第19話 狙われたククジェル
ピアメイトリィの森にボリィたちがくると早速ククジェルを探し始めた。網を持ちながら森の奥へと進んで行く。
ギャズだけはビデオカメラを持ちいつでも撮れるようにつねに回している。
泉のある広場にきて辺りを見まわしていると動物たちが突然あらわれた。
「お、おい、あれを見てみろ」
ボリィは森の奥のほうを指さしながらふたりに声をかけた。ふたりはそのほうに目をやると夢でも見ているんじゃないかと思い目をさすった。
ギャズはビデオカメラをそこへ向けた。ルーブは驚きながらもボリィに聞いた。
「えっ? 動物たちが次から次へと泉の周りに……これって」
「ああ、動物たちが森の奥からではなく、空間からあらわれている」
「なんでこんなことが?」
「……シマリスの仕業だ。なぜそんなことをしているのかわからないが、シマリスの不思議な力で動物たちをここに送っているんだ」
すると、そこにククジェルがあらわれた。
「あっ! おい、シマリスだ」
ボリィはそれを見て網を強く握りしめた。
「監督、この網であのシマリスを捕まえるんですよね」
ルーブが聞くとボリィはうなずき返した。
「そうだ、だがあくまでもそういったシーンを撮るだけだ。それを撮ったらシマリスは解放してやるんだ」
「はい」
ククジェルが森にもどってくると仲間たちから歓声が上がった。「ありがとう」や「助かった」といったような感謝の言葉がククジェルに向けられた。
「みんな平気? ケガをしている者はいる?」
そう言ってククジェルは助けだした仲間たちを気づかった。
「はっ!」とライラがある方向を見ながら驚いた。それを聞いたククジェルはライラの前に行き「どうしたの? ケガをしているなら治すよ」と声をかけた。
ライラはククジェルの声に気づかずただ前を見て震えていた。
そのようすに気づいてククジェルは振り向いた。そこにいたのは網を持った人間たちがこちらに向かって歩いてきている姿だった。
ククジェルは急いで仲間たちに言った。
「みんな、早く隠れて!」
言われるがままほかの動物たちは素早い動きで森の奥に逃げて行った。
「ククジェル、あいつらの仲間がもう追ってきているみたいだな」
ガルマは人間たちをにらみつけながら言った。
「うん」
「どうやってあいつらを追い返すんだ?」
「人間たちが逃げ帰るような恐怖を与えるよ」
そうしてククジェルは身構える。ゆっくりと人間たちが歩を進ませてくる。
ボリィは指を口に立ててシーっという仕草をふたりに見せた。それから小声で言った。
「いいか、俺が3本の指を上げたら一斉にシマリスを捕まえるんだ」
「はい」
「ギャズもカメラの準備はいいな」
ギャズはビデオカメラをシマリスのほうへ向けながら「ええ、いつでも撮ってますよ」と返した。
ククジェルとボリィたちの距離は段々と縮まっていった。
するとニャミィがきて、隠れてようすを見ている仲間たちに駆け寄った。
「どうしたんだい? そんなコソコソしちゃってさ」
「に、人間たちがきているから隠れてるのよ」
ポランがニャミィに言った。
「人間たちが?」
そーっと木の陰からのぞいてみると、ククジェルと網を持った人間たちがお互いに向き合っていた。
「ククジェルをあたしたちで助けなきゃ」
そう言ってニャミィは飛び出すようにその場を離れた。
「あ、待って」
ポランの呼び止める声を聞かずにニャミィは人間たちの前に向かった。
ボリィは1、2……と指を1本1本静かに立てながら数えていき、そして、3本目の指が上がった。
「今だ!」の声でボリィたちは一斉に網を振り上げてククジェルを捕まえようとした。
ククジェルは集中してボリィたちを追い返すイメージを試みようとした。
そのとき、ニャミィがククジェルの前にきて人間たちに立ちはだかった。
「ニャミィ!?」
驚きのあまりにククジェルは集中を切らした。
ニャミィは網に捕まりもがいている。
ボリィたちは捕まえた動物を逃さないように必死になっている。するとルーブがあることに気がついた。
「あれ? 監督、ネコを捕まえていますが」
「ん? あっ! なんでネコが? シマリスはどこだ」
「ネコの後ろにいますよ」
「よし、じゃあ網をネコから外してそれからシマリスを捕まえるぞ」
「はい」
ボリィたちが網を外そうとした瞬間。ククジェルは急いでボリィたちを追い返せるような物をイメージした。
すると泉から人の形をした巨大な生き物があらわれた。それは泉のふちに両手をついてそのまま這い出てきた。
びちゃびちゃという音に反応してギャズはそこにビデオカメラを向けた。彼はゆっくりと後退しながら言った。
「か、監督……」
「どうした!」
「み、水の化け物がこっちに向かって……」
「水の化け物?」
ボリィとルーブはギャズが見ているほうに目を向けた。そこには水の巨人が四肢で這うようにして彼らに向かってきている。
「なんだ、あれは?」
「ば、化け物だ!」
「なんだかよくわからないけど、に、逃げたほうがよさそうね」
それぞれの口から驚きの声をあげると網を放り投げてその場から走り出した。逃げてる途中でボリィはギャズとルーブに言った。
「ギャズ、カメラを回してあれを撮りながら逃げるんだ!」
「え?」
ギャズはわけもわからず追いかけてくる者にビデオカメラを向けた。
「ルーブ、あいつに照明を当てろ」
ルーブは照明だけを後ろの向けながら走った。
水の化け物の顔の部分から両目を光らせて、ボリィたちをギリギリまで追いかけて行く。
「か、監督。追いつかれます!」
ギャズが言うとボリィは振り向いた。
「走れ走れっ!」
すると木の根に足が引っ掛かり3人とも倒れた。そのまま水の化け物はその3人におおい被さり顔を近づける。
そしてギザギザの口が開き3人を食べた。
そのとたん、水の化け物は消えて代わりにそこは水浸しになった。
ボリィたちは呆然としながら水浸しになった自分たちの体を見まわした。それから立ち上がり「今日は帰ろう」とボリィはつぶやいてフラフラとその場から去って行った。
追い返したようすを森の動物たちが確認するとみんなは喜びの声を上げた。
ククジェルは目の前で網にもがいているニャミィを助け出した。
「大丈夫、ニャミィ」
「ああ、まあね」
「どうしてぼくの前にきたの?」
「あたしは借りをつくるのは嫌なのさ。だからこれでおあいこだよ」
ニャミィはそう答えてその場から離れた。
「べつにいいのにそんなこと」
次の日。またラシナル町ではニュースが飛び交っていた。収容所から動物たちが消えた。シマリスが壁を突き破ったなど。
それを捉えた防犯カメラの映像が瞬く間に町中に広がった。
収容所の前にリポーターが立って事の次第を述べている。
『昨日の朝に起きた動物誘拐事件。その犯人は1匹のシマリスの仕業だと関係者は言っています』
職員のひとりがそのとき起きたことに回答していた。
『ええ、あれは間違いなくシマリスの仕業です……』
以前に起きた動物たちがいなくなる事件があった日から防犯カメラを設置したこと。そのモニターを見ていたらシマリスがあらわれて檻のなかの動物たちを消していったこと。シマリスを捕まえようしたが人知を超えた力で捕まえられなかったことなどを話している。
ラビール家ではまたニュースの話題で騒いでいた。
「お母さん!」
リンリーは朝から大声でローサを呼んだ。その声に驚いて眠っていたポニーは顔を上げた。
「どうしたの?」
ローサはキッチンで料理をするのを一旦やめてリンリーのもとへきた。
「お母さんあれ見て!」
リンリーはテレビを指さした。そこに映っていたのは収容所のなかの光景だった。
「シマリスの逆襲?」
ローサは赤文字で画面に書いてあるものを読み上げては、その画面の映像を注意深く見た。
収容所に檻があってそのなかに動物たちが飼われている。
近くの窓が開いてそこからシマリスがひょこっと顔をのぞかせる。そして、そのままなかに入りしばらくしてシマリスの体が光ったと思った瞬間、檻に入れられている動物たちが消えた。
そのあと、職員たちが駆けつけてきてそのシマリスを網で取り押さえたが、網を突き破り職員たちは吹き飛ばされる。
カメラが切り替わり別の場所を映し出した。それはシマリスが壁に穴を開けてそこから抜け出していく瞬間だった。
「ねっ! シマリスが動物を消したりしたんだって」
「……うそ」
「本当よ」
その映像をポニーは見て気がついた。ククジェルだ、と。
ポニーは尻尾を振りながらテレビ画面に駆け寄った。
「ククジェルだ。ククジェルがまた仲間たちを助けたんだ」
ワンッワンッとポニーは吠えた。
「ポニーどうしたの? あー収容所にいたから思い出したのね」
リンリーはそう言ってポニーに近寄り頭をなでた。
「朝からうるさいなー」
ボサボサの髪で目をさすりながらロビはリビングに姿をあらわした。
「どうし……」
すべてを言う前にロビはテレビ画面の文字に釘付けになった。
「シマリスの逆襲!?」
繰り返される映像を見ながらうれしそうに言った。
「スゲー、今度は魔法を使うシマリスかぁ」
「この映像を見る限りじゃ、そうみたいね。前に収容所の動物たちが消えた事件はこのシマリスが起こしたものだったのね」
リンリーは得意げに言った。すると「朝から騒々しいなぁ、どうしたんだい」とラボルがやってきてあくびがてらに言う。
「あなた、また収容所で事件が起きたんですって」
「収容所?」
ラボルはその騒がしいテレビに目を向けた。
「シマリスの逆襲か……へぇ……消えた?」
「魔法だよお父さん」
ロビは元気よく言うとラボルは少し呆れたように返した。
「ははは、ロビ、魔法なんてあるわけないだろう。きっとなにかの間違いさ」
「ぜったい魔法だよ。だって消えてるもん」
「どうせ、ニュースを盛り上げようと必死なんだろ、メディアがさ」
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