第16話 撮影の準備をする3人

 暴れるのに疲れて、ニャミィはボリィの腕のなかで丸くなっている。


「監督、そのネコどうするんです?」


 ギャズはたずねるとボリィはニャミィの頭をなでながら言った。


「そうだなぁ、ネコを籠に入れて、なにか仕掛け的なものをつけておくか」

「仕掛けですか?」


「ああ、あそこにいるシマリスがこのネコを助けにくるはずだ。そのとき、フォグマシンで霧を噴出して目隠しをする。それで死んだようにさせる。あとでネコが寝ているところを撮ればそう見えるだろう」


「はあ、なるほど、ではこれからそれを撮るわけですね」

「そうだ」

「それで、それはどちらでやることにするんです?」

「一応人間に囚われているという設定だから、撮影するのは室内がいいと思ったんだがな」

「室内ですか」

「ああ、理想は人間たちに厳重に守られているような場所がいいんだが……」


 ボリィは周りを見ながらそういった場所を探した。


「だが、そんな場所はないから俺たちだけでやるんだ。どこかの広場でネコを入れた籠を置いてそこを俺たちがおもちゃの銃を持って待ち構える。服装は……そうだな、喪服でいいだろ」


「喪服ですか?」


「そうだ、悪の組織みたいでいいだろ」

「はあ、なるほど」

「金はかけたくないからな、ありきたりの物でやるんだ」

「はあ」


 ルーブはふたりの会話を聞くと、ため息交じりに聞いた。


「それじゃあ、監督。一度家にもどってから喪服に着替えてどこかの広場に集合でいいんですね」

「ああ、だからいまからその場所を見つけに行くぞ」


 こうしてボリィたちは撮影する場所を探しに行った。


 ククジェルはそのあとを追って行った。


 公園。空き地。川辺などを見て行ったが、人がいたり、絵の映りにはあまりパッとしない場所だったため、ボリィたちは理想の場所を探していた。


 そして、敷石があり噴水のある場所にきた。


 そこには人がいて、階段のところに座り本を読んでいたり子どもたちがボールを追いかけている。


 ボリィはうなりながら言った。


「うーん、この場所で行くか」


 ギャズはその言葉に反応した。


「この場所で撮影ですか?」

「そうだ」

「でも人がいますよ」

「そうだ、だから人のいない夜中に撮影するんだ」

「夜中ですか?」

「それで問題ないだろう……」


 ボリィは腕時計を見た。


「そうだなぁ、今日の夜中の2時にここに集合でいいだろう」

「2時ですか」


 ギャズはうれしそうに言うとルーブは面倒くさそうに聞いた。


「2時ですかぁ、はあ、いまからじゃダメなんですか?」

「人が見てるだろ。コンクールの賞金のためだ。我慢しろ」

「お酒飲んできてもいいですか? 監督」

「酒? うーん、本当は飲んできてほしくないが、ほろ酔い程度にな」


 ルーブはそれを聞くと口を緩めて微笑んだ。


「はい、監督」


 それから3人は解散した。



 ボリィの背中がククジェルから遠ざかって行く。


 ククジェルはどうすることもできずにその場にたたずんでいた。魔法を使ってニャミィを助け出そうとすれば、ククジェルの魔法が人間たちにバレてしまうかもしれない。


 それだけは避けないといけない。


「ガルマ、どうすればいいの?」


 ククジェルは助けたいけど助けられない感情に揺れていた。


「このまま、ニャミィを捕まえているあいつのあとを追うんだ。なにかあれば魔法で助けるんだ。魔法がバレるかもしれないが、しかたない」


「うん」


 そうして近づき過ぎないように隠れるようにしながらボリィのあとを追った。

 


 ボリィは家に着いて、用意していた木製の籠のなかにニャミィを入れて、そこから出さないようにした。


 そのまま、パソコンの電源をつけて映画の編集をし始めた。


 ククジェルは窓越しからそのようすをうかがった。お腹が空いたのでどんぐりを出して食べながらボリィを見ている。


 ボリィはチョコレートを頬張りジュースを飲みながら作業を進めていった。



 ずっと動かないでいるボリィをみていると段々と眠くなってきて、ククジェルはその場で眠ってしまった。


 夢を見た。それは仲間たちが森で楽しそうにしている姿だった。なににも縛られずに自由にしているそんな姿。


「おい! ククジェル、起きろ!」


 いつの間にか眠ってしまった体を起こして、ククジェルは窓のなかをのぞいた。


「ごめんガルマ、眠っちゃって」

「いや大丈夫だ。それよりあいつどこかに出かけるみたいだぞ」


 ボリィは喪服に着替えるとリュックを背負い、ニャミィの入った籠や機材を持って家から出た。


「追うぞ、ククジェル」

「うん」



 噴水の広場にボリィはやってくると辺りを見まわした。一般人が誰もいないことを確認すると疲れたように肩の力を抜いた。


「まだ、あいつらはきてないか」


 荷物を置き、やれやれといった感じで作業に取りかかる。広場は街灯が点々としていて明るくなっている。


 籠を噴水にある囲いの上に置くと、フォグマシンの仕掛けを取りつけていく。ニャミィは眠そうにその作業を見ていた。


「監督、さっそく取りかかっていますね」


 ギャズはリュックを背負いビデオカメラを片手に持ちながらあらわれた。彼は辺りの風景をながめた。


「ルーブはまだきてないんですか?」

「ああ、そのうちくるだろ、ギャズそっちを手伝ってくれ」


 ボリィはリュックに人差し指を向けた。ギャズはそのなかをのぞき込んだ。


「そこに爆竹が入っているから、籠が載っている台の下に横並びに置いてくれ」

「爆竹ですか?」

「少しでも派手さを出したいんでな」

「はあ」


 ギャズは爆竹を取り出した。それは横つなぎになっていて、端のほうは長い導火線が続いていた。


「監督が作ったんですか? これ」


「ああ、ただ導火線を繋げただけだがな。あと、それが終わったらビデオカメラを持ってきたから、それを少し離れたところに置いてくれ。籠のほうに向けてな」


「監督が買ったんですか?」

「そうだ、中古だがな。いざやろうとするとこだわりがでてきてな」


 そう言ってフォグマシンを起動させた。霧は弱く噴出口から流れ出る。


「あれ? 勢いよく出ないな。中古品だからこんなもんか」


 ボリィはリモコンのボタンを何回か押し直して確認を行った。


「どうもー、おつかれー」


 ルーブは照明をカチカチとふたりに当てながらあらわれた。


「きたかルーブ。早速だがそのリュックに小型の扇風機がある。それを噴水に向けて少し離れたところに並べておいてくれないか」


「扇風機? ふーん」


 ルーブはリュックのなかを確認した。そこには手のひらくらいの小さな扇風機がいくつも入っていた。


「監督、この扇風機をどうするんですって?」

「扇風機を並べるんだ。噴水のほうに向けてな。一応均等に離れさせてな」

「ここにあるの全部ですか?」

「ああ」


 ルーブは照明を置き扇風機を並べていった。


 こうして3人は一通りの作業を終えて噴水の前に集まった。


「まあこんなもんでいいだろ」


 ボリィはそう言って周囲を確認する。面倒くさそうにルーブは言った。


「それで、これからどうするんです?」

「これから俺たちはいったんここから離れる」

「はなれる?」

「そうだ、シマリスがやってくるまで待つんだ」

「シマリスがやってきたらどうするんです?」


「シマリスがきて、あのネコの入っている籠にふれたらスモークを出す。そのあと爆竹を鳴らして、俺たちが銃を構えながら籠の前に出て行くんだ」


「ふーん、それで銃はあるの?」

「ああ、リュックのなかに用意してある」


 ルーブはリュックのほうを一度見たあとさらに聞いた。


「カメラは固定して撮影するの?」


「そうだな、ギャズのカメラは籠の手前に、俺の持ってきたカメラは籠から離れた位置に固定しておく。そのあとシマリスが逃げたっていうていで俺たちが追うふりをするんだ」


「それで?」


「俺とルーブは扇風機を起動させて、ギャズは自分のカメラを持って半円を描くように籠を撮影するんだ。そのとき霧が薄くなっているはずだから、ネコの足もとも撮っておく」


 それを聞いたギャズは質問した。


「監督。半円とはどういう風に撮るんですか? それと猫の足もととかは」


 ボリィは「貸して見ろ」と言いながらギャズのビデオカメラを取り上げると、自ら動きながら撮影方法を教えた。


「こんな感じだ」

「なるほど」


 ボリィはギャズにビデオカメラを返すと話を続けた。


「まあ、段取りはこんなもんだ。あと、シマリスが1時間経ってもこなかったら今日は中止だ」


 3人はそのあとおもちゃの銃とサングラスを持ち籠から離れて、近くの隠れられる場所で身を潜めた。


「サングラス?」とルーブは聞いた。ボリィは望遠鏡をのぞきながら答えた。


「一応、顔も出すかもしれないからな。まあそれは編集で不自然だったらの話だ」

「ふうん、そう」



 ククジェルは人間たちのいなくなった噴水広場をながめながらつぶやいた。


「人間たちがいなくなったよ」


 ガルマは辺りのようすを注意深くうかがい、誰もいないかを確認する。


「たしかに誰もいなくなったな」

「人間たちはあそこで一体なにをやっていたのかな」


「さあな、また帰ってくるかもしれないからここでしばらく待っていようぜ」


「うん、でもどうやってニャミィを助け出す?」


「このまま待っていてあいつらがあらわれそうになかったら、ニャミィのところまで行って魔法で森に送るんだ」


「うん、わかったよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る