第22話 命の次に大事な物

「東の方の山のヌシだって言う、巨大な魔物!

 ゴブリンなんかと比較にならないやべぇバケモンだ!!!」


オヤジさんが叫ぶ。

怯えて慌てる。

裸だってのに、体も隠さず逃げようとしている。


やべぇバケモン。

巨大な魔物。

三つの頭を持つ黒い魔犬。


だけど。

オルは何故か、全く怖くなかった。

確かに三つも頭があってまともな犬じゃない事はわかるのだけど。


何故なら。

その三つの首の中心。

左右が黒いのに、一つだけ灰色の毛並みの犬の頭。

その目は黒くてつぶらな瞳。


大丈夫ですか。


と、その目は言っているのだ。


「オル、オル逃げるぞ」

「……オヤジさん、大丈夫みたいです」


「何言ってんだ?

 ……バカ!

 近くによるな。

 食い殺されるぞ」


オルは灰色の額に腕を伸ばして撫でる。

すると魔犬は目を細めて気持ちよさそうにしている。

口から舌が伸びて、ペロンとオルの腕を舐める。


「オルが!

 オルがケルベロスに食われちまったああああああああ?!」


オヤジさんは気を失ってしまった。

気絶するのがクセになったのかも。


しかし、現在のオルにはオヤジさんの心配をする余裕は無い。

それより何より大事なコトを思い出したのである。


「竪琴?!

 僕の竪琴は?」


命の次に大事な竪琴ライアー

さっきゴブリンに奪われた。

どこに行ったの?


オルはキョロキョロ周囲を見回す。


「ウソでしょ!

 どこ行っちゃったの?」


逃げたゴブリンが持って行ってしまったのか。

なんてコト!

サイアク過ぎる。


すると。

目の前の大きな魔犬が消えた。

ポン!


「どうしたんです。

 シショー!?

 まさかケガでもしたんですか?」


そこには慌てた顔をした男の子。

灰色の髪の下、泣きそうな顔をしたロスが立っていた。


「あたたたた。

 いきなり何するんだ」

「イキナリ勝手に合体解くなよ、ロス!」


その後ろには高いところから落ちたみたいにお尻を撫でるケルとベルが居た。


「えーと、えーと……

 竪琴!

 タイヘンなんだ。

 僕の竪琴が奪われて行方不明なの!」

「オル師匠の竪琴が?!」


「タイヘン、すぐ探します。

 僕これでも鼻が効くんです。

 任せてください」

「ホントに?

 お願いする。

 見つけて、僕の命の次くらいには大事なモノなんだ」

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