第19話 クイーン

「ゴブリンクイーン……てなに?」

「知らんか。

 たまにゴブリンの中に湧いて来るってヤツだ。

 こいつが現れると猛烈にゴブリンが増えるって言うんだ。

 棒を使ったり、石を使う面倒な個体も増えるらしい」


「うぇー、厄介だね」

「そうだ。

 サイアクだな」


オルとオヤジさんの前にゴブリンクイーンが姿を現していた。


「グギャハハハハ。

 ウマそうなオスがいるではナイか。

 ぐふっぐふふふふ」


「美味そうって言ってますよ。

 ……喋った!?

 ゴブリンが喋った?!」

「ああ、リーダー以上の個体は人間の言葉をたまに話す、って言うんだが。

 でも人間のマネをしてるだけで実際には意味は分かって無い……ハズだ」


ゴブリンに担ぎ上げられたクイーンがオルとオヤジさんを見ている。

背丈は人間と同じくらい。

でも横幅は大きい。

オヤジさんの3倍はありそうな肉のカタマリ。


「東方にいるスモウレスラーみたい」

「スモ……なんだ?」


「東の方の国のスポーツなんだ。

 スポーツと言うかイベントなのかな。

 スッゴク体のデカイ男がぶつかり合うの。

 お腹のサイズが普通の人の3倍や5倍はあるんだって」

「いろんな国を回ってる吟遊詩人だけあって、変な事に詳しいな」

 

そのスモウレスラーの体格をしたゴブリンクイーンが言葉を続ける。


「ナカナカかわいいオス。

 食う前に交尾シテ、繁栄力を貰ってオクカネ。

 イイカイ、手下ども。

 ワタクシがコイツらと交尾スル前に傷をつけるんジャナイよ」


「………………」

「………………」


オルとオヤジさんはとんでもない顔になっている。

この世の終わりを告げられたような顔。


「…………オヤジさん……

 美味そうって評価されてますよ、良かったですね」

「…………何言ってんだ、オル。

 可愛いって言ってたぞ。

 俺が可愛いってツラか。

 どう考えてもくるくる巻き毛で、パッチリした目のお前の方だろ」


「僕はこんな細い体ですよ。

 骨と皮の間に食べられる肉なんてありゃしないですよ。

 オヤジさん、アレの言葉に意味は無いんでしょ。

 だったらオヤジさんの事でいいじゃないですか!」

「そりゃ、オマエだってそうだろ。

 オマエが交尾相手に指名されてる、って事で良いだろが」


ゴブリンに囲まれる事も忘れて。

この世の終わりから逃げようとしている二人なのである。

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