第17話 黒い獣の影

「俺が行ってくる。

 オルはここで待ってろ」


鉱山の坑道の前でオヤジさんが言う。

中に三つ子が入って行ったかもしれない。

様子を見て来てくれる。


「……でも一人じゃ危険じゃない?」

「お前が着いてきた方が危険だ」


坑道の脇道に隠れてるゴブリン。

そんなのに横から襲われた日には。

オヤジさんだって、オルを守ろうにも守れない。


「分かった。

 頑張って、オヤジさんも気を付けて」


一人で残されるオルだって心細いのだけど。

坑道の中の方がどう考えても危険地帯。

オルだって旅の吟遊詩人ミンストレル

弱音を吐いてばかりもいられない。

服の中に隠してたナイフを取り出して構える。

干し肉を切ったりするにも使える旅の必需品。


「おう、お前も気をつけろ」


そう言い残してオヤジさんは暗い穴の中へ消えていった。

残されたオルは周囲をキョロキョロ。


とりあえず、竪琴弾いてようかな。

音がしてれば熊は寄ってこない、って聞くし。

僕って、竪琴触ってると怖いとか、感じない人なんだよね。

ナイフをすぐ構えられように腰に差して、両手は楽器の方へ。

弦を指がはじいて、音が鳴り響けば。

他の事を全て忘れてしまう、オル。

根っからの音楽家ミュージシャンなのである。


最初は現在の不安な気持ちが出てしまった音色。

そこから、もっと明るく行こう、と気分を切り替える。

音楽もにぎやかに、楽しい調べへとなっていく。


周りの風景も静かに竪琴の音を聴いているようだ。

そう。

誰も気づかない。

けれど、岩山に隠れた場所で黒い存在はその音色を聴いていた。

巨大な影。

オルもオヤジさんも優に超えるサイズ。

黒い体毛を全身に生やして、灰色の耳がピクピクと動く。


おおっ、楽しい音。こーゆーの俺好き。

俺もだな。踊りだしたくなる。

……うん、素敵だね。でも僕はキレイな音の方もキライじゃないな。

……俺だってキライなんて言ってないよ。

モチロン、泣きそうになる音だってアレはアレでいいぜ。

でしょでしょ。


どのくらい弾いていたのか。

夢中になると30分でも1時間でも平気で演奏してしまうオルだけど。

さすがに状況が状況。

そこまで夢中になりはしない。

10分くらいだろうか。


演奏をやめて、オルが周りを見回すと.

辺りは人影に包まれていた。

オルの半分くらいしか無い小柄な人影。


オルは周り中、無数のゴブリンに囲まれていたのだった。

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