第5話 現場に子供は来てはいけない。
駐在さんとハイダさんは、〈怪盗シャノワ〉に案内されて、地下通路を歩いていた。
「確認します、ハイダさん」
〈怪盗シャノワ〉は、事務的に。
「必要なのは、わたしの飛行船ですね?」
「はい」
「連絡をします」
地下通路にはインターホンが備えられていて、〈怪盗シャノワ〉は、そこからどこかへ一言二言指示を送った。
(まだ、手足となって動く部下がいるというのか)
駐在さんは内心動揺していたが、今はそれを追求するところではない。
「さあ、わくわくしてきましたね」
怪盗はそういうのだが、駐在さんとしてはそんなことはない。
「いや、緊張してきましたよ。
島民を巻き込みそうな島での取引じゃなくてよかった、と、それだけです」
「わたしの好敵手が、なんと控えめな。
ハイダさん。取引に現れる連中はわかっていますか?」
「Fと、Kだね」
「いつも船上で取引する連中ですね」
これから向かっているのは、飛行船の格納庫だということだ。
この島に、そのようなものがあることを、駐在さんは知らなかった。
「わたしの準備したチームは、◎◎で待機している」
「どんな作戦です?」
「君の飛行船を頼むんだ、わかっているんじゃないのかい?」
ハイダさん?
駐在さんはそのとき、ようやく事態を察した。
「空から奇襲を? 暗闇の中?」
「その通り」
「ますます、わくわくしてきたなあ」
〈怪盗シャノワ〉は、完全に〈怪盗〉に戻っているようだった。
「……行きましょうか」
駐在さんも、覚悟を決めた。
* *
「マーくん」
こっそり家を出て、港のほうに自転車を飛ばそうと思ったらお母さんに見つかった。
「寝たんじゃなかったの?」
「ええと、お父さんは?」
「お仕事」
「心配になってさ」
「寝なさい」
ちぇ。
と、思ったら、お母さんが手招きしている。
「これこれ」
駐在所の、防犯カメラの部屋。
これも、普通の駐在所にあるのかどうか、わからないんだけど、こののんびり島の駐在所にはある。
島内のいろんな場所に設置されたカメラの映像がリアルタイムで確認できる部屋だ。
「お父さんが心配なら、これでも見てなさい」
え、でも、どこに映るんだろう。
海の近くかなあ。
「多分ここなのよ」
お母さんが差したのは、誰も近寄らない岸壁だった。
自殺者を心配するカメラなんじゃないの、それ。こわいな。
「まあ、見ていなさいよ」
お母さん。なにか知っているのか。僕に隠していることがあるな。
しかし、防犯カメラをずっと見守るというのは大変なことだ。
ドラマとかと違って、効果音とかないからね。
ずっと静かな夜の岸壁を、お母さんと麦茶を飲みながら眺めるだけ。
眠くなって……いやいやいや、ここまできて、引けないでしょう。
……眠……いやいやいやいやいや、がんばるぞ!
「ほら」
お母さんの声ではっとした。
暗い岸壁。
その中腹あたりに、何かが開いた。
「……なに?」
「秘密の飛行船」
お母さんは当たり前みたいに言うけど、なにこれ? 特撮みたい。
中腹に出入り口のようなものが開いて、中から大きな黒い丸い影がふわり、と海上に向って飛んで行った。
「お父さんが乗ってるの?」
お母さんは、塩せんべいをかじりながらうなずく。
「すごいでしょ」
なに? なに? なに?
お父さん、なにやってるの?
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