第11話 新たなる争い

 夫婦は静かになった部屋をのぞきにくると、そこにポニーはいなかった。


「どこに隠れたのかなぁ、おーい」


 夫はそう言いながらソファの下やテーブルの下を探している。


「ねぇ、あなたいないわ」

「おかしいな、どこにいったんだろう。玄関はちゃんと閉めてあったしなー」

「ねぇ、あの子はひょっとして、ここにいたくなかったのかもしれないわ」

「え? ここにいたくない?」

「きっと帰ったのよ。本当の母親のもとへ、そう信じましょう、あなた」

「……うん」


 夫婦は寄り添い窓の外をながめた。



 ククジェルたちはポニーの家族のもとへと向かっていた。


「ねぇポニー」

「なに? ククジェル」

「あまりぼくから離れないで」

「ああそうだね、ごめん今度は焦らないでゆっくり行くよ」

「うん、ありがとう」


 それから、ポニーはにおいを嗅ぎながらを着実にその家族のもとへと歩いた。


 そして、ついにたどり着いた。


「この家だよ」


 ポニーは飛び跳ねながらうれしそうにしている。


「ここがポニーの探していた家?」

「うん、そうだよ。ここでにおいは途切れているし、ここが一番においの強いところだよ」

「そう、よかった。じゃあ早速なかに入ってみよう」

「うん」


 玄関の前に柵があり、それをククジェルの魔法で開けた。


 なかに庭がありそこまで歩いて行った。ククジェルたちはポニーのあとについて行き、それから途中でついて行くのをやめた。それは、ポニーを見守るために、ちゃんと人間たちが優しく迎え入れてくれるかどうかを見るために。


 ポ二ーは庭の前で走り回ったりして喜んでいる。そこに住んでいる人を呼びながら、あの子を呼びながら待っていた。


 しばらく経って、家から誰も出てこなくポニーは首をかしげた。


 ポニーはククジェルたちに駆け寄ってきて言った。


「ねえ、ククジェル。あの子がいないよ、どうしたんだろう」

「いないの? うーん、どこかに出かけているのかもしれないね、もう少し……」


 そのとき、車のエンジン音がククジェルたちに近づいてきた。


 ガルマはとっさにククジェルに言った。


「おいククジェル。早く隠れるんだ。ここの家族のやつらが帰ってきたみたいだ」

「本当? わかった」


 ククジェルはポニーに言った。


「あの音を立てている大きい物にあの子がいるみたいだから、ぼくたちは離れてるよ。なにかあったら駆けつけるからね」


「うん」


 ポニーはくんくんと鼻を鳴らすけど、車から出す排気ガスのにおいにでその子のにおいが嗅ぎ取れないでいる。


 ククジェルたちは近くの木に登ってそのようすをながめた。


 車が止まり、エンジン音が切れるとなかから人間たちが出てきた。


 車の前でポツンと座りポニーは待っている。そこにローサとリンリーとロビがやってきた。


 リンリーはポニーに気がつくと走り出して近寄った。


「ポニー! ポニーがきてるよお母さん!」

「あら本当だわ。どうして家がわかったのかしら」


 リンリーはポニーの頭をなでた。ポニーははしゃぎながら尻尾を振っている。


 ロビは感心しながら言った。


「凄いなー、僕たちの家がわかったんだ。収容所から抜け出してここまで歩いてきたのか」


 リンリーはローサに言った。


「ねえ、お母さん。ポニーを家で飼ってもいいんでしょ」

「ええ、もちろんよ」

「やったー!」


 リンリーは笑顔でポニーを抱いた。それを見たククジェルは言った。


「よかったね、ポニー。優しい人間に出会えて」


 ガルマは言った。


「そうだな、ああいった人間がもっと増えてくれればいいのにな」

「うん」


 隣で見ていたニャミィが退屈そうに言った。


「わからないわよ、これからが問題なんだから。人間は気が変わったりするからねぇ」

「そしたら、ぼくたちが助けにこよう。ポニーを」

「え!? あたしは……あんたが食べ物を出してくれるんなら、一緒についていってあげる」

「わかったよ」


 ククジェルはポニーとその家族を見下ろした。


 リンリーと一緒に走り回っているポニーはとてもうれしそうにしている。そこに幸せがあるのを見てククジェルは言った。


「ポニーいつまでも幸せでね。じゃあね、ポニー」


 そうしてククジェルたちはピアメイトリィの森へと帰って行った。



 動物たちを収容所から助け出したククジェルたちはピアメイトリィの森で平和に過ごしていた。


 ククジェルはピヨリティスに言われたとおり、魔法で食べ物は出さずに森を歩きまわりながら食べ物を探していた。


 そんなある日。


 ククジェルがどんぐりを集めていると1匹のイヌが走りながらやってきた。それはあわてながら、早くどこかに追いつこうというような走りかたで。


「ククジェル!」

「オウガ、どうしたの?」

「大変だ! 俺たちの仲間が人間のやつらに捕まって連れて行かれている」

「えっ!? どうして?」

「さあな、とりあえず俺についてこい、その場所まで案内する」

「うん」


 ククジェルはオウガを追いながらその人間たちのもとまで向かった。


 オウガは速かったのでククジェルは魔法を使い、オウガのように速く走るイメージをして追いついていった。


 ガルマは言った。


「チッ、どうしてあいつらは俺たちを自由にさせないんだ」


 オウガは急に走るのを緩めてククジェルに言った。


「ククジェル、この辺から人間のにおいが強くなってきている、ゆっくりと進むんだ」

「うん」


 警戒しながら進んで行くと土と草のある広い道に出た。道を挟みその先にはまた森が広がっている。その手前にある茂みに身を隠しながら通りに顔をのぞかせた。


「あっ!」


 ククジェルは思わず声を上げた。


 そこには収容所から助け出した動物たちが、警察官たちによって格子のついた籠に入れられている光景だった。


 その籠は次々と車に乗せられていく。


「みんなが!」


 ククジェルは飛び出して行こうとしたが、それをオウガは止めた。


「やめろ、ククジェル」

「え?」

「相手は人間だ、俺たちが出て行っても相手にしないだろう」

「でも、仲間が」


 オウガはその場に出られなかった。出たくても人間たちによってひどい目にあっていたため。怖がって出ることができなかった。


 ククジェルはその忠告を無視して人間たちの前に飛び出した。


 人間はククジェルに気づいただけでなにもしてこなかった。次から次へと助けた動物たちが籠に入れられて車に乗せられていく。


 人間の側でうろついている警察犬がククジェルに言った。


「おい! なんだ貴様」

「ぼくはククジェル。どうして仲間たちを連れて行くの?」

「悪さをするからだ。俺のご主人様たちはそういうやつらを捕まえるのが仕事だ」

「仲間たちはなにも悪いことしてないよ」


「するんだよ。俺はこういった現場にきて大暴れしている同族と会った。人間に咬みつきながら籠に入れられていたよ」


「それは、嫌だったからじゃないの? 捕まるのが」


「そいつは違うな、逆だ。こういった抵抗をする同族たちは、やがて人間たちの町にあらわれて、人間たちの物を盗んだり奪ったりするんだ。危害を加えるってやつさ」


「そんなことしないよ!」

「わかってねーな、したら手遅れなんだよ。だからいまのうちに監禁するのさ」

「収容所に?」

「そうだ。とりあえずこの場所に集まっているみたいだからな……」


 警察犬は首を動かして辺りのようすをうかがった。くんくんと鼻を鳴らしている。


「まさか」

「そうだ。俺たちがそいつらのにおいを嗅ぎ分けてこの森にいることを突き止めたのさ」


 周りを見るとほかにも人間とともに行動している警察犬がいる。


「わかったら帰りな、ボーヤ」


 ガルマは言った。


「ククジェル! なんとかみんなを助けるんだ!」

「うん」


 ククジェルは魔法で仲間たちを籠から出すイメージをしようとした。すると、オウガが飛び出してきて言った。


「ククジェル、やめろ。魔法を使ってあれから出させてやるんだろ」

「そうだよ、オウガ」

「ここでそれを使っちゃダメだ」

「どうして?」


「もし、お前の使う魔法がバレたら、今度はお前を人間たちは捕まえにくるぞ」

「なんでぼくを?」

「人間は珍しいモノが好きなやつらだ。特に魔法を使うお前みたいなやつはな」

「それでもぼくは助けるよ」


「ダメだ。そしたら、この森に人間たちがきてお前を探しまわることになる。そのつど、お前や俺たちは人間から逃げなきゃならなくなる」


 ククジェルは魔法をやめて人間たちをにらみつけていた。


 そんなククジェルにガルマは言った。


「たしかにオウガの言うとおりだ。この森を人間たちが好き勝手に荒らしまわってしまうということは、ここで生活している仲間たちに危害が及ぶことになるかもしれない」


「……そうだね」


 警察官のひとりがオウガを見て仲間に声をかけた。


「おい、あのイヌも連れて行くのか?」

「あ? 野良イヌか、そうだな一応捕獲しとくか。リストには載ってないけど危険かもしれないからな」


 警察官たちは棒のついた網を持ってオウガに近寄った。


 オウガはそれを見て言った。


「な、なんだ、俺を捕まえる気か」


 ククジェルは怯え始めたオウガに言った。


「オウガ、ここは逃げて。ぼくが人間たちを食い止めるから」

「す、すまねぇ」


 そう言って、オウガは素早くその場から離れた。


 それを見た警察官たちはオウガを追いかけようと走り出した。

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