第5話 お腹の音

「なんなんだよ、もうっ!」


プンスカと頬を膨らませているオルである。


公園でお客さんを集めて曲を奏でようとしていたのに。

男達にジャマされたのだ。


なんだか体格の良い男達。

この街は確か……鉱山があってそれで発展していると聞いている。

その鉱夫だろうか。

「なにノンキに歌なんか歌ってやがる」

「やめろやめろ」

スゴんだ男の腕に出来たチカラコブ。

オルの細腕の5倍はありそう。

サッサと集まっていたお客さんは逃げてしまった。

「あはははは、お騒がせしました」

とその場を立ち去ったオルだったのである。



「ちぇー」


公園の石ころを蹴飛ばしてしまう。


「やめやめ!

 気分がささくれ立つと竪琴ライアーも良い音を出してくれないよ」


無理ヤリ笑顔を作って歩き出すオルなのだ。


その後も公園を歩いて、適当な場所で演奏してみた。

ところが何処に行っても荒れた雰囲気の男達が現れてジャマをするのだ。

似たような雰囲気の男達。

力仕事をしているであろうヤツらが出て来ては、ゴツイ腕を見せつけてスゴむのだ。

お客さんも逃げ出しちゃうから、オルは全然稼げていない。



「なんなのコレ?

 吟遊詩人ミンストレルにイジワルをしよう大会でもやってるの」


既に昼もとうに過ぎて夕方近い。

オルのお腹がくぅーーーと音を立てる。

まだ昼も食べていないのだ。


「しょうがないな。

 出来るだけお金使いたくなかったんだけど。

 何も食べないワケにいかないよ」


オルはウロウロするうちに初めに演奏した場所に来ていた。

屋台を見かけて、軽食を頼む。


「タマゴを挟んだサンドウィッチか。

 美味しそうだね」

「おうっ。

 ウチのは新鮮なタマゴだからな」


「オヤジさん、一つおくれ」

「あいよ。

 ……ん……アンタ、さっきの吟遊詩人ミンストレルか」


屋台のオジサンの顔を良く見てみると、最初聴きに来てくれた人である。


「ふーーーん。

 アンタ、なかなか良い声してたな。

 曲を半分聞いた分だ。

 食べな」


と金も受け取らず、タマゴサンドを差し出してくれる。


「いいのっ?

 ありがとーー」


オルは遠慮せず、口に放り込む。

僕の演奏と歌だもの。

タマゴサンド分くらいの価値はあるさ。

サンドウィッチはアッサリ胃の中に消えて行く。


「うん、うまい。

 サイコーだよ、オヤジさん。

 良かったの?

 オヤジさんの店も繁盛して無さそうじゃない」


オルが公園をうろつく間、屋台にも人気は少なかった。

この屋台だってあまり稼げていないハズなのだ。


「良いんだよ。

 もう店じまいの時間だ。

 余ったら痛んじまうからな」


「……そっか。

 美味しいのにな。

 余らせるなんて、味の分からない人だらけの街だね」

「……まぁこのタイミングだ。

 しかたねぇや」


「……うん、オヤジさん。

 この街何かあったの?」

「オマエ、知らないで来たのか。

 この街は今な……」


オヤジさんが語りだそうとするのを遮るオル。


「あはははは。

 オヤジさん、一つ頼んでいいかい」

「なんだよ?」


「余らせちゃうなら、もう一つタマゴサンドくれない?

 実は朝ビスケット食べてから、何もお腹に入れて無くて……

 腹ペコなんだ」


くううぅーーー。

またオルのお腹が鳴ったのだった。

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