第12話 伝えられない想い
「あ! おい、待て!」
ククジェルは人間たちが転ぶイメージをした。すると人間たちはなにかにつまづいて地面に転んだ。
「うわっ」
それを見た警察官のリーダーが言った。
「おい、お前らなにやってんだ。早くこっちを手伝え」
転んでいた警察官たちは素早く立ち上がり、リーダーのもとへ走ってもどった。
「実は野良イヌがいてですね」
「野良イヌ? リストに載ってるやつか?」
「いいえ」
「ならほっとけ」
警察犬がククジェルに言った。
「オウガってやつは逃げちまったみたいだなぁ。あいつが言ったことには本当だが、ひとつ違うところもあるぜ」
「なに、違うところって?」
「人間は恐怖からでも捕まえるんだ。興味とかじゃない、人間の生活を脅かす者はどんなモノであっても捕まえるのさ、それか殺すか」
「ころす?」
「ま、せいぜい気をつけることだな」
そうして、なにも抵抗できずに助けた動物たちは人間たちによって連れて行かれてしまった。
ククジェルはガルマに聞いた。
「どうしよう、ガルマ」
「そうだな、また仲間たちを助けに行ったとして収容所から出してやったとしても、また人間たちに捜し出されて見つかっちまう」
「うん」
「収容所から出して人間たちに見つからない場所に送るようにするか。だが、そこでも安全かどうかわからないからな」
「うん、そうだね……ねえ、ガルマ」
「なんだ」
「さっき人間たちについている仲間が言っていたけど、ぼくたちの仲間が人間たちの生活を脅かすって言っていたんだ。そんなことするのかな?」
「それは防衛本能でしているだけだ。人間たちは勝手にそれを襲われたって勘違いしやがる」
「ふうん、そうなんだ」
「オウガの話を聞いただろ。彼はただ人間がちょっかいを出してきたから軽くかんだって、そしたら捨てられた。それはオウガを危険で怖いモノだとあいつらが判断したからだ。特に体が大きいモノにとってはそうなりやすい」
人間たちにわかってもらえな気持ち。その苦しみからククジェルはひらめき始めた。
「ねえ、ガルマ」
「なんだ」
「なんでぼくたちは仲間たちの言葉はわかるけど、人間たちの言葉はわからないの?」
「さあな、だが向こうも同じだ、俺たちの言葉は人間にもわからない」
「うーん、話し合えればぼくたちが仲間を助けた理由がわかるのに」
「そうだな、言葉が通じれば、たぶんこんなに俺たちを人間たちが追い込まなかっただろう」
「ぼく、人間たちと話をしてみるよ」
「え?」
「ぼくの魔法を使って、そうすれば」
「俺は気が進まないな」
「どうして?」
「人間たちはククジェルみたいな珍しい生き物を見たくなるやつらだ。人間と通じ合えるとなるとなおさらだ」
ククジェルは首をかしげて考えた。それは話せばわかってもらえて、人間たちがぼくたちに危害を加えたりしないようにできるはずだと。
「人間は未知の生物に強い興味を抱くんだ。ククジェルが人間たちの前で人間の言葉を話したら、それに興味を持った人間がお前を捕まえて、なにかの実験にさせられるのがオチさ」
「じっけんてなに?」
「ククジェルがなんで人間の言葉を話せるのかを徹底的に調べあげるって意味さ」
「どうしてそんなことするの?」
「それが人間なんだ。知りたがるんだよ、なんでも」
ガサガサと茂みが揺れてニャミィが姿をあらわした。
「なんだい、ここにいたのかい。森にいる仲間たちが騒いでいるからあんたを探してきたけど、なるほどねぇ、また仲間たちが捕まっちまったってことかい」
「うん」
もぬけの殻のような広場に風が一陣吹いた。
ククジェルはニャミィに聞いた。
「ねえ、ニャミィ」
「なんだい」
「ぼくが魔法で人間の言葉を話して、収容所にいる仲間たちを外に出してほしいって言ったら、人間たちはそうしてくれるかなぁ」
「え!? ……そいつは、なんだねぇ。あたしは人間じゃないからわからないけどさ、人間があんたの話をまじめに聞くと思う?」
「そう思うけど」
「あまいねぇ、そんなまじめに聞かないって、ただ珍しがるだけさ、それで人間たちの見世物になって……そう、得するのは人間たちのほうさ。つまりククジェルは人間たちによって利用されるっていうわけ」
「でも、仲間をまた助け出してこの森にこさせても、人間たちが捕まえにきてしまうよ。だから人間たちにそうしないでと言えれば」
「やめときなって、人間たちとかかわるとろくなことがない」
ククジェルはどうにかしてぼくたちの気持ちを人間たちに伝えられないかを考えた。
そのとき、人間たちの足音が聞こえてきた。
ガルマは急いでククジェルに言った。
「おい、人間たちだ隠れろ!」
「うん、ニャミィ、人間たちがきたから隠れよう」
顔の毛づくろいをしていたニャミィはあわててククジェルのあとを追った。
木に登りククジェルたちはその人間たちをながめた。ガルマはさっきのことを思い出してやってきた人間たちをにらみつける。
「チッ、またきやがったのか」
その人間たちはなにやら機材を持ってきていた。
3人いて、太った体型のボリィ(43歳)と眼鏡をかけて細身のギャズ(21歳)は男性。そのふたりより背の高いルーブ(30歳)は女性。
その3人は森を歩いていた。
初めて映画を撮るためにピアメイトリィの森へきた。それは動物をテーマにした映画を撮るためだった。
「この辺てあまり動物がいないわね」
そう言いながらルーブは深いため息をもらした。
「そうですね。森なのに動物たちの姿が見当たらない」
ギャズは周りを見ながらようすをうかがう。それを聞いていたボリィが言った。
「大丈夫だ、こうやって適当に歩いていれば出てくるだろう。いずれな」
ボリィは監督。ギャズはカメラマン。ルーブは照明をそれぞれ担当している。
食べることが大好きで生活習慣病にかかっている動画編集業のボリィ。
ネトゲにハマりすぎて慢性的な腰痛になり、生活をそれにすべて捧げてしまっている転売屋のギャズ。
お酒が大好きで毎日欠かさず大量に飲んでいて肝臓を壊しそうになっている、ティッシュ配りのアルバイトをしているルーブ。
病気のため休業中だった3人は病院で知り合い、なんの仕事をしているという話から映画はなにが好きかという話になった。
ボリィは銃を撃ちまくるギャングもの。ギャズは観ると呪われると巷で流行っているホラーもの。ルーブは失恋をしすぎて復讐しながら最後は必ず自分が死ぬ自殺もの。
そういったことを話しているうちに、3人は病院に貼ってあるポスターに目が移った。
そこに書いてあったのは、映画コンクールの優秀賞の賞金が10万ゴールド(日本円で1000万円)というものだった。
3人はそれに目が釘付けになった。
病院に映画好きな見知らぬ3人が集まって、たまたま映画の話をしていたら、そこに映画コンクールのポスターが貼られていたことで、これはなにかのお告げだと思った3人は映画を撮ることに決めた。
一発逆転を狙うためさっそく映画製作に取りかかる。素人なためになにから手をつけていいのかわず、機材から用意し始めた。
購入したのはビデオカメラに照明だけだった。動画を編集するパソコンはボリィが持っているということで、そのふたつだけになった。
ジャンルは動物もので行くことにした。
動物を題材にした理由は、どのジャンルを撮るかということで意見が分かれたため、これまで一度も動物映画を観たことがないという3人の唯一の共通点によって判断された。
「監督」
ギャズが聞いた。ボリィは前を見ながら声だけを返した。
「なんだ?」
「監督はどういった動物映画を撮る予定ですか?」
「そうだなぁ、やっぱり銃を撃ちまくるやつだな」
「動物が、ですか?」
「動物が銃を撃っちゃいけないのかよ」
「いや、そんなことはないですけど。ホラー要素も少し足したほうがいいんじゃないでしょうか」
「ホラーか、たしかに最近流行っているからな、考えておこう」
3人の役割を決めたのは、くじ引きだった。
監督。カメラマン。照明。素人だったためそれで撮れると3人は思っていた。
ボリィは飲食の担当もしている。リュックを背負っていてなかは食糧などを入れている。
ギャズは休憩用の3人分の小さな椅子を背負っている。
ルーブは下に敷くビニールマットを背負っている。
「失恋要素も入れましょ、監督」
ルーブは言った。ボリィはあごに手を当ててうなった。
「うーん、失恋かぁ、動物って恋愛するのか?」
「さあ、でも、取り入れてそれで復讐に燃えるようにしましょ」
「復讐ねぇ、まあ、考えておくよ」
そんな会話をしながら3人は森を歩いて行った。すると目の前にウサギが1匹出てきた。
「おい、ギャズ。カメラを回せ」
ボリィに言われてギャズは中古で買ったとても安い片手持ちのビデオカメラを回した。そのタイミングでルーブも中古で買った三脚付きの小さな照明を手に持ってウサギを照らしていく。彼女は二日酔いのためふらつきながら照明を持っていた。
最初は綺麗に撮れているが途中で故障したように映像の乱れが生じた。
「あっ!」
ギャズが思わず声をあげた。
「どうした?」
ボリィは聞いた。
「映像が乱れています。もう一度取り直したほうがいいんじゃないでしょうか」
「映像の乱れ……?」
ボリィはため息をつくと後頭部を片手でさすりながら考えた。そして。
「面倒だ、そのまま流せ」
「え? いいんですか? 綺麗に撮れてませんよ」
「あとで編集すればいいだろ」
「わかりました」
ウサギは後ろ足で耳をかいている。そのあと走り出してウサギは森の奥へ消えていった。
「よし、先に進むぞ」
ボリィはそう言って歩き出す。それをギャズは止めた。
「あ、監督。映像の確認は?」
「とりあえず撮れてればいい」
「そ、そうですか」
「次も同じようにやってくれ。動物が出てきたらカメラを回す。いいな」
「はい」
ククジェルたちはそのようすを見ながら彼らのあとを追った。
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