第6話 街の危機

「オマエ、宿は決まってんのか?」


オルにタマゴサンドをくれたオヤジさんのセリフだ。

決まって無い、と答えると。


「ウチの納屋で良けりゃ泊めてやるぜ」


と、屋台のオヤジさんは言った。


「そりゃ、嬉しいけど……」

「ただし、鶏小屋の横だ。

 少しばかり朝は騒がしいのを覚悟しろよ」


てなワケで宿を確保したオルなのである。



泊めてくれたオヤジさんとその奥さんは親切だった。

40代から50になろうかと言う夫婦。

オルは泊めて貰ってついでに夕食も御馳走になった。

もっともメインは幾つも食べたタマゴサンドだったが。

ついでにスープが着いたのが嬉しい。


お礼にオルも竪琴を響かせる。

好き勝手に弾く独奏協奏曲カデンツァに静かな小夜曲セレナーデ


「すげぇいい音だけどよ。

 なんだか遠慮しながら演奏してるみたいだな。

 この辺はウチの鶏の声で騒がしいのには慣れてる。

 ちょっとばかり音が大きくても誰も気にしないぜ」

「あはははは。

 バレちゃった。

 実は旅の間に弦が切れちゃって。

 これ以上切れないよう少し加減してるんだ」


「なんだなんだ。

 音楽家失格だな」

「そう言わないでよ。

 だから街に弦を買いに来たんだからさ」


「弦……細工師か?」

「いや、これは竪琴でもハープじゃなくてライアーなんだ。

 金属で出来た弦を使うんだ。

 だから鍛冶屋かな」


「金属……」

「そりゃ……むずかしいかもしれないわよ」


「ええっ?

 どういう事?」


………………

「ゴブリンですか?」


「そうよ、鉱山にたくさん湧いてるんですって」

「だからな、鉱夫どもも稼げなくて頭にきてんのさ」


この街の近くにある鉱山。

街の潤う最大原因だった場所。

ところが、ここにゴブリンが多数発生した。

鉱夫たちは鉱石を掘り出しに行けていない。

トーゼン日当も入らず。

だからイラついてる鉱夫が多い。


「だから、鍛冶屋の所にも鉱石がいっていないわ。

 鍛冶仕事をしようにも材料が無いの」


この街は鉱夫が稼いだ金を落として潤っている。

鍛冶屋が作る金属細工だって、材料が無きゃ出来ない。

街にも金が入ってきていない。


「だからか。

 道理でピリピリしてる厳ついオッサンが多いな、と思ったんだ。

 そういうワケか。

 …………じゃぁ、僕の金属弦も鍛冶屋で作ってもらえないかもってコト!?

 困るよ。

 この街の鍛冶屋を期待してきたのに。

 うわー、なんてこった」

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