第17話 ニャミィ救出劇
そして、1時間が経過した。
痺れを切らしてボリィがつぶやいた。
「こないかぁ……籠の前に食いもんでも置いておきゃよかったか」
「今日は中止ですかね。監督」
ルーブはそう言って「ふあ~」っとあくびをした。
「そうだなぁ」
「監督」
するとギャズが提案を出してきた。
「せっかくセッティングしたんですから、もしこなかったら、ホラーを撮影しましょう」
「ホラー?」
「はい、こんなときのために一応用意してきたんですよ」
「用意? なにをだ」
「仮装パーティーで使う着替えをです」
ギャズはそう言って自分のリュックから、お化けの衣装を取り出した。
「うーん、お化けの格好ねぇ」
その衣装をながめながらボリィは考えた。
このままなにもせずに帰っても時間をムダにするだけだ。ギャズが持ってきたお化けの衣装を使ってなにかを撮ったほうがムダにはならないと。
「そうだなぁ、あのネコを捕らえているのはお化けにしてみるか」
「本当ですか」
「ああ、このあとシマリスがあらわれてもあらわれなくても実行する。まず、最初はさっきの段取りで行く。そのあと、そのお化けの衣装に着替えてカメラの前に登場するんだ」
ルーブはそこで話に割り込んだ。
「監督。そんな行き当たりばったりで大丈夫なの?」
「台本は作ってないからな、その場その場で行動を変えて行くんだ」
渋い顔をルーブは見せるとボリィは訂正するように言った。
「大丈夫だ。俺の編集でどうとでもなるから安心しろ」
「はあ、そうですか」
ククジェルは人間たちがもどってこないのを確認するとガルマに言った。
「人間たちもどってこないよ」
「そうみたいだな、いまのうちに助けに行ってやろうぜ」
「うん」
ククジェルは辺りを警戒しつつ籠に近寄って行った。それを確認したボリィはふたりに小声で言った。
「おい、きたぞ」
『え?』っとふたりは同時に言うと身をかがめた。
「いいか、俺がスモークを起動して爆竹に火を点けたら、俺たちは銃を構えていっせいに籠の前まで出て行くんだ」
ボリィの言葉にふたりはうなずいた。
ククジェルはニャミィの近くにきた。
「ニャミィ、大丈夫」
声をかけるがニャミィは丸くなっていた。
「ニャミィ」
ニャミィはククジェルの声に反応しない。疲れて寝ているのだろうと思いさらに近寄って声をかけようとした。
「ニャミィ、起きて」
ククジェルは籠に前足をふれた。
「ん? ククジェル。助けにきてくれたんだね」
ニャミィは起き上がりあくびをひとつする。
「早くここから出しておくれよ」
そう言って前足で籠をたたいた。すると籠をおおうようにゆっくりと霧がかる。
「ん? 急に霧が?」
「ククジェル、急いでここを離れろ!」
「え? でもニャミィが」
ニャミィは出たそうに籠を両前足でたたいた。その籠は霧でおおわれていき見えなくなっていった。
「ちょっと、待っておくれよ。ククジェル」
ニャミィの姿が見えなくなった。
ククジェルはニャミィを出そうと魔法を使おうとした。すると、銃声のような甲高いけたたましい音が辺りに響いた。
「きゃー!」
ニャミィの悲鳴が辺りに響く。
ククジェルは飛び上がりその場から動けなくなった。
「ニャミィー! ガルマ、なにが起こっているの?」
ガルマの返事はない。
「ねえ、どうしちゃったのガルマ。なんとか言ってよ」
ククジェルの声は届いているがガルマは銃声のような音がしたため声が出せないでいた。
それはあのときの光景を思い出していたから。
人間たちの足音が聞こえてくる。
絞り出すようにガルマは言った。
「は、早く、逃げるんだククジェル」
「ガルマ。う、うん」
ククジェルはその場から急いで離れた。人間たちはククジェルを追ってくる。
「あいつらが追ってくるぞ!」
振り向いて人間たちを確認すると、黒ずくめの格好をした者が追ってきている。すると途中で立ち止まり振り返ってもどって行った。
ククジェルも止まりそのようすをながめた。
「どうしたんだろう、人間たちがもどって行くよ」
「そうだな、まだニャミィを助けだすチャンスがあるかもしれない。だから俺たちもあいつらのあとを追うんだ」
「うん」
ククジェルはボリィたちのあとを追った。
ボリィとルーブは扇風機にスイッチを入れ、ギャズは籠を半円状に撮り終えてから3人は集まった。
ボリィたちは急いでお化けの段取りに入っていった。
「早くしろ、これに着替えたら籠の前に行って、俺とルーブは籠をどこかに持って行くシーンを撮る。あっ! そうだギャズは着替えなくていいぞ。ギャズはそのカメラで俺たちを追いかけるんだ」
『はい』とふたりは言って返事をした。
喪服の上着を脱いで、シーツを3か所丸く切ったような場所に目と口を出して着替えは終わった。
「ククジェル、あいつらがまた襲ってきたら地面に転ばせるんだ。暗がりだからなにかにつまづいたと思うはずだ」
「うん、わかったよ」
ボリィたちはふたたび籠の前に出て行った。ギャズだけはビデオカメラをお化けであるふたりに向けながら走った。走ると手振れが激しくさらに映像の乱れが起こった。
ギャズは素早くボリィたちの前に行き、その正面にカメラを向ける。そしてそのまま追って行った。
お化けに扮した者がニャミィの入った籠の前にきた。それを見たククジェルはガルマに聞いた。
「なんなの? 人間なの?」
「さあ、わからない。さっきのやつらがいないな……例の記憶を残す物を持っているやつだけはいるが」
近づきながら得体の知れない生き物の行動を目で追う。
ボリィたちは籠を持ち、ククジェルのほうへ小走りで向かって行く。
ククジェルは籠のなかにいるニャミィを見た。ニャミィは横になっていて動いていない。
「はっ! ニャミィが、ニャミィが……」
ククジェルはガルマが死んだときのことを思い出した。銃声の音がしてそのあと横になっている姿を。
ククジェルは魔法を使い得体の知れない者たちを転ばせた。宙を舞うようにふたりは転ぶと籠から手が離れた。
なにが起きたのかわからずボリィたちは上体を起こした。ギャズはそのままそのふたりをビデオカメラで撮っている。
するとそこにククジェルがきた。
「あ、シマリス!」
ボリィが叫ぶとギャズはそこにビデオカメラを向けた。
ククジェルはイメージした。それは強烈な光を出して3人は身動きが取れなくなる魔法。
その瞬間、まばゆいばかりの閃光が走り辺りを包んだ。
「うわっ!」と叫び声をあげてボリィたちは目を閉じた。ククジェルはその間にニャミィを森に送った。
ククジェルはそのあとを追って自分を森に送る。
次第に閃光は消えていき辺りに暗さがもどっていった。静けさのなかでボリィたちはまぶしそうに目を開けた。
ボリィは籠を見ると「あっ!」と声を上げた。それに釣られてほかのふたりも籠を見た。そこにはニャミィの姿は消えていた。
ククジェルはニャミィを助けて森にくると、ニャミィに声をかけた。
「ニャミィ、起きて」
横になっていて反応がない。
「ガルマ、死んじゃったのかな?」
ガルマはニャミィのようすをながめた。息づかいが聞こえてくる。
「……いや、寝ているだけだ。安心しろ」
「本当?」
「ああ」
ククジェルは注意深くニャミィを見つめた。胸の辺りがゆっくりと動いているのがわかる。
「あー本当だ、生きている。よかったぁ」
次の日の朝。
街頭モニターではニュースが流れていた。
『――続きまして昨日未明、夜空をおおうような謎の光が観測されました。現在その光の正体はわかってはいません。専門家によりますと星の爆発が一時的に起きたのではないかとのことです――』
ラビール家の朝、リンリーはソファでポニーをなでながらテレビを見ていた。
「リンリーご飯できたわよ」
「うん」
「そんな熱心になにを見てるの?」
「空が光ったんだって、昨日の夜」
ローサはそのテレビを見た。そこには真っ暗な夜空を白い光がおおっている映像が流れていた。
「えー! マジー!」
あわただしくロビが走ってきてテレビ画面をふさいだ。
「ちょっと見えないじゃない。どいてよ」
リンリーはロビに怒鳴った。それを無視してテレビに食いついている。
「スゲー、星の爆発だって。なんの星かな?」
「べつに星って決まったわけじゃないでしょ」
突き返すようにリンリーは言った。
「だってさあ、なにかあるよ。神隠しの次は星の爆発って」
姉の言ったことを気にせずにロビは目を輝かせた。
「星がなんだって?」
ふあ~っとあくびをしながらラボルがリビングにきた。ローサはそれに答えた。
「星が爆発して夜空が光ったんですって」
「星が爆発? ふーん、どうせどこかの専門家が適当に言ってるだけだろ」
「そうね……」
テレビの画面が切り替わり収容所が映された。
『――速報です。収容所からいなくなったと思われた動物たちが、近くの森で発見されました。なぜ逃げだしたのかは現在調査中のことです――』
「へぇー見つかったんだー。見つかんなければよかったのに」
リンリーはポニーの頭をなでながら「ねぇ」と微笑んだ。
ポニーは映像を見て目を丸くした。
『みんなまた捕まっちゃったんだ。どうして? どうして捕まえるの?』
ポニーは窓の外を眺めながらククジェルのことを思い出した。
『ククジェル……』
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