第14話 収容所に誘う適任者

「監督」


 ギャズはタヌキにカメラを向けながら聞いた。


「どうした?」

「ここは森なのに動物たちが少ないですね」

「そういう森なんだろ。気にするな」

「はい」


 ルーブはボリィに聞いた。


「ねえ監督」

「ん?」

「どうやって、さっきのネコを捕まえましょうか」

「どうやってっていってもなぁ」

「だって監督、あそこ見てくださいよ」


 ルーブは木の上を指さした。そこには休憩のときに見たシマリスとネコがいる。


「ついてきているのか。俺たちの食い物にでも目がくらんだんだろ。まあ今日のところは捕まえないで、後日だな、それをするのは」


「後まわしですか」

「そうだ、いまは素材を集めるのが先だ」

「そうですか」


 それからしばらくは森の動物たちや風景を撮っていった。


 日が暮れてきたころになり、ボリィは腕時計を見て立ち止まった。


「よし、こんなもんでいいだろ。じゃあ今日は解散、おつかれ。明日も同じ時間にここに集合な」


 3人は森から出てそれぞれの自宅に帰って行った。



 ククジェルたちは3人を見送った。


「結局なにもしてこなかったね」

「ああそうだな。また明日もやつらはくるかもしれないから、きたら見張りを続けようぜ」

「うん」



 次の日。



 映画の撮影をするため3人は集まった。


「じゃあ、さっそく今日も動物たちを撮っていくか。ギャズ今日も頼む」


 ボリィはあくびをこらえながら言った。


「はい」

「それと照明もなルーブ」

「ええ」


 ルーブはそう言って照明を肩に担いだ。


「それじゃあ森に入るとするか」


 こうして3人は森に入って行った。それを木の上から見ていたククジェルたちは彼らのあとを追った。


 3人は前を通り過ぎるキツネやアライグマなどを撮影していく。


 歩きながらギャズは聞いた。


「監督、僕たちはいつ撮影するんです?」

「さつえい? そうだなぁ、とりあえずネコを捕まえてからだ。昨日いただろ」

「ああ、あの白いネコですか」

「そうだ」


「じゃあ、そのネコを捕まえて籠かなにかに入れて置いて、そこにシマリスが助けにくるっていう設定にするんですね」


「うーん、まあそれもいいが、一応、人間界の征服を目論んでいる動物たちの話だ。だから噛ませで使う」


「噛ませ、ですか」


「理由だ。そうする理由にする。人間たちによってあのネコが捕まって、そのネコが人間たちによってひどい仕打ちを受ける。そこにシマリスが登場して、銃を人間たちに向けて撃ち、ネコを助けようとするが、籠のなかに毒薬が噴出されてネコが死んでしまう。それを目にしたシマリスは怒り、人間たちの世界を征服する覚悟を決める」


「は、はあ」

「まあ、そんな感じだ。いまのところはな」


 その話にルーブが割り込んできた。


「監督、主人公の自殺は考えていないの?」


「そうだなぁ、たしかに大好きだったネコが死んで人間界を征服しても、もうネコは戻ってこないとわかり、そうなって主人公は自らの頭を銃で撃って終わりでもいいかもな……まあ、考えておくよ」


「ええ」

「それでしたら僕の提案したホラー要素も入れましょう。監督」


 ギャズの案に対してボリィは腕組みをしながら考えた。


「ホラーか……できないこともないな、人間界を征服しようとしたがそれが叶わなかった。それで主人公は自らの命を絶ち幽霊となる。そのあと人間たちを呪いで殺して動物たちの世界にする」


「どうですかね」

「二転三転しそうだが、まあ考えておくよ」


 こうして3人は動物たちや森の風景を撮りためていった。



 ククジェルたちはそんな光景をながめながらようすを見ていた。


「またぼくたちの記憶をああやって残しているんだね。どうにかしてあの人間たちを収容所に向かわせないと。ガルマどうするればいいと思う?」


「あいつらを収容所に向かわせる方法か……俺たちの記憶を残しているんだったら、それを利用するしかない。それにはあいつらの目の前に出て行って収容所まで誘っていく。問題は誰がそれをやるかだ」


「ぼくがやるよ」

「お前が? それはやめろ」

「どうして?」

「もしあの人間たちに捕まったら終わりだ」


「でも、あの人間たちぼくたちの仲間の記憶を残しているだけで、なにもしてこないよ」


「だからだ。急に気が変わったように俺たちを捕まえにくるかもしれない」


「じゃあ、どうすればいいの?」


「……本当はなにもしないに越したことはないが、収容所の仲間が気がかりだ。もしククジェルの言ったとおりになれば、収容所に捕らわれている仲間たちの記憶を見た人間たちは、今後俺たちを捕まえなくなるかもしれない。収容所から仲間たちを助け出したとしても」


「うん」

「それにはお前じゃなく、もっと足の速いやつがいい」


「足の速いやつ?」


「そうだ、それほど大きくなく町へ行っても目立たない、捕まりそうになったら素早く壁に登ったりできるやつが」


「あっ! それなら」


 ククジェルは隣で尻尾の毛づくろいをしているニャミィを見た。


「いた!」


 ニャミィはそれに気づいてククジェルを見た。


「なんだい?」

「ニャミィか」


 ガルマは言った。


「うん」

「たしかに適任だ」


 ニャミィは一度首をかしげてから言った。


「ははん、さてはあたしの美しい毛並みに見とれたんだね。いいわよ、好きなだけ観賞しなさいな」


「ねえ、ニャミィ」

「なんだい?」

「あそこにいる人間たちの前に出て行って、あの人間たちを収容所まで誘導して行ってくれない?」


「は? あーなんでそんなことをあたしがしなきゃならないの」


 ニャミィは急いでいるかのように後ろ足の毛づくろいをし始めた。


「ニャミィにしか頼めないんだ。ニャミィみたいな種族はこの森ではきみしかいないから」

「だからってなんであたしが」

「収容所の仲間たちを助けるためなんだ。お願い」

「んー……」


 ニャミィは考えた。


 ここでククジェルの言うことを聞けば食べ物を出してくれる。もし出さなかったら、あんたの言うことを聞いたんだからということで出してくれる。これは乗らずにはいられない。


「わかったわ。やるわよ」

「本当?」

「ええ、でも、その前においしい食べ物を出してくれないかしら」


 ニャミィは舌なめずりをした。


「わかったよ」


 ククジェルはこの前、町で見かけたネズミをイメージした。


 すると目の前にネズミがあらわれてその場から逃げて行った。それをニャミィは追った。


 ネズミは地面に降りると3人の横を通り抜けて行った。ニャミィもその横を通り抜けて行く。



「な、なんだ?」


 ボリィが驚くとルーブはあわてて言った。


「か、監督! ネコだわ!」

「あ! おい、追いかけるぞ! ギャズ、つねにカメラを回しておけ!」

「はい!」


 3人は走りながらニャミィを追って行った。



 ガルマはククジェルに言った。


「おいククジェル。あの人間たちを追うんだ! もしかしたらニャミィを捕まえようとするかもしれない」


「うん」



 3人はニャミィを追いかけているうちに次第に遅くなっていった。


 ボリィはゼエゼエと息を吐きながら歩き出した。それを見てギャズは声をかけた。


「監督、大丈夫ですか?」

「はぁ、はぁ、お、俺はいいから、あのネコを追え!」

「はい!」


 ギャズとルーブはボリィを置いてネコを追いかけて行った。


 しばらくするとギャズは腰に手を当てながらルーブに言った。


「ルーブ、頼みがある」

「え? なに」

「腰が痛いから、僕のカメラを持ってネコを追ってくれないか」

「ええっ!?」

「ダメだ、もうきつくて」


 ギャズは腰の痛みで歩き出そうとしている。ルーブは嫌そうな顔をしながら、しかたないといった風に片手を出した。


「わかったわ、貸して」

「うん、頼む」


 ルーブはビデオカメラを受け取るとギャズを残して走って行った。


 ニャミィを追いかけて行き、ラシナル町まできていた。ルーブも二日酔いのせいで吐きそうになりながら追いかけている。しかし、頭がくらくらしているため途中で歩き始めた。


 ニャミィはネズミを追いかけながら収容所の敷地に入って行った。


 ルーブは息を切らせながら収容所を見た。


「はぁ、はぁ……うっ、どうやらここに入って行ったようね」


 そう言って気持ち悪そうに苦い顔をしながら照明を地面に立てかけた。少しでも歩くともどしそうだったためその場で休んだ。


 カメラだけは収容所をのほうを向けている。



 ククジェルがボリィの後ろ姿を捕らえた。


「あれ、あの人間、ゆっくりになったよ」


 ククジェルはそう言って走る速度を落とした。ガルマはそのようすを見て答えた。


「疲れたんだろ」

「どうする?」


「あいつは無視をしろ、たぶんあれだけ疲れていればここにいる仲間たちを捕まえようとしても、捕まえられないだろう。だから先に行ったやつらを追うんだ」


「うん」


 ボリィのわきをククジェルは通り抜けて行った。



「ん? あのシマリスは……」


 ククジェルが走って行くのを見てボリィは歩く速度を上げた。



 ククジェルたちがそのまま進んで行くとギャズの後ろ姿が見えてきた。ギャズは腰を押さえながら歩いている。


「あ! またゆっくりになってる」


 ククジェルは走る速度を下げてギャズのようすを見た。ガルマはギャズが痛そうにしている姿を見て言った。


「そうだな、あいつも無視をしろ、さっきのやつと同じだ。あれじゃ仲間たちを捕まえられないだろう」


「うん」


 ククジェルはギャズのわきを走り抜けた。



「ああっ? あのシマリス、僕たちが主人公にしようと決めた動物だ」


 ククジェルが走って行くのを見てギャズは大股で歩き出す。

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