第9話 動物を飼う理由

 リンリーは部屋にこもり学校の宿題をしているが手につかない。それはポニーのことを考えてしまうから。頬杖をしながらため息をついた。すると部屋のドアをたたく音がした。

 

「お姉ちゃん、昼ごはんできたって」


 弟のロビがドア越しに言った。


「うん、いま行く」と返して椅子から立ち上がりその部屋を出て行った。


 リビングにきてみるとローサとロビが食卓を囲んでいた。


「あれ、お父さんは?」


 リンリーが聞くとローサは答えた。


「お父さんは仕事で出かけたわ」

「ふーん」


 リンリーは席に着いて皿にのせてあるサンドウィッチを食べようとした。


『――続いて速報です。ラシナル町にある収容所の動物たちが一夜にしていなくなるという事件についてですが、そこに残されていた動物たちがまたいなくなったという報告がありました。収容所のなかには1匹も動物たちが残されていないとのことです。関係者は――』


 リンリーはサンドウィッチを皿に戻してテレビに近づいた。


「また神隠しかよ。すげー」


 ロビはうれしそうに言うとローサはロビをしかった。


「ロビッ!」

「うそ、まさかポニーまで、なんでいなくなったのよ」


 リンリーは目を見開きながら訳がわからないと言ったようにテレビを見つめた。


「リンリー」


 ローサはリンリーに近寄った。


「リンリー大丈夫よ。なにか訳があるのよ」

「どんな」

「それは、人の目を盗んでそこから動物たちが抜け出したとか」

「どうやって抜け出すのよ。これは悪魔の仕業だわ。悪魔が動物たちを消したのよ」

「バカなことを言わないの」


 ローサはリンリーを落ち着かせるために彼女の頭をなでた。


「バッカだなー、悪魔なんているわけねーじゃん」


 ロビはふざけたようにリンリーをあおった。


「ロビは黙ってなさい!」


 ローサはふたたびロビをしかった。リンリーは下を向いて落ち込んでいる。そんな彼女の肩に手を添えてローサは言った。


「まずはごはん食べちゃいなさい。それからポニーを探しに行きましょう」


 するとリンリーは顔色がよくなりその顔を上げた。


「本当? ポニーを探しに行ってくれるの?」

「ええ、だからまずは腹ごしらえをしなきゃ」

「うん」


 リンリーは席に着いてサンドウィッチを頬張った。


「マジで? ポニーが消えたおかげでどこかに出かけられるんだ。やったー」


 リンリーはロビをにらみつける。


「コラッ! どうしてロビはそうお姉ちゃんを怒らせるようなことを言うの」


 ローサが言うと黙ってロビはサンドウィッチを頬張る。それから車に乗り込んでまずは収容所のほうへ向かった。


 収容所に着いて近寄って行くと、相変わらず黄色いテープが張られていた。報道関係者や一般人もたくさんきている。


 ローサはそのなかに入り込んで行って警備員に聞いた。


「あの、ニュースを見てきたのですが……」

「あー、関係者以外立ち入り禁止です」

「あのう、動物たちは」

「いまはなにも答えられません、お引き取りください」

「私たちが飼うことになっていた子イヌなんですが、なかにはいないんですか?」

「すみません、なにも答えらえれません、お引き取りください」


 ローサはしぶしぶ引き返すとリンリーが聞いてきた。


「どうだったの?」

「警備員さんは答えられないって」

「……そう」

「ほかを探してみましょう」

「うん」


 車をゆっくりと走らせながらポニーを探していった。車を道のわきに停めたりして歩いて探しまわる。


 すれ違う人々に聞き込みをしながら探した。でも、返ってくるのは「知らない」や「見てない」という言葉だった。


 一度、車に戻って少し休むことにした。


「どこ行っちゃったんだろう、ポニー」


 リンリーはうなだれたようにため息をこぼす。


 ロビは言った。


「お姉ちゃんに飼われるの嫌だったから逃げちゃったんじゃないの?」

「ロビ! そんなことないでしょ、飼われるのが嫌なんて」


 ローサはロビをしかるとリンリーを見た。リンリーはロビをにらんでいたが、しばらくして下を向きながらつぶやいた。


「……そうかもね、私たちに飼われるの嫌なのかも」


 ローサはあわてて聞き返した。


「リンリーどうしたの? そんなことないでしょ。私たちがポニーを見に行ったときうれしそうに尻尾を振っていたじゃない。特にリンリーには」


「うん、そうだけど。ねえ、お母さん」

「なに?」

「動物を飼うってどういうことなの?」

「それは……」


 ローサは考えてみた。

 リンリーに初めてそんなことを言われて、あらためて動物の存在を意識した。


 なぜ動物を飼うのか。


 それはその動物を飼いたいと思うから。としか出てこない。


 一緒に遊びたいとか、癒されたいみたいなこともあるから。


 それは自分たちが思っているだけで、飼われている動物は本当はどう思っているのかということ。それを考えると動物を飼っていいものなのかと考えてしまう。


「それは?」


 リンリーはローサを急かした。

 ローサは答えが出ずに当たり障りのないように答えた。


「それは、一緒にいたいからでしょ。リンリーはポニーと一緒にいたくないの?」


 リンリーは首を横に振って答えた。


「ううん、いたいよ。ずっとそばに」

「そう、それでいいのよ」

「うん」


 

 ククジェルたちは遊歩道を歩いていた。ポニーは尻尾を振りながらリンリーのにおいをたどって行った。


「段々とにおいが濃くなってきたよー」


 ポニーははしゃぎながら走って行った。ククジェルたちはポニーを追いかける。


「ポニー待って」


 ポニーの速さにククジェルは追いつけない。徐々に離されていく。ククジェルはニャミィ言った。


「ニャミィ、ポニーを待つように言ってきて」

「わかったわ」


 ニャミィは素早い動きでポニーに追いつこうとした。そのとき、曲がり角から人間の若い夫婦が出てきた。


 ポニーは急に止まれずにその夫婦の妻の足もとにぶつかった。とたんにニャミィは立ち止まりそのようすをながめた。


「あら? 見て、子イヌだわ」


 妻がポニーを見て夫に言った。


「ああ、ホントだねぇ、迷子かな」


 そう言いながら夫はポニーを持ち上げた。


「うーん、飼えなくて捨てられたのかな、首輪もしてないし」


「ねえ、あなた、その子イヌ、私たちで飼いましょう。このままにしたら危ないし、それにお腹もすかせているかもしれないから」


「そうだね、僕たちのあいだにはまだ子どもを授かってないから、代わりといってはなんだけどこの子イヌを育てようか」


「ええ」


 ポニーはククジェルたちを呼んだ。


「人間たちに捕まっちゃったよー、ククジェルー、ニャミィー助けてー!」


 ポニーは人間に抱かれたまま連れ去れた。


「まずいことになったわねぇ」


 ニャミィはそう言ってククジェルたちのところへ素早くもどって行った。もどってくるとニャミィはククジェルたちにあわてながら言った。


「大変だよ。ポニーが人間たちに捕まっちまったよ」

「え!? 人間たちに?」


 ククジェルは驚きながら聞き返した。するとガルマは言った。


「ククジェル、まだそんなに遠くへは行ってないはずだ。早く追うんだ!」

「うん」


 ククジェルはニャミィに聞いた。


「ニャミィ」

「なんだい?」

「その人間たちはどの方向に行ったかわかる?」

「ああ、わかるよ、あたしについてきな」


 ニャミィのあとをククジェルたちは追って行った。曲がり角にくるとニャミィはそのまま走りながら言った。


「ここを左に曲がったんだ。人間たちは引き返して行ったんだよ」

「うん」


 角を曲がると広い通りになっていて、右側には家が点々と並んでいる。左側には芝生がありそこは広場になっていた。その芝生では人間たちが遊んでいる。


「どこに行ったんだろう」


 ククジェルは周りを見ながら走っていた。するとニャミィは急に立ち止まり周囲を見回した。


「ここら辺まで見てたんだけどね。このあとどこに行ったのかわからないよ」


 ククジェルはニャミィに聞いた。


「ねえ、ニャミィ」

「なんだい?」

「どんな人間たちだったの?」

「どんな? さあ、見分けがつかないからねえ。大きいのと少し小さいのしかわからないよ」

「そう」


 広場のほうをみると人間たちと一緒に遊んでいるイヌたちもいた。人間にボールを投げてもらったり、フリスビーを飛ばしてもらったりして、それを取ってきて食べ物をもらったりしている。


 その光景を見てククジェルは言った。


「ねえ、ガルマ。あそこに人間たちに飼われている仲間たちがいるよ。話を聞けないかな?」


「……そうだな、聞ければいいが人間たちが近くにいたんじゃ、まともに話しすらできない。あいつらは俺たちをすぐさわりたがる。特にお前のような小さい生き物は」


「じゃあ、どうしよう」


 ククジェルたちは人間たちと遊んでいる仲間をながめた。ガルマはひらめいたように言った。


「あの仲間たちが人間たちからなにかを投げてもらって、それを取りに行っているな」

「うん、そうだね。とても楽しそうだね」


「あの投げたのをニャミィに取ってもらって、そのまま俺たちのところまで仲間をこさせるってのはどうだ?」


「ああ、それいい考えだね。さっそくニャミィに言ってみるよ」

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