第6話 動物たちを送り届ける

 ラシナル町にある収容所に着くとそこでは何人かの人が行き交っていた。


 それを見たガルマはククジェルに言った。


「おい、ククジェル。人間たちが収容所の周りを見張っているぜ」

「そうだね、どうするの?」

「そうだなぁ、とりあえず近くの木に登ってようすを見るんだ」

「うん、わかったよ」


 ククジェルは木に登り収容所の周辺をながめた。人間たちがあわただしく動いている。


「どうしたんだろう?」

「なにかあったんだ。隙を見てなかに入ってやろうぜ」

「あ、そうだ。ぼくの魔法でなかに入れるよ」


「ダメだ。それでなかに入った瞬間に俺たちは人間にバレる。なかに何人の人間がいるかわからないからな、慎重に行動するんだ」


「うん、わかったよガルマ」


 こうして、しばらくのあいだククジェルたちはなかに入れるように隙をうかがった。


 ニャミィは飽きたのか体の毛づくろいを始める。


 日がちょうど真上にきた辺りで人のとおりが少なくなった。それに合わせて木から降りて、ククジェルたちは収容所の窓からなかをのぞいた。


「あっ! ポニーがいる」


 ククジェルは檻に入れられているポニーに目をやりながら言った。


「そうだな、ポニーを迎えにこなかったのか」

「ほかの仲間たちもまだその場にいるよ」


 ガルマはため息をひとつついて言った。


「やはり、あいつらはそういう生き物さ、すぐ裏切る」

「人間たちはいないから、いまのうちになかに入ってみよう」

「ああ」


 ククジェルたちは魔法で窓を開けて収容所のなかに入った。


 ポニーは下を向いて寂しそうにしている。


「ポニー」


 ククジェルが呼ぶとポニーはそのほうへ顔を向けて尻尾を振った。


「あーククジェル、きてくれたんだ。えっとニャミィも……」

「うん、大丈夫? 元気?」


 ポニーは尻尾を振るのをやめて落ち込むように下を向いた。


「……実は、まだ迎えにきてくれないんだ。いつかはわからないけど、なんとなく今日だって思っていたんだ。そう感じてたんだけど……」


 ククジェルはポニーを励まそうと提案を出した。


「そうだ、ポニーはその人のにおいわかるよね」

「うん、わかるよ」

「じゃあ、そのにおいをたどっていけばその人がいる場所に着くんじゃないかな」

「あっ! そうだ。おいらの鼻でたどればいいんだ」


 ポニーは尻尾を勢いよく振ってうれしそうにした。


 ククジェルは人間たちの目を盗んでポニーを檻から出した。それからポニーと同様に迎えを待っている何匹かの動物たちも出した。


 魔法で収容所から出ると、そこから遠くの広場にククジェルたちは集まった。


 檻から出した動物はイヌやネコで、その大半が子どもばかりだった。


 それぞれの家に連れて行くため1匹ずつ送ることにした。みんなで移動すれば人間たちに見つかってしまうかもしれない、そういった危険を極力避けた。


 それ以外の動物たちはこの広場で待ってもらうようにした。


 ククジェルがいなくなった広場をニャミィに任せて。ククジェルたちはその場をあとにする。


 ニャミィはここぞとばかりに食べ物をねだってきたから、しかたなくククジェルはトカゲを出したやった。


 子ネコがにおいをたどって、ククジェルたちはそのあとについて行く。なにかあれば魔法ですぐに逃げ出せるようにしながら。


 子ネコをその家まで送り届けると、しばらくそのようすを見守った。


 それは人間たちがちゃんと受けいれてくれるかということ。もし追い返されたらすぐ助けに行くために。


 子ネコを抱きかかえている人間の姿が見える。その人間はうれしそうな表情をして子ネコを歓迎していた。


 それを見届けてから次の動物を送り届ける。

 

 そのようにして、動物たちを送ることに成功した。人間たちはそれぞれ動物たちを優しく受け入れてくれた。それは家族のように。


 そして、最後にポニーを送り届けることになった。


「じゃあ、ポニー行こう」

「うん」


 ポニーは尻尾を振りながら歩いて行く、においをしっかりと嗅ぎながらゆっくりと歩を進めて行った。


 町ではできる限り人通りの少ないところを通るようにした。遠まわりになったとしても危険だけは避けた。

 

 独特のにおいが漂ってきて、その方向に目をのばすと遠くにオープンカフェが見えた。そこでは人間たちが食事をしている。


 ククジェルはそれを見てガルマに聞いた。


「ねぇ、ガルマ」

「なんだ?」

「人間たちってなにを食べてるの?」

「さあな、弱肉強食だとすると俺たちの仲間かもな」

「仲間が?」


「ああ、そればかりは避けられい。その仲間が人間の手から逃げてくれることを祈るしかない」


「助けに行かないの?」


「それは助けてやりたい、できればな。だが俺たちの仲間はいたるところにいる。人間も同様にいたるところにいる。だからみんなを助けるのは不可能に近い」


「うーん、そうなんだ」

「だが、俺たちの目の前で仲間が人間たちに襲われていたら、助けてやろうぜ絶対に」

「うん」


 路地を通り抜けようとしたところで仲間の弱々しい声が聞こえてきた。なにかに怯えているような声がククジェルたちの耳に届いた。


 ククジェルは立ち止まるとガルマに言った。


「ガルマ、仲間の声が聞こえるよ」

「ああ、怯えているな。行ってみよう」

「うん」


 ククジェルはポニーとニャミィにそのことを告げてここで残ってもらうように頼んだ。


「任せな」と言って、ニャミィはポニーを庇うように前に出る。


 ククジェルたちは走ってその声のするほうへ向かった。


 袋小路のところに子どもの人間が3人ほどいた。それはなにかを中心にして取り囲んでいるようだった。


 ククジェルたちは近くの塀に飛び乗りそのようすを見た。


 そこにいたのは雌タヌキが怯えながら人間たちを恨めしそうに見ている姿だった。


 その人間たちは少年たちでニヤニヤしながらその震えているタヌキを見下ろしている。


「はっ、こいつ怯えているぜ」

「じゃあ、もっと怯えさせてやろうぜ。おい棒を貸せよ」


 帽子をかぶった少年と太った少年のふたりは、後ろにいる眼鏡をかけている細身の少年に棒を差し出すように言った。


 棒を差し出そうとしたとき、その眼鏡の少年は怯えたように言った。


「もうやめようぜ。かわいそうだろ」

「ああ! なんでだよ、こうやって弱い者いじめしてるの楽しいだろ。貸せよ」


 帽子の少年は棒を奪い取って地面に棒をついた。その音にタヌキは縮こまり塀の隅に寄った。


「ははは、この程度で驚いているぜ。おい、もっとやっちまえ」


 太った少年にそう言われて、棒を思いきりタヌキの手前の地面にたたきつけた。


 ブルブルとタヌキは体を震わせてますます縮こまる。


 それを見かねたガルマは言った。


「おい、ククジェル。仲間を助けるんだ! あいつら許せねぇ!」

「うん」


 ククジェルは迷わず塀から飛び降りて少年たちの前にあらわれた。


 少年たちは急にあらわれたシマリスを見て驚きを見せる。


「ん? なんだこいつ。急に上から降ってきたぜ」

「はっ、ちょうどいーや、こいつも一緒にやっちまえ」


 太った少年に言われて帽子の少年は棒を振り上げた。すると、後ろで見ていた眼鏡の少年が帽子の少年から棒を奪い取ろうとした。


 帽子の少年は振り向いて眼鏡の少年に言った。


「放せよ」


 太った少年は眼鏡の少年に近寄って、両手でその華奢きゃしゃな体を押した。眼鏡の少年は吹き飛ばされて壁にたたきつけらる。それを見て太った少年は言った。


「邪魔するな、弱虫」


 痛そうに眼鏡の少年はシマリスとタヌキを見てそれから目をそらした。


 余裕の笑みを少年たちは見せる。


「このシマリス、怯えないな」

「棒でたたけば怯えるじゃないのか」

「そうだな」


 帽子の少年はそう言って棒を振り上げ、シマリス目掛けて振り下ろした。


「ククジェル、きたぞ!」


 ガルマの声に反応してククジェルは魔法を放った。


 それは少年たちがもっとも怖いと思っているものを目の前に出させた。


 実際は出ていないけど、少年たちの目にはその恐怖が映っている。


 それは、ライオンやお化けや両親だった。


 それらは少年たちそれぞれの恐怖であって最悪な存在だった。


 ククジェルは少年たちが怯えて逃げ帰るイメージをしていた。それがいまの彼らに対しての一番の恐怖だった。


「な、なんだ? なんで親が?」


 帽子の少年が怯えながら言った。太った少年は首を振りあとずさりして焦った声を出す。


「違う違う、ライオンだ。ライオンがいる」


 ふたりの少年たちは棒を捨ててその場から逃げた。眼鏡の少年もそれを見て逃げようとしたが腰が抜けて逃げられなかった。


 彼が見たのはお化けだった。お化けはさっきいた少年たちに姿を変えて襲ってきていた。


 なんとか眼鏡の少年は立ち上がり、その場から走り去って逃げ出した。

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