアナウンスが響いていた。


『動物たちが一斉にどこかへ向かっている模様です。一説によれば収容所にいた動物たちもまじっているとのことです……』


 町の人々はそのようすをながめていた。それは唖然としたり喜んだり怯えたりしている。


「あそこだ! あそこにククジェルはいる!」


 オウガはそう言って、研究所の敷地に入り自動ドアを通り抜け建物のなかに入って行った。


 そのとたん、従業員や研究員たちの悲鳴がこだました。


 資料をバラまく者、ただ声を上げているだけの者、動物たちを捕まえようと体を張る者。動物たちはそれらをかわしたり飛びかかったりして研究所の奥へ向かっていた。


「あ、ちょっと失礼、ふふふ」


 ルーブがビデオカメラを持ち研究所内を撮りながらそのあとを追って行った。


「ポーメット博士!」


 研究員のひとりがあわてて駆け寄ってきた。顕微鏡をのぞき込みながらポーメットは返した。


「なんだ?」

「動物たちが!」

「あ?」

「動物たちがこの研究所に入って……」


 すると悲鳴が遠くのほうで聞こえてくる。


「いまのはなんだ?」と言って、ポーメットは顔を上げた。


 実験室内は揺れて遠くのほうから地響きのような足音が聞こえ始めた。それは段々と近づいてくる。


 ポーメットは実験室内を飛び出して辺りのようすをうかがった。ふたたび悲鳴が聞こえてくる。


「まさか?」


 ポーメットは急いで実験室にもどり研究員に告げた。


「おい、そこの自動ドアの電源を切れ、それからそのドアをなにかでふさげ! 早くしろ!」

「はい」


 その室内で働いていた研究員たちは急いで机や椅子などで自動ドアをふさいだ。それから窓も棚などを移動させてふさぐ。


 動物たちは実験室前まできた。ドンッドンッとドアを開けようと体当たりをしている。


「ポーメット博士、これは一体」

「シマリスを助けにきたんだろ、まさか助けにくるとは思わなかったな」

「どうします?」

「そうだな……研究所全体に例の睡眠ガスをまくんだ。準備をしろ」

「全体に睡眠ガスを?」

「そうだ、実験室内にいる研究員たちにはガスマスクを渡しておけ。早くするんだ!」

「ですが、この場所以外で働いている者たちはどうすれば?」

「そ、そうか。すぐに避難命令を出せ、この建物から避難させるんだ」

「は、はい」


 ポーメットは壁にかけてあるガスマスクをとりそれを被った。


『動物たちめ、私の研究の邪魔はさせん』


 ポーメットの企みに対して動物たちはドアを開けようと体当たりをしている。


「開かねぇ」


 オウガやそのほか比較的体の大きい動物たちがドアを破ろうと試みている。しかし、そのドアを開けることができなかった。


「間違いなくこの先にククジェルはいるんだが、クソッどうすればいい」


 通気口から風が吹いて、そこからククジェルのにおいが届いてきた。それに気づいたライラが言った。


「ねえ、あそこからククジェルのにおいが漂ってくるわ。あそこからなかに行けないかしら」


 ライラは壁の一番下の隅にある四角い枠に目を向けた。オウガたちはそこへ近寄るとその場所を確認した。


「ここを通れってのか? どうやって」


 通気口にはふたがついていて誰も通れないようになっている。


「開けるのよ」


 ライラはそう言って前歯で噛みちぎろうとした。でも、硬くてそうはいかなかった。どんなものがきても跳ね返せるように、そのふたは動物たちの進行を阻んでいた。


「硬いわ、ねえみんなも手伝ってくれる」

「俺に任せろ」


 そう言ったのはオオカミのグビルだった。グビルは遅れて研究所にやってきた。


「お前は?」とオウガはたずねた。


「俺はグビル」


 大きな体に黒い毛並みと吊り上がった目が威圧的に周囲を黙らせる。


「俺はさっき夢を見ていたんだ、ガルマのな。あいつは人間どもに捕らわれている仲間たちを助け出そうとしていた。だがやられた。人間たちの手によってな」


 このなかで一番大きい体がゆっくりと通気口に近づく。


「バカなやつだぜ、人間に捕まったやつなんか放っておけばいいものを……ガルマは親友だったんだよ。あいつが夢のなかで言っていた。ククジェルを助け出してくれってな」


 グビルは通気口のふたを噛み一気に引きはがした。そこに薄暗い空洞が顔をのぞかせる。


「俺の体じゃなかに入れない、あとは頼む」

「わ、わたしが行くわ」


 ポランが前に出てきて言った。


「わたしはなにもできなかもしれないけど、助けに行きたい」


 それから通気口のふちに身を乗り出した。


「待って……」


 するとニャミィがそれを止めた。


「一緒に行きましょ」


 そうしてニャミィはポランの隣につく。2匹は通気口のなかに入ろうと足を踏み出した、その瞬間、ニャミィはポランを突き飛ばして通気口のなかに入った。


「ごめんねポラン、やっぱりあたしが助けに行くよ」


 素早い動きでニャミィは通気口の奥へ向かった。


「ニャミィ! 待って!」


 ポランはそのあとを追おうとしてふたたび通気口に入る。


 そのとき警報が研究所内に響いた。ポランは足を止めて通気口から出てきた。


「なんの音?」


 天井を見上げながらポランは言った。


 鳴り響く警報を聞いた研究員たちはあわただしく避難していく。


「な、なんだ!」


 オウガは首をあちこちに動かして辺りのようすを見た。


「見て、人間たちが外へ逃げて行くわ!」


 ライラが言うと、そこには滑ったり転んだりしながら駆け抜けていく人間たちがいた。それから人間たちの姿はなくなり、動物たちだけが残った。


「オウガどうする?」


 ライラは焦るように聞いた。


「待つんだ、ニャミィとククジェルがまだこのなかにいる。だからもどってくるまでここで待つんだ」


 オウガはそう言って実験室のドアをにらみつけた。



 ルーブはビデオカメラで逃げていく研究員たちなどを撮りながらその警報を聞いていた。


「なにが起きているの? まったく、あのふたりはまだかしら」


 監督だったら、これは絶対撮っておけって言うわね。そう思いながらルーブは必死にカメラを回しつづけた。



 そのころ、ニャミィはククジェルのもとに急いでいた。


「なんか変な音が鳴っているわね。早くしないと」


 ニャミィは通気口を駆け抜ける。


 ポランには悪いけどさ、あたしだけで行けばククジェルからおいしい食べ物をもらえるでしょ、助けに行ったってことでさ。


 ポランは臆病だからどうせ途中で引き返すでしょうし、それにあたしのほうが足は速いわ。


 そんなことを考えながらニャミィは実験室の前の通気口まできた。


 そこにも通気口のふたがついておりニャミィは前足や牙などを使ってこじ開けようした。しかし、頑丈で開けることができなかった。


 そのふたからのぞくと檻に入れられているククジェルを見つけた。ククジェルは横になっていて眠っている。


 ニャミィはそこに向けて声をかけた。


「ククジェル、助けにきたわよ」


 ピクリと体を動かして反応するがまた眠ってしまう。もう一度ニャミィは声をかけた。


「起きなさいよ、せっかくあたしが助けにきたのに。ああ、そうそう、みんながあんたを助けにきたんだったわ。だから目を覚まして、それからここを開けなさい!」


 それに気づいたガルマはククジェルを起こした。


「おい、おい! ククジェル起きろ!」


 その声に力なくククジェルは体を起こした。


「どうしたの?」


 とたんに警報がククジェルの耳に入ってくる。


「なに、なにがあったの?」


 あわてるククジェルをガルマは制した。


「落ち着け、ククジェル。あそこを見てみろ、ニャミィがきているぜ」


 通気口からニャミィの顔が見える。


「あっ! ニャミィ! どうして?」

「あいつが言うには、どうやら仲間たちがお前を助けにきているらしいぜ」

「みんなが……」

「ああ、だからニャミィがあのふたを開けろと言っている」


 ククジェルは通気口のふたをが開くように念じた。だが、集中力が出ずに開けられなかった。ふたたび試みるとふたは開いた。その拍子に睡魔が襲い、立っていられずに横になる。


 ニャミィは颯爽と駆け寄りククジェルの前にきた。

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