第21話 雄叫び

「やめて、やめて、ヤメテ! やめろーーーっ!!!!!」


オルが珍しく声を荒げて、叫んでも事態は変わらない。

オヤジさんが炎にくべられようとしているのだ。


その時だった。


GURURURRU!

GUaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!


凄まじい雄たけびが響き渡った。

獣の怒りの声が周り中の空間を支配したのである。


オルは驚きのあまり、脳細胞が動きを止めてしまった。

恐怖が沸いて逃げ出すべき状況のような気がすると言うのに。

身体が全く動かないし、恐怖すら感じない。

周囲をただ観察する。


ゴブリンたちは慌てふためいていた。

恐ろしいほどの数がいると言うのに、その声が聞こえただけで逃げ惑っている。

ゴブリンたちが逃げ出す原因は黒い獣であった。

全身は黒い体毛を生やした犬に似ている。

がサイズは違う。

オルの身長を遥かに超える。

それよりなにより、その頭部が違っていた。

その獣のシルエットには三つの頭があった。


左右の黒い首が猛って吠える。


GULAAAAAAAAA!

GYAOOOOOOOH!


中央の頭が鋭い目つきで睨みつける。

中央のみ顔の前面が灰色がかっている。


それだけでゴブリンはチリジリとなった。


「こいつ!

 地獄の魔犬?!

 東の方の山にいたハズだってノニ!

 逃げるよ、モノドモ」


クイーンとそれに従う多数のゴブリンは坑道へと逃げこんでしまった。

他の奴らはバラバラと岩山へ逃げていった。


オルはフと気づく。

オヤジさんが裸で倒れている。

炎の手前、燃やされずに済んだらしい。


良かった。

やっとマトモに動きだした脳みそ。

オルはオヤジさんの近くに駆け寄り、その辺に転がってた服で体を隠す。

腕も縛られていたので、ナイフを使ってなんとかする。

自分自身の体も半脱ぎにされた、しどけない恰好を元に戻す。


意識を失ってたオヤジさんが目を開ける。


「んああああ、頭がイテェ。

 俺どうしたんだ?」

「ゴブリンに殴られて、気絶してたんだよ。

 助かって良かった~。

 もう少しで丸焼けにされるトコロだったんだよ」


「……………………」


オヤジさんはオルが良かったと言ってるのに。

まったく安心した様子を見せない。

オルの後ろを指さして震えている。


オルが振り返ると。

そこには三つ首の大きな魔犬がいた。


「こいつっ!

 こいつぁ、ケルベロス?!

 東の方の山のヌシだって言う、巨大な魔物だ!

 ゴブリンなんかと比較にならないやべぇバケモンだ!!!」

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