第4話 公園

オルは麓の街に入っていた。


「おおーっ

 聞いていた以上に大きい街だなぁ」


あの仔犬とはお別れして来た。

朝、お陽さまで目を覚ましたオル。

なんだかお腹が温かいな、と思ったら仔犬が引っ付いて寝ていた。

オルが山から降って歩き出すと、着いて来ようとしていた。

ダメだよ。

何処かに親犬も居るんだろ。

キミが来ちゃったらお母さん犬が哀しむよ。

と、諭して森に返した。

仔犬は灰色のシッポを身体に隠し、名残惜しそうに去っていった。

一人で山道を下り、街に辿り着いたオルなのだ。


石畳の大通り。

行きかう人は多く、繁栄してる街だと思うのだが。

なんだか、人々の表情が暗い。

どこか張り詰めた雰囲気も感じさせる。



「同業者がいないな。

 しょうがない。

 この辺でやってみるかね」


他に吟遊詩人ミンストレルや芸人でもいてくれれば、この広場で演奏して良いと分かるし、客の食いつきも参考に出来るのだけど。

大通りに面した広場には屋台が少し出てる程度。

人気も少なく、大きな街の公園には付き物の芸人も踊り娘も見当たらない。


「まぁいいや。

 商売敵もいないって事だもの。

 お客さん独り占めを狙えるかな」


「静かだからチョッピリ賑やかにいくかね」


袋から取り出したのは鈴だ。

鈴をオルは両足に幾つか取り付ける。


ベンチ替わりの平らな石に腰かけて、竪琴を抱え込む。

両手でシャランと弦をはじきながら、足でリズムを取る。

賑やかな鈴の音が響き、竪琴が伴奏を奏で始める。


本来、竪琴だけの美しい音色が好きなオルなのだが。

お客さんを引くためなら多少の工夫も厭わない。

昼時を少し過ぎているせいかもしれないが、街の規模に対して公園にいる人数は少ない気がする。


朝はビスケットの残りを食べただけ。

屋台でなんかしら食べたいオルなのだ。

そのためのお金も稼がないと。


竪琴をかき鳴らし、鈴の音を響かせる。

ようやっと人が少し集まってくれた。

屋台で売り子をしてたオジサンも来てくれてる。

オルは客を迎えながら、微笑みを浮かべる。


さてそろそろ、歌も加えようか。

足の動きを止めて、両手でしっかりと竪琴を抱え込む。

すうっと胸に息を吸い込んで咽喉から、高い声をだす。

歌うのは女性にも男性にも人気のある歌。

天馬ペガサスが飛んで行く』

美しくも勇壮な調べ。


「きゃーっ、キレイな声」

「おっ、なかなかやるじゃないか」


女性客が顔をほころばせ、オジサンまでニヤリとしてくれる。

通りを歩いてた男達も近づいてくるのが見える。


へへっへー、そうでしょ。

口には出さないが、嬉しくなってしまうオルである。



ところがである。

男達がいきなり大声を出すのだ。


「うるせーっ!

「なにノンキに歌なんか歌ってやがる」

「やめろ、やめろ!」

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