第4話 マー坊、夜更かし大作戦

「ふふふ」


 そして今、僕はパジャマを着て、自分の部屋にいるんだけど。


 さっき、駐在所に誰か来たみたいだ。

 でも、お父さんと話してるだけみたい。あんまり事件性はなさそうだ。


「いよいよだな」


 こっそりと怪盗シャノワの靴に、僕は仕掛けをしてみたんだ。

 寝る前に、これからそのテストをする。


   * *


「えっ」


 マー坊のお母さんは、駐在所に持ち込まれる急な用件なんて慣れっこだったけれど、これは少し驚いた。


「すいません奥さん。ご無沙汰の上、こんな」

「いえいえ」


 旅行者のような風体で駐在所を訪れたこの人物。

 ハイダさん。夫の先輩で特殊捜査のベテランである。


「気を付けて行ってください」

「マー坊は寝てるかな。頼んだよ」

「大丈夫。

 あ、でも気を付けてください」

「え?」

「マーくん、早く寝たふりをして、何か夜中まで作っていたみたいだから……」


 二人は、階下の〈怪盗シャノワ〉が保護されている部屋へ向かう。


「……やあ。やっぱり来たね、ハイダさん」


 ベッドに転がっていた〈怪盗シャノワ〉は起き上がりながら言った。


「久しぶりだね」


 ハイダさんも、落ち着き払っている。


「さっきは〈大寅屋〉で、驚いた。

 でも、あなたがお出ましということは、なんかあるんでしょ?

 ……ちょっと待った」


〈怪盗シャノワ〉、ベッドの下に置いた靴の左側を拾い上げる。

 そして、そのかかとに向って、


「マー坊、聞いてるか?

 もう寝ろよ」


   * *


〈マー坊、聞いてるか?

 もう寝ろよ〉


「……ええっ?」


 盗聴器テストの出鼻をいきなりくじかれてしまった。

 しかしここで変な返しをしたら、ますます僕の立場があぶない。


「……こちらは、のんびり村コミュニティラジオです。お休み前のみなさんに、すてきなひとときを……」


〈こら! なにやってるんだ!〉


 お父さんだ!

 あわててスイッチを切ってしまった。


 ……しまった……


   * *


「奥さんのにらんでいたことが、当たっていましたね」


 ハイダさんが感心する。


「いつもこうなんですよ」

「いつも?」


〈怪盗シャノワ〉の言葉を駐在さん、聞き捨てならないと思った。


「いつも。

 そうやって、わたしと遊んでいるんです。

 大丈夫。マー坊、ちゃんと踏み込んじゃいけない線は、わかってますよ」

「……電子工作の道具なんか買ってやるんじゃなかった……」


 駐在さんの後悔はさておいて。

 ハイダさんは手短に、と、話し始めた。


「実は、内部通報があってね。

 明日の早朝三時に、この島の沖で拳銃の取引があると」


 あと五時間ほどのちだ。


「ハイダさんも、また危ない現場、好きですねえ」


 駐在さんがあきれる。


「実はもう、現場を押さえるためのチームを待機させている。あとは、」

「ええ。だいたいわかりました」


 みなまで申すな、と〈怪盗シャノワ〉、うなずきながら。


「では。

 こっちも線、外しておこうかな」


 靴のかかとにあるマー坊の仕掛けを少し触って、


「どうぞ」


 ベッドをよけると。

 そこの床にはもうひとつ、それとわからない扉がある。

 マー坊はまだ知らない。


「嫌がらせですよね?」


〈怪盗シャノワ〉は、普段の特徴のないおじさんの顔から、〈怪盗〉の顔つきになっている。


「わたしの拠点の真上に、駐在所なんか建ててくれて」


 ハイダさんが、にこにこしている。


「しかも今回、わたしの好敵手がここの配置になるなんて。

 すっかり家庭に入っての、幸せを毎日見せつけられてますよ」


 今度は駐在さんが、にこにこしている。


「では、どうぞ」


 さらに地下へ向かう階段が、そこにはある。


   * *


「えっ。午前三時に、沖で?」


 ぷち、っと、線が切られた。


「……ちぇ」


 マー坊はふててベッドで仰向けになり天井を見上げるが。どうもこれで眠れなくなった。

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