第5話 動物を引き取る家族
ここはラシナル町にあるラビール家。
明け方、少女のリンリー(10歳)はテレビを見ていた。すると母親のローサ(35歳)がリンリーを呼んだ。
「リンリー朝ごはんできたわよ」
「はーい」
テレビではニュースが流れていた。
『――続きまして、ラシナル町にある収容所の動物たちが一夜にしていなくなるという事件が起きました。現在、その動物たちの行方はわかっておらず捜索中とのことです。警察関係では――』
「お母さん」
リンリーはローサを呼んだ。
「なに、忙しんだから」
「これ見てよ」
そう言って、テレビ画面に人差し指を向けた。
「これって、今日ポニーを迎えに行く収容所でしょ」
ローサは驚いて目を丸くした。
「え? ええ、そうね。なにかあったのかしら」
「動物たちが一夜にして消えたんだって」
「消えた? どうして……」
「わからないけど、ポニー大丈夫かなぁ」
「とにかく、今日行ってみましょう。なかに入れてもらえるかわからないけど」
「うん」
すると弟のロビ(9歳)がやってきて愚痴をこぼす。
「お姉ちゃん、また俺のプリン食べたろ。俺が今日食おうと思って取っておいたやつさ」
「食ってないわよ」
「食ったろ、じゃあ、その口についているものはなんだよ」
リンリーは不意に手を口に持っていった。
「あ?」
「ほーら、お姉ちゃんあとでおごってもらうからな。食べた分」
それを見かねてローサは言った。
「ほらほら、きょうだいげんかはしないで、お母さんがあとでプリン買ってあげるから。早くご飯食べちゃいましょ」
食卓に集まるとローサはリンリーに言った。
「リンリーお父さん呼んできて」
「うん、わかった」
リンリーは父親のラボル(38歳)を呼びに行った。
ラボルの部屋の前に行きドアをたたいた。
「お父さん、ご飯できたって」
すると、ドアが急に開いてラボルはリンリーに紙を見せてきた。そこに描かれているのは見たこともない動物の絵だった。
「どうだ、イヌのデザインを描いだんだ」
「はあ、キャベツに見えるけど」
ラボルはイラストレーターの仕事をしている。ローサはスーパーの店員。ふたりはスーパーで会う内に段々と惹かれ合っていまに至っている。
リンリーはため息をひとつついて「ご飯だって」と素っ気なく言うと、その場を離れた。
みんなが食卓に着くと食事をし始める。卵焼きを食べながらラボルは言った。
「あ、そうだローサ。今日、子イヌを引き取りに行くんだよね」
「ええ、でも……」
「どうかしたの?」
「今日行っても、子イヌを渡してもらえるかどうか」
リンリーがその話に割り込んできた。
「ニュースで収容所の動物たちが一夜にして消えたんだって」
ロビがそれに反応して声を出した。
「え? マジ? 神隠しじゃん」
「きえた? なんでまた」
ラボルの質問に、ローサはコップに注がれているオレンジジュースをひと口飲んで答えた。
「さあ、ニュースでは原因不明とか言っているみたいだけど」
「そうか……でも、今日引き取る約束をしているからな。とにかく行ってみよう」
こうしてラビール一家は車に乗り込んで収容所に向かった。
収容所にくると黄色い線が収容所付近に張られていて。一般人はこれ以上近づけないようになっていた。
ラボルは収容所の近くに車を停めて、そこからみんなで収容所の前まで歩いて行った。
警察がきていて見張りをしている。
ラボルたちは警備している者にたずねた。
「あのう」
ラボルが声をかけると警備員は言った。
「ここは関係者以外立ち入り禁止です。お引き取りください」
「あの、私たちここいる子イヌを迎えにきたのですが」
「そうですか、少々お待ちください」
警備員は少し離れて、無線で連絡を取っている。しばらくするとラボルたちのほうにもどってきた。
「すみません、あなたたちをお通しすることはできません」
「できない?」
「何者かが侵入した形跡があるかもしれませんので、現段階ではお通しすることはできません」
「管理人に会わせてもらえませんか」
「それもできません、彼は事情聴取のためここにはいません」
無愛想な態度で警備員は言う。
「お引き取りを」
ラボルは警備員につかみかかるように食い下がった。
「お願いです、ひと目だけでもいいんです。会わせてください……もしかして動物たちが1匹もいないんですか?」
警備員は疲れたようにため息をこぼした。
「いえ、何匹かの動物たちはいます。ですが、あなた方をお通しするわけにはいきません。安全のために。ですからお引き取りを」
ラボルは家族を見まわして諦めたように肩を落とした。
「しかたない、帰ろう」
「えー、せっかく迎えにきたのに。楽しみだったのに、ポニーに会うの」
駄々をこねるようにリンリーは言った。それを見たローサはリンリーの頭をなでながらなだめる。
「リンリー、きっと大丈夫よ。すぐ会えるようになるわ」
リンリーは口をへの字にして下を向いた。
「また、きてみよう」
ラボルはそう言って車にもどった。しぶしぶそのあとをローサたちは続いた。
1日過ぎて。
ピアメイトリィの森の一角では、収容所から助け出した動物たちが楽しそうにしている。
森を走り回っている動物や木の実などを食べている動物もいる。
ククジェルはそのようすを見ながらうれしそうに言った。
「みんな、よかったね。こうやって自由になれて」
するとガルマが安心したように返した。
「ああ、そうだな。自己満足かもしれないが、これが本来の正しい生き方なんだ」
ククジェルたちはそんなことを話しながら歩いていると、動こうとしないで寝ている動物たちがいることに気がついた。
ククジェルはその1匹の雄イヌに声をかけた。
「きみは走りまわらないの?」
「あ、あなたは? 私たちを助けてくれた」
「ククジェル。きみは?」
「私はグレイグ。助けてもらったのに、あいにく足が不自由で……動かないんですよ」
ククジェルはグレイグの足を見てみた。後ろ足が力なく伸びている。それを見たガルマはククジェルに言った。
「ククジェル、魔法で彼の足を治してやってくれないか」
「うん」
ククジェルはグレイグが元気に走り回っているところをイメージした。すると、グレイグは起きあがり走れるようになった。
「おお、素晴らしい。ありがとうございます、ククジェル」
「走り回れるようになってよかったね。グレイグ」
ククジェルは足が治ったグレイグを見ながらほほえんだ。そのほかの動けない動物たちもククジェルの魔法で治していく。
治した動物たちはみんなうれしそうに走り回っていた。でも、不安な気持ちもあった。それは収容所に置いてきたポニーたちことだった。
ガルマはそんなククジェルの顔を見てたずねた。
「どうした? 元気がないな。みんな楽しそうにしているだろう」
「うん、そうだけど。ポニーたち大丈夫かなぁ」
「ポニーたち? ああ、人間たちが迎えにくるから収容所に置いてきた者たちのことか」
「うん、ちゃんと人間たちはみんなを迎えにきてくれるのかなぁ」
「うーん、やつらは気まぐれだからな、当てにはならねぇ……行ってみるかククジェル。ちゃんと人間たちが迎えにきているかを見に」
「うん」
ククジェルたちはもう一度収容所に向かうことにした。
「おや、あんた、どこかに出かけるのかい?」
ニャミィが声をかけてきた。
「うん、もう一度収容所に行ってみようと思って」
「そうかい、じゃあ行く前に、またトカゲを出しておくれよ。腹減っちまってさ」
「うん、わか……」
ガルマは素早くククジェルを止めた。
「おいククジェル。そうやすやすと食べ物を出すな」
「どうして?」
「あいつに自分で見つけさせるんだ。そうしないと堕落しちまう」
「でも、ぼくに頼んでくるんだよ。ダメ?」
「そうだ、精霊ピヨリティスに言われたろ。魔法だけに頼らないで、できる限り自分で行動しろって。魔法は奥の手として使うことってな」
「あーそうだった。うん、わかったよガルマ」
ククジェルはニャミィに言った。
「ニャミィ、ごめん、食べ物は出せないんだ」
「どうしてだい?」
「魔法には制限があるんだ。だから」
「せいげん?」
そう言いながらニャミィはククジェルに近づいた。
「そんなこと言わないでさぁ、少しくらい、いいじゃないか」
「ダメだよ、食べ物は自分で見つけてね」
ククジェルはそう言って収容所へと走り出す。
「え!? ちょ、ちょっとあんた、待ちなって!」
ニャミィはククジェルのあとを追って行った。
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