第10話 グッドサイン

「どうでした?」


つぶらな瞳でオル迎えたのは末っ子のロスだった。

3人は三つ子だけど、一応上から順に兄、次男、三男となってるらしい。

黒髪、黒い瞳の元気少年ケルが長男。

ケルと外見は瓜二つ、言動が少し生意気そうなベルが次男。

二人と違って灰色の髪のロスが三男。


ケルとベルは近くで追い駆けっこなのか、走り回ってる。


「うん、ダメみたいだ。

 やっぱり金属弦メタルストリングスは手に入らなかった」


「ええーーっ!」

「なんでなんで?」


あっと言う間に近くに現れたケルとベルが不満げに言う。


「それが無いとキレイな音聞けないんでしょ」

「俺がそこのカジシとかゆーのに、ビシっと言ってやろうか」

「ダメだよ、ベル」


「鍛冶師さんが悪いんじゃないんだ。

 材料が無きゃどうにもならないんだよ」


「ちぇー」

「ちぇー」

「………………」



オルは仕方なく公園へと歩いた。

屋台のオヤジさんにひとしきりグチを聞いてもらう。

そしたら、タマゴサンドを又ゴチソウになってしまった。

しかも。


「うんめぇー」

「うんめぇー」

「……美味しいです」


三兄弟の分まで。

三つ子は目を輝かせている。


「悪いね、オヤジさん。

 じゃぁ、お礼の替わりに」


屋台の近くに腰かけて。

オルは竪琴を両手で握る。

足に鈴は着けない。

ニギヤカにやるとまた殺気立った鉱夫たちに絡まれるかも。

静かな曲をやろう。


『星空の下遠く離れて』

離れてしまった愛しい人を思う歌。


指をゆっくりと弦に這わせながら、オルは目を閉じる。

ボーカルは添える程度。

夜の山を想い浮かべながら竪琴を奏でる。

木々の間に見えた星々。

暗闇の中で瞬く小さな光達。

少し不安だったな。

うーん。

昼間の公園で演奏するには淋しい曲になり過ぎただろうか。

そういえば、お腹に仔犬がくっついて一緒に眠った。

温かかったな。

目を覚ませばつぶらな黒い瞳が見つめていた。

可愛らしい生き物。


オルが目を開けるとそこには人が集まっていた。


「キレイな音だったわ」

「兄さん、やるじゃないか」


口々に言ってくれる。


「ありがとう。

 良かったら屋台のタマゴサンド買って行ってよ。

 絶品なのは僕が保証するからさ」


すかさず宣伝を入れるオルである。


「おおっ、ここのサンドは前にも食べた事あるぜ」

「美味しいのよね」


とお客さんが屋台に向かってくれる。


「毎度どうも。

 ありがとうございます」


オヤジさんが接客しながら、オルに向かって親指を立てる。

グッド! のサイン。

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