第3話 来訪者
「ハヴェルってば、昔からああなんですよ。まったく嫌になっちゃう」
「でも彼は凄いよね。あの若さで迎撃課に引き抜かれるなんて、最年少じゃないかな? それにルドルフも目を掛けているっていうし、いずれは隊長になるかもね」
「剣の腕があろうとあの性格ですよ? それなのに、他の女の子には親切にするから人気があって、他の課の子達から『ルディは素敵な幼馴染が居て羨ましい』なんて言われるんです。みんなハヴェルの本性を知らないからそんなこと言うんだわ!」
「ハヴェルのあの態度はルディだからで……。あぁ、ほら、ルディ落ち着いて。新しい来訪者が来たようだよ」
ブルーノに促され、ルディは気持ちを切り替える事にした。
扉の外から話し声が聞こえる。新しい来訪者が案内されてきたのだろう。
どんな来訪者なのか、どんな言語を喋るのか。
ルディ達に任されたという事は敵意は無い安全な来訪者なのだろうが、かといって友好的とは限らない。
来訪者の中には敵意は無くとも警戒心の強い者もいるのだ。とりわけ異世界にきたばかりなのだから見る者全てに警戒し怯えるのは当然で、そういった者達を落ち着かせて話をするのも歓迎課の仕事である。
「まずはコミュニケーションですね」
「来訪者は異世界に来て何も分からない状態だ、出来るだけ彼等の不安を取り除いてあげよう」
「そうですね。まずはこちらに敵意が無い事、私達が友好的である事を分かってもらうのが第一ですね」
優先順位を確認し、ルディが意気込む。
それとほぼ同時にガチャと音がして扉が開かれた。入ってきたのは来訪者を案内する職員、その後からゆっくりと現れるのは……。
身の丈は大人ぐらいだろうか。だが顔も手も足もなく、その境目も何もない。
ぬるりとした大きな軟体だ。半透明の水色をしており、半分より上部には濃い青色の大きな瞳が五つ着いている。その目がきょろきょろと周囲を見ている。
人型どころではない、軟体だ。
今までに居なかった来訪者の姿に、これにはルディも目を丸くさせてしまった。
だが来訪者である事には変わりはない。そう考え、ルディは上擦った声で「あ、あの!」と話しかけた。
「あの、わ、私、ルディ・コットールと申します。貴方の身の回りの世話をさせて頂くことになりました。不安なこともあると思いますが、私達に任せてください!」
「……」
「どんな生活がしたいか、どんな家に住みたいか、相談に乗るのでなんでも話してくださいね!」
「…………」
「す、素敵な瞳ですね。私と同じ青い瞳!」
「………………」
ルディが必死に話しかけるも、来訪者は無言だ。ゆらゆらと軟体が揺れるだけである。
言葉が通じないのだろうか。それとも通じていて、言葉ではなく別の方法で伝えようとしているのか……。
来訪者は様々で、必ずしも言葉を発して意思の疎通をするとは限らない。ジェスチャーを主としたり、中には脳内に直接語りくる者もいる。
「せ、先生、私では通じないみたいです。先生が他の言語で話してみてください」
ルディがこの場をブルーノに託そうとする。
だがその瞬間、来訪者がぶるりと大きく震えた。
『ドゥ……』
「ドゥ?」
一瞬発した来訪者の声に、ルディはもちろんブルーノも来訪者へと注視した。
来訪者が再びぶるりと大きく震える。
そうして五つの青い瞳すべてでルディを見つめると……。
『ドゥ、ドゥエドゥエ』
と、話しかけてきた。
……多分、話しかけてきた。
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