第21話 一致団結する動物たち

「……いまだ、やれ」


 紐が外されて鉄籠が落ちる。


 ククジェルはその気配に気がついて上を見上げた。そこには大きな口があった。自分たちを飲み込もうとして下に向かってきている。


 ククジェルは急いて動物たちが集まっているまんなかに行き、突風を起こした。


 その風圧に動物たちは吹き飛ばされて食べ物から離れた。その衝撃で目が覚めたように動物たちはククジェルを見た。


 そのなかの何匹かが「ククジェル」と名前を呼んだ。


 ガシャン! と鉄の籠が地面に突き刺さりククジェルだけが捕まってしまった。


 なにが起こっているのかわからず、ほかの動物たちがククジェルを助け出そうと籠の周りに集まる。


 だが、なにをしてもその籠を退かすことはできなかった。


「ククジェル、ごめん」や「ククジェル、僕たち腹減っていたから……」という絞り出すような声で動物たちはククジェルに謝った。


 そんな仲間たちのためにククジェルは言った。


「ぼくのことはいいから、みんなは早く逃げて!」


 その呼びかけに対して、誰もその場からは離れられなかった。欲に負けた自分たちがククジェルを置いて逃げ出すことなどできなかったのだ。


 きょろきょろと首を動かしてククジェルは焦っていた。


「ククジェル、早く魔法でここから抜け出すんだ」


 ガルマに言われてククジェルは素早く念じた。だが、焦っているため集中することができない。


 そのとき、籠から白いガスが噴出し辺りをおおった。


 動物たちは次々と倒れていく。近くの茂みに隠れて見ていたオウガも倒れる。


 ククジェルもフラフラになり力尽きてその場に倒れた。ガルマは必死にククジェルに呼びかけた。


「ククジェル、どうした!? しっかりしろ! ククジェル!」


 しばらく噴出したあとポーメットは言った。


「よし、もういいだろう。ガスを止めろ」


 ガスは止まり次第にその場が浮き出てくる。ガスが完全に消えると動物たちは1匹残らずその場に倒れていた。


「じゃあ研究所に連れて行くとするか。おい、シマリスを籠から出せ」

「はい、博士ほかの動物たちはどうします?」

「あとは放っておけ、特殊な睡眠ガスだ、そのうち目が覚めるだろう」


 そうして研究者たちはシマリスを捕まえて研究所に持ち帰った。


 

 それから、しばらく時が経ちボリィたちは森にきていた。


 いつもの道を通り抜けて動物たちが顔を出す場所まで歩く。また未知の生物が撮影できればもっと面白い映画になるとボリィは思っていた。


 そんな現象を逃さないようにギャズはビデオカメラを回しながら歩いた。


 ルーブも適当に照明を木々の隙間や茂みなどに向けて歩く。そこに未知の生物がいればすぐにふたりを呼べるように。


「うーん、静かだなぁ」


 ボリィがつぶやくとギャズはそれに答えた。


「そうですね、もしかしたらこの前みたいに未知の生物があらわれる前兆かもしれませんね」

「ああたしかにな、前もこんな静かだった。そして動物たちが次々とあらわれてだな……」


「監督!」とルーブは声を荒げた。人差し指を森の奥に向けて驚いている。


「どうした?」


 ボリィは聞き返してその指の先を確認した。そこには動物たちが何匹も倒れている光景があった。


「えっ!?」とボリィは声を上げると不安がよぎり目を細めた。


「監督! 動物たちが!」


 ギャズはその光景を撮りながらあわてる。シィっと口元に指を当ててボリィはギャズを黙らせた。


「静かに、もしかしたらこの前俺たちを襲った水の化け物に襲われたのかもしれない」


 そう言ってボリィは目を左右に動かしながら辺りを警戒した。ギャズとルーブも同じように辺りのようすをうかがう。


 ボリィたちは警戒しながら倒れている動物たちに近寄って行く。その足音に気がついて1匹の動物が目を覚まして体を起こそうとしていた。


 ボリィは「隠れろ」と言って3人は素早く近くの茂みに身を潜めた。するとそこにニャミィがあらわれてその惨状に毛を逆立てながら驚く。


 雄ネコのジェミーがそのなかにいて、体を起こそうとしているが起き上がれずにいた。それに気づいてニャミィは駆け寄った。


「大丈夫かい? いったいなにがあったんだい!?」


 ニャミィは聞くとジェミーは力なく答えた。


「俺たちのせいだ。俺たちがククジェルの言うことを聞かずに、食べ物に夢中になっていたから」


 ニャミィは辺りを見ながら聞いた。


「ククジェルはどうしたんだい?」

「たぶん、人間たちに捕まった」

「えっ!?」


「俺たちが食べ物に群がっていたら、ククジェルがやったんだと思う、俺たちをその場から吹き飛ばして、そのあと檻が落ちてきて、ククジェルだけがその檻のなかに……」


 そこで言葉を切ってジェミーはそのあと起きたことを思い出していた。


「……そう、たしか白い霧が辺りをおおって、そしたら急に眠くなって……ククジェルの呼びかけを俺たちが聞かなかったからこんなことに」


「ふうん、そうかい……」


 このままではいざっていうとき、おいしい食べ物を出してくれる者がいなくなると困る。そんなニャミィの想いはひとつだった。


「だったら、ククジェルを助けに行くよ」


 それからニャミィたちはその場に寝ている動物たちを起こしていった。


 全員起こし終えるとニャミィを中心に動物たちが集まる。そのほかにもオウガやライラ、ポランなども話しに加わった。


 オウガが言った。


「ククジェルは人間たちに捕まった。だから俺たちで助けに行く」


 オウガはそう言うと町のほうをにらみつける。ライラが続いて言った。


「そう、わたしたちはククジェルに助けられた、人間たちの手から自由にしてくれたわ。今度はわたしたちがククジェルを自由にさせに行く番よ」


 怯えを消してポランは言った。


「わ、わたしもククジェルに悪い人間たちから助けられたわ。だから、わたし助けに行きたい」


 ニャミィはため息をひとつついて言った。


「はぁ~まったく。とんだお騒がせ者だねククジェルは。あたしはべつに助けてもらっちゃいないけどさ、あいつがいないと食いもん……じゃなかった。寂しいだろ、だからあたしも行くよ」


 集まった動物たちはククジェルを助けるために一致団結をした。


「で、ククジェルの居場所は誰かわかる?」


 ニャミィは仲間たちを見まわしながら聞いた。するとオウガとライラが声を上げた。


「俺ならわかる。ククジェルのにおいをたどって行けばつくはずだ」

「わたしもわかるわ」

「ふうん、じゃあオウガとライラのあとにみんなついて行くよ、みんな準備はいい?」


 皆それぞれが返事をしたりうなずいたりした。それは意を決したようなそんな力がこもっていた。


「じゃあ行くぞ、みんなついてこい!」


 オウガのかけ声で動物たちは一斉に町に向かった。

 

 動物たちの行進にボリィたちは身を潜めた。その津波のような行進が通り過ぎるとあわててボリィは言った。


「あ、あいつらを追うんだ! 早く!」


 3人は走って動物たちを追って行った。それから動物たちの背中に追いつく。


「ギャズ! カメラを止めるな、ずっと回し続けるんだ!」


 ボリィの言葉にギャズは「はい」と答え、ビデオカメラを動物たちに向けた。



 オウガは全速力で走ってはいない。それは自分の速さについてこられない者がいるために緩い足取りで町に向かっていた。


 反対にボリィたちは必死だった。動物たちのあとについて行くため全力で走っている。


 ボリィは途中で力尽きて「あとは頼む」と、ふたりに告げて歩き出した。


 ギャズも腰の痛みをこらえながら走っている。だが途中で腰を押さえて走るようになり、それから歩き始めた。


 ギャズはルーブに「たのむ」とだけ言ってビデオカメラを渡した。


 ルーブは二日酔いをこらえながら走った。頭がガンガンして気持ち悪さもこみあげてくる。でも、それをとどめていたのは映画コンクールでの賞金だった。


 動物たちは町に入りそのまま真っ直ぐ研究所のほうに向かった。


 町の人たちは動物たちの集団に驚き、なにもできずにそれが通り過ぎていくのをただ見ていた。


 人の叫び声を聞いて警察官たちがその行進を止めようとするが、どうしていいのかわからず笛をひたすら吹いて怒声を上げていた。


 町の騒々しさにロビは窓の外をのぞいた。


 さまざまな動物たちが道を埋め尽くすほどにいて、地響きが聞こえてきそうなほどの足音を立てて走っていく。


「……お、お姉ちゃん!」と近くのソファで週刊誌を読んでいたリンリーに言った。「なに?」とふてくされるような感じにロビのほうへ目を向ける。


「動物たちが!」

「どうぶつ?」

「動物たちが、いっぱい!」


 訳がわからないとリンリーは渋い顔をして、ポニーを抱きながら窓の外をのぞき込んだ。


「……なにこれ」


 リンリーは目を丸くするとポニーも同じ行動を取った。


『みんな、仲間たちが。どうしたんだろう? みんなすごく怒っている』

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