第13話 記憶を残す物
「あの人間たちはなにをやっているのかなぁ」
ククジェルはガルマに聞いた。
「さあな、俺たちの仲間を捕まえるのかと思ったけど、見ているだけだったな」
「うん」
「まあ、なにをするのかわからないから、やつらから目を離すなククジェル」
「うん、わかったよ」
ボリィたちは泉の側にきていた。そこは以前ピヨリティスがククジェルに魔法を与えた場所だった。
「泉か」
ボリィは周囲を見まわしながらつぶやいた。
「動物たちがいませんね」
ギャズがそれに続いて言った。
「よし、ギャズ。この風景を撮っておけ、森の象徴にする」
「はい」
ルーブはまぶしそうに空を見ながらため息をこぼす。
「ねえ、監督。疲れたわ、休憩しましょ」
ボリィは腕時計を確認した。
「そうだなぁ、腹も減ったしそうするか。おいギャズ、休憩にするぞ」
「はい、監督」
ギャズはそう言ってカメラを回すのをやめた。
小さな椅子を用意して3人はそこにそれぞれ座った。
ボリィたちが休憩をとっていると動物が顔を出した。タヌキやトリなどが食べ物のにおいに釣られて遠くで見つめている。
ボリィはそれを見てギャズに言った。
「おい、ギャズ。動物がきたぞ、カメラを回せ」
「はい監督」
ギャズはそこにあらわれた動物たちを撮ろうとカメラを持った。その瞬間、動物たちはその場から離れた。
「あっ! 逃げちゃいましたね」
「構わん、逃げた姿を撮っておけ」
「はい」
「とにかく動物たちの映像が欲しいからな、なんでもいいから動物たちを撮っておくんだ」
ギャズは逃げていく動物たちの後ろ姿を撮った。
一仕事終えるとギャズはカメラを置いてまた休憩を始める。紅茶を飲みながらギャズはボリィに聞いた。
「監督、どういったストーリーにする予定ですか?」
「そうだなぁ、話の内容はこうだ。まず、動物の主人公が人間界を征服していくものだ」
「征服ですか? それはなんのために」
「自分たちの権限を手に入れるためだ。そこで主人公は人間界に忍び込んで、そこで人間界を取り締まっている偉いやつらを銃で撃ち殺していく」
「動物権、ですか」
「そうだ、動物たちが人間たちの上に立つ日がくるんだ」
「へぇー、でも動物たち同士はどうかわからないですが、僕たちと会話できませんよね。どうやってコミュニケーションさせるんです?」
「簡単だ、編集でどうとでもなるだろ。後付けで。いま考えているのは字幕だ」
「字幕? なるほど、じゃあその偉い人たちの役をしてくれる人を募集するんですか?」
「いや、面倒だ。俺たちだけでやるんだ」
「え? 僕たちだけでですか」
「そうだ、安心しろ顔は映らないようにする。服装を変えてやれば問題ないだろう」
「はあ……」
そこでルーブが紅茶のカップを地面に置いて言った。
「監督、恋愛はどうするの?」
「恋愛か。そうだなぁ、主人公の好きな相手が人間に捕まってしまって、それを助けに行くようにするんだ」
「……囚われた姫様を助けに行く、みたいな感じ?」
「まあ、そんなところだ」
そう言いながらボリィはクッキーを頬張った。ギャズはクッキーを頬張りながら聞いた。
「監督、それで主人公はどの動物にするんですか?」
「うーん。強そうに見えるライオンがいいと思ったんだがな、目立ってしまうだろ、それが町を歩いていたら人間たちにさ。それに、この森にライオンがいるとは思えないしな」
「そうですね」
「だから小動物にする」
「小動物? さっき撮ったウサギとかタヌキみたいなやつですか?」
「ああそうだ、できるだけ小さい動物がいいな」
ボリィはなにか動物はいないものかと辺りを見まわした。しかし動物たちは見当たらなかった。
「その主人公にどうやって銃を持たせるんですか?」
ギャズは小動物を探しているボリィに聞いた。
「基本主人公に銃は持たせない。ていうか持てないだろう。だから丸腰のままだ、映像に出るのはな。そこで、俺の編集で銃をどこからか取り出したように見せる」
「銃を構えたりする仕草はどうするんです?」
「構えない。銃を撃つ方向をその動物が見ていればいい。要するになにをやっているか、わかればいいんだ、わかれば」
「……はあ」
ボリィは空を飛んで行く鳥をながめていた。そのあと木の上を見上げた。
「ん? おいギャズ、あれを撮れ」
そう言って人差し指をそこへ向けた。
「え?」
ギャズはその指の先を目で追っていった。そこにはシマリスとネコが木の上にいてこちらを見下ろしている姿があった。
ギャズはあわててそれにカメラを向けた。
ククジェルたちは人間たちがやっている奇妙な行動をただ見ていた。
「なにやってるんだろ?」
首をかしげてククジェルはつぶやいた。すると隣にいたニャミィが言った。
「あたし、人間があんなことをやっている姿を見たことがあるわ」
「本当?」
「ええ、あたしが飼い主と暮らしていたとき、あんな物を取り出して飼い主と一緒にそれを見ていたわ」
「ふーん、どんな意味があるの?」
「さあねぇ、もしかして、なにかを記憶している物だったりして」
「きおく?」
ククジェルは不思議な力をもつその奇妙な物をぼーっと見つめた。
「記憶ってことはぼくたちの姿をあのなかに入れているってこと?」
ニャミィは後ろ足の毛づくろいをしながら言った。
「そうじゃないのかしら、だってあたしと飼い主が一緒にそれを見て、すこし経ったらそれをやめて、そこについている四角いものを見せてきたわ。飼い主と一緒にそれを見ていたけど、飼い主の隣には白い生き物がいたわ、それはあたしだったの」
「ニャミィがいたの?」
「そうよ、不思議でしょ」
「ふうん、じゃあぼくたちの記憶をあれで残しているなら、人間はぼくたちを追ってくるはずだよね」
「そうだねぇ」
ククジェルは隣の木に飛び移った。
「ニャミィ、こっちにきて」
ククジェルの声に気づいてニャミィは木を移った。すると、人間は持っている物を動かしてククジェルたちを追う。
「本当だ。ぼくたちの記憶を残している」
「そうだろう、まったく人間たちの考えていることはわからないねぇ」
「あっ! そうだ、ぼくいいこと考えたよ」
「いいこと?」
「うん、あれでぼくたちの記憶を残してくれるんなら、仲間たちが人間たちに捕まっている収容所の記憶を残してもらうんだ」
「収容所の記憶? それでどうなるんだい」
「それで、ぼくがその捕まっている仲間たちをふたたび助けるんだ。捕まっているところから、自由にこの森を駆けまわっている姿を記憶に残してくれるなら、あの人間たちはもう、ぼくたちを捕まえようとはしないはずだよ」
「どうしてそうなるんだい?」
「その姿は残り、あの人間たちはそれをいつでも観ることができるでしょ。そうなれば仲間たちを捕まえようとしたとき、それを思い出して思いとどまる、どうかな?」
「ああ、こうなりたいっていう姿をあいつらに見せるんだね」
「そう」
「うーん……」
そこでニャミィは考えた。ククジェルはガルマにさっきのことを問いかけた。
「ガルマはどう思う?」
「そうだなぁ、悪くない考えだ。しかし、それをしたところで捕まえようとするやつは捕まえるぜ。それにお前の魔法がバレる可能性もある」
「あっ! そうだね。……でも、収容所のなかで檻に入れられている仲間たちの姿だけでも記憶に残してもらえれば、やる価値はあるかも。それにあの人間たちは少なくともぼくたちの仲間を捕まえようとはしてないから」
「まあ、ああいった人間もいるってことだろ。だが、疑いは捨てるなククジェル」
「うん」
ニャミィは顔の毛づくろいをしながら言った。
「なんでもいいよあたしは、それよりお腹すいたよククジェル、食べ物をなにか出しておくれ。走って獲物を捕まえるのって疲れるからさ」
「じゃあ、ぼくに協力してくれる?」
「ああ、協力でもなんでもするさ」
ボリィはギャズに言った。
「よし、そんなもんでいいだろ」
「はい監督」
ギャズはカメラを回すのをやめて地面に置いた。するとルーブが思いついたことを提案した。
「ねえ、監督」
紅茶を飲みながらクッキーを食べているボリィは耳だけをルーブに傾けた。
「なんだルーブ」
「シマリスとネコが木の上にいましたよね。あの2匹を恋人同士にしません?」
「ああ、あの2匹をか……そうだな、そうするか。一応、映画には恋愛要素も必要だからな」
「そうですよね、じゃあ、ネコのほうを女にしてどこかに捕まえて置きましょう」
「ネコをお姫様にするのか? シマリスよりでかいだろ、小さいシマリスのほうがよくないか? どちらかといったらシマリスのほうが見た目が弱そうに見える」
「監督、色ですよ。色が白いほうは女っぽいでしょ?」
「いろ? うーん、黒のほうが女っぽくないか? まあそれはいいとして、小さなやつがでかいやつを助けに行くほうが面白いかもな。じゃあそれで行くか」
こうして、ボリィたちは休憩をやめてふたたび森を歩き始めた。
それを見てククジェルたちもそのあとを追った。
ボリィたちは行く先々で動物たちを撮っていった。ウサギ、タヌキ、リス、トリ、目の前にあらわれた動物たちはそれくらいだった。
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