第24話 あんぎゃあああ!

さて屋台のオヤジさんが目を覚ますと。

そこには吟遊詩人ミンストレルのオルが居た。


「オル!

 無事だったのか、お前」

「大丈夫。

 あのゴブリンに抑えつけられたんで、少し腕が痛いけどさ。

 ケガ一つして無いよ」


「良かった~。

 俺、お前がケルベロスに食われる夢見ちまってさ……

 ……………………

 ああっ! ケルベロスーーーーー!!!!!!」


そう、オヤジさんの視界にオルが居て、その後ろにはデカイ黒い三つ首の魔犬が立っていたのである。


「オル、オル、やべぇ。

 逃げるぞ」

「落ち着いて、オヤジさん。

 大丈夫。

 このケルベロス、僕の言葉聞いてくれるみたいなんだ」

「?!?!」


「ウム。

 我はこの男のくれたビスケットが気に入ったのだ。

 少しばかりの頼み事なら引き受けようでは無いか」


「ケルベロスが喋ったーーーー?!」


「当たり前だ。

 ゴブリン風情が喋れるのだぞ。

 私の様な偉大な魔物が人間の言葉くらい話せて当然だ」


「そ、そうなのか」


そんな訳で、オルの考えた設定である。

ケルベロスはオルが作ったビスケットを気に入って、そのため力を貸してくれる。

言葉はベルが声を低くして話している。

言葉使いを考えているのはロス。


問題はこのムチャな話をオヤジさんが信じてくれるかどうか。


「そうなのか。

 オルすげぇな、お前のビスケット。

 にしてもケルベロスがビスケット好きとはな。

 驚きだぜ」


意外とアッサリ受け入れてくれたようだ。

人の良いオヤジさんで良かった。



「ああ、それでよ。

 良いモノ見つけたんだ。

 それをオルに伝えようと思って、坑道出て来たんだぜ」


良いモノ?

掘り出した鉱石の入った箱だ。

入ってすぐの場所に在ったらしい。

おそらく鉱夫たちが運ぼうとした時、ゴブリンが現れたので置いて行った品。


「運んでくれる?」

「お安い御用だ」


鉱石の入った箱。

ずっしり重たい。

オルの細腕じゃ持ち上げるのだってムリ。


ケルベロスの背に載せて麓の街まで運んだ。

街の大通りを歩くケルベロス。

荒くれた鉱夫たちも大慌て。

小さくなって物陰に隠れるのである。


「ケッ、普段エラそうなくせにダラしないヤツらだぜ」

「まー、三つ首の獣だものね。

 仕方ないよ」


オヤジさんは鬱憤を晴らしてるみたいだけど、オルは寛大。


そして前に来た鍛冶屋の家まで鉱石を運んで行った。


「なにか騒がしいわね。

 なんのサワギよ?

 ……………………

 あんぎゃぁああああああああ!!!

 バケモノ!

 母さん、バケモノ!

 バケモノが襲って来たーーーーっ!!!!」


「なんだって?!

 こいつはケルベロス!

 なんのつもりか知らないけど!

 ウチの娘には指一本触れさせないよ」


「チガウ、違う違う、違うんですーーー。

 落ち着いてください。

 襲いませんから、大丈夫なんです」


しまった。

女の子を脅かしてしまった。

慌てて事情を説明するオルなのである。

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